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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼34

 森の中を行く二台のピンツガウアーは道なき道を進んでいた。元々、道路以外の場所も行けるようにあらかじめ改良していたので難無く走る事が出来たがそれでも何かにしがみ付いていないと吹き飛ばされそうな揺れだった。


「この後どうする?闇雲に走っても森は出られないぞ!」


 後部座席からの声にキリはギアを上げる。


「あんまり喋んないで舌噛むわよ!今、前の1号車、アリアが"座標"を掴んで案内してる。沢山いるって言ってたから多分救助に来た"西警隊"よ。彼らと合流するしか無いわ!」


「しかしだな…!」


ガタンゴトンと車が揺れ、誰も口を開けなかった。


(父さん…)


マサノリは前を走る一号車を見つめた。

聞きたい事、知りたい事が山ほどある。


(でも…)


今、自分が何かを知れたとしても何も出来ない事は良く分かっていた。あの時、どちらを選んでいてもダンテを助ける事も奴に復讐をする事も出来なかった。

ギュッとマサノリは拳を握り締めた。


(何か…俺に力があればッ!)


イカレ…イカレ…ワレラノイカリ…イカレ…ククク…


「何だ?」


頭の中で声がする。

ガタンっと強く揺れた。


「マサノリ!」


ルシファが倒れかかったマサノリを支えた。彼女にはこの揺れはなんとも無いようだった。


「ご、ごめんルシファ」


「マサノリ、だいじょうぶ?ぐあい、わるそう」


大丈夫だよと言いかけた時だった。

前を行く一号車が急ブレーキをかけた。


「うそ!」


キリが慌てハンドルをきり一号車をよけた時だった。

二号車の前に剣を携えた女が現れ剣を振りかざして車をとめた。二号車はそのまま前の宙を舞い、岩場にぶつかって止めた。

車からアリアは出た。二号車は辛うじて形を保っていた。


「中の彼らは無事なようですね」


「珍しい、"天使族"か。"異界"ではない違う世界の住人か…珍妙なものが沢山いるなここは。やはり"魔の森"と言われるだけはある」


「そういう貴方は何者ですか?」


その女は剣を納めた。


「その"軍服"に袖を通していながら私を存じないとは、おかしな事を言う」


「あ、貴方様は…"剣聖"様…」


アリアの後ろからエルーが神妙な顔で出てきた。アリアは未だわからないという顔であった。


「"剣聖"…アルプス共和国の最高権力者の一人にして、"西方警備隊"のトップ」


「紹介ありがとう、つまりはその黒い服を着るキミの首領という訳だ」


「私のマスターはタカ=アルヴェロンだけです」


アリアの言葉にガブリエッラは少し眉を動かした。


「で、キミたちは…ユフォの連れ?彼女は?気配がしないけど」


「わ、私たちとは…別行動です…ぐっ、現在正体不明の"最上級魔族"と交戦中…」


奥の一号車から辛うじて出てきたキリが答えた。脇腹を負傷していた。


「おや?ユフォの部下ならあれくらいの衝撃を何なくこなせると思ったのだけれど」


ガブリエッラは特にキリなどには興味も示さず反対側の崖の方を見た。崖は少し小高い所にあり、一帯を見渡せた。


(あのまま進んでいたら、落ちてた…)


「あれが見える?」


ガブリエッラに夜風が当たった。剣聖の一見派手な衣装は脱ぎ、紺の肌着に近い服装で、その白い肌が月に輝いていた。薄水色の髪が風に靡いていた。

その風は、下から来ていた。森を燃やす炎が作り出していた。


「なんだ、これ…」


何とか車から出たマサノリは頭を打って気絶したルシファを抱えながら見える限りの暗闇が一つの赤い輝く線によって白く、朱く様変わりしていくのを目の当たりにした。


「その右眼、キミが"アルヴェロン家"の忌み子か」


ガブリエッラはマサノリに目を向けると少し笑った。


「なんだこれは。ユフォの目にかなった者たちと期待していたのに、とんだ肩透かしを食らったな。部下も、カードも中途半端じゃないか」


「なんなんだ、これは!」


マサノリはガブリエッラに叫んだ。


「作戦だよ。いや、開墾かな」


「テメェェ!!」


ダンテが空から棍棒をガブリエッラに振り下ろした。

半歩だけ動いてガブリエッラはそれを避ける。


「"大鬼オーガ"か…しかも"免罪体質者"の」


「ヒトノ、シキイニ、ドソクデ、ハイリヤガッテ!!」


脇腹から緑の血を流しながら棍棒を振り回すダンテの一撃一撃を華麗に避けるガブリエッラは剣の柄に手を掛けた。


『草祓い』


キィーンという音と共にダンテの動きが止まった。


「ガッ…」


『凪』


 剣を抜かず、ダンテにガブリエッラが手を添え小さく唱えた瞬間、赤、青、黒の三本の閃光が辺りを走りダンテの全身から血飛沫が舞った。


「ブハッ…」


ダンテは膝から崩れ倒れた。


「だんて…?」


「!」


 マサノリはハッと自分の腕の中を見た。ルシファが目覚めていた。


「だんて?だんて?だんて!?」


 状況を理解したルシファは凄まじい力でマサノリを振り解き、起き上がってガブリエッラの元に向かおうとした。だが、すぐに数人のサトウの部下たちに頭から取り押さえられた。


「はなせ!!うそつき!!」


「申し訳けございません」


 部下の一人が前に出るように頭を垂れた。


「問題ない。もう一人の"免罪体質者"が居たとは。それは、"案内役"か?」


「さようでございます」


「まだ、"必要"か?」


「はい」


 後ろではフーフーとルシファが抵抗していた。

ルシファの耳元に部下の女性の一人が前には分からないように密かに口を当てた。


「ごめんなさい…お願い、今は静かにして?」


 ルシファは声の方を目だけで見た。暗闇でよく見えないが、女性の顔は緊張していた。とても危険な猛獣を相手にしているような。


「お願い…」


ルシファはその女性の恐怖心が明らかに自分たち"魔族"ではなく、"けんせい"と呼ばれた女に向いていると感じ、何かを察して少し抵抗を緩めた。


「ありがとう」


「そろそろ時間だ。私は行くが、キミたちはどうする?」


「はっ、このまま"本隊"と合流したいと思っております」


「そう、本隊はすぐ近くに待機している。すぐに合流出来るだろう」


「ありがとうございます…貴方様は、どちらへ?」


「私はあの"幽鬼ナズグル"の対処をしている鑪場殿の加勢に向かうよ」


「さようでございますか」


『草薙、形態固定』


ガブリエッラの周囲を走っていた三本の閃光の輪が集約し、一振の剣になった。


(あれがユフォ隊長と同じ"契約兵装"の最高傑作の一つにして当代の"形代"、"草薙"か…)


『草薙、形態変化、十束』


ガラス質の両刃の大剣にいくつもの光の亀裂が入り、刀身が砕け、破片が十の筋へと変わる。筋はガブリエッラの周りを包むとその華奢な身体を宙に浮かせた。


「では、ユフォに宜しく」


返事を待たずガブリエッラは崖の下へ飛び去った。

風が舞い、ダンテの血がマサノリの頬に少し飛んできた。


「行ったか…すまんな、お嬢さん…」


サトウの部下の一人がルシファを立たせていた。ルシファは少しずつダンテに歩み寄り、側に寄って恐る恐る触る。


「もう、いない…」


冷たく、風がダンテを包み、ルシファの泣きじゃくる声が、崖の下の火の海で焼かれ殺されている数多の断末魔の叫びと一体となり、森にこだました。




 その声は"祈り"となって聴こえていた。

森深く、先程マサノリたちが来た人の頭の形をした"岩"は静かに、祈りを聞き届けた。

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