魔森巡礼29
副隊長によって元の場所から大分飛ばされたキリたちは夜の闇の中、森の端に近い廃道を走っていた。
すぐ側の魔の森は未だ静けさを保っているが、車内の誰もがその異様な気配を感じとっていた。
「それで、これからどうする。今階級が一番高いのは君だ。僕は君に従うよ」
「………」
キリは黙り込んでいた。助手席のエルーにもそれはわかっていた。
(重いな…)
キリの額からは冷や汗が流れて止まらなかった。
「な、なぁ、キリさん。」
突然、後ろから声をかけられてキリは急ブレーキを掛けた。後ろを走っていた二号車はそれを華麗に避けて道側に止まった。
「何!」
シートベルトに抑えられて苦しそうだが、後ろにキリは叫んだ。声を掛けたサトウ隊の男はキリの席の後ろに頭をぶつけたのか額を抑えながら前に顔を出した。
「さっき、さっきなんだが後ろの車の運転手さんからモールス信号で提案が来てな…」
話している時だった、運転席のドアがノックされた。
「何!!」
キリが振り向くと外にアリアとメリュがいた。
「提案があります。出てきて下さい」
キリは深く息を吐いて外に出た。
「で、提案って?」
アリアは「はい」と言って森の方へ指をさした。
「この方向、約十二キロメートル先にマサノリがいます。そこから北の地点にカーラもいます。どちらも存命しています。今は誰かといるようです。」
「アンタ、さっきも似たような事言ってたわね…"天使"の力か何か?だから何?私たちに助けに行けって言うの?」
「はい」
「この森が何かわかっているの?"第一級危険地帯"なのよ?入れば確実に誰か死ぬのわかる!?」
「はい」
「キリ、落ちつこう?」
メリュが二人の間に入った。しかしキリは止まらずアリアに言い寄る。
「アンタ、命が惜しく無いの?」
「わかりません」
「自分の命が大切かもわからないのに私たちに命を捨てろって?馬鹿じゃないのアンタ!」
「やめてっば!キリ!」
メリュはキリを手前で止めた。
「私にはわかりません。でも、貴方達は彼らを救う為にここに留まっています。なら、そうするべきです」
「いかれているわコイツ。もう限界だわ!」
「だから、やめてっテ!」
ボワっと叫びと共にメリュから煙が上がって、小さな体が巨大な竜になった。
「オネガイ、キリ、ワタシモクルシイ」
メリュの下敷きになるように倒されたキリに大粒の水滴が落ちた。
「メリュ……ごめん私…」
キリの顔が崩れた。アリアは無表情のまま森を見ていた。
「アリアさん」
駆け寄って来たのはエルーだった。
「はい」
「確かに僕たちは…任務だから動いている。その為には人材…いや仲間が必要不可欠だ。特に僕らのような小さな隊にはね。時には家族のように接する事だってある。窮地に陥ったら互いに助け合う、それは当たり前の事だ」
「だけどね」とエルーは付け加えた。
「どんなに誰か大切でも、僕らは何処かで自分が一番大切だって思ってる。命なら尚更だ…けどキリは今自分の命と僕ら全員の命を預かっている。こんな危険な場所で自分の責任にベストを尽くそうとしているんだ。今の君には分からなくてもいい、その意見も正しい。だけど少しだけキリの力になってくれないかな」
アリアはキリの方を見た。人の姿に戻ったメリュとキリが声を殺して静かに泣いていた。
「本当は大声で泣きたいんだ。こんな危険な場所でなければね」
「わかりました」
アリアは無表情のままキリに寄った。
「キリ」
「何よ…」
「先程は申し訳ありませんでした。主張を訂正します。貴方は何をしたいですか?」
アリアの言葉にキリは腕で顔を隠したまま少し沈黙した。
「不器用な謝り方ね…」
キリは自分の顔を手で叩いて起きた。
「あの二人以外、他の人の場所はわかる?」
アリアは首を横に振った。
「そう…」
「生きているものの場所しかわかりません」
キリは深呼吸をした。彼女の周りに他の人も集まっていた。
「皆、ごめんなさい。私は彼らを助けるわ」




