魔森巡礼28
突如現れた"魔女"を名乗る女、ギャビレットが放った"雷"は一帯を焼き払った、はずだった。
「大丈夫か?全員いるよな?」
「問題ないよ。さすが」
「感心してないでやるわよユフォ」
前に出ていた三人、ユフォ、パバロッティ、副隊長、それから二台のピンツガウアーは無傷だった。
「"絶対障壁"も次は防げないぞ!」
パバロは紙でできた白く細長い杖を用いていた。
「なら攻勢に移行するまで。二人ともフォロー宜しく」
ユフォはすでに"倶利伽羅"を解放していた。二匹の炎の龍が廻りながら彼女についていく。
「アハハハハ!良くやるわね!いいわ!面白くなってきた!」
宙に浮いていたギャビレットは再び手を天にかざす。
「そっちが炎なら私は風でいくわ!」
腕から先が灰色の暴風雨に変化して天を包む。
『三転身火、降三世』
ユフォの二匹の龍が叫んだ。形を崩して炎へと還り、ユフォに集まっていき、首の後ろで輪の形になった。
「さぁ、いくわよ!」
まるで嵐そのものが三人に襲いかかるように迫ってきた。
『大円輪!!』
すかさず刃を振り上げたユフォから超高温の熱だけがその嵐に目掛けて放たれたのだった。
振り下ろされた風の鉄槌と凝縮された熱の一閃が衝突した。辺りの木々と地面が融解しながら宙に舞っていく。副隊長は杖を地面に付けた。
『水を統べるもの、ウルマよ、汝その黒き兜を持って我らとかの世を分け隔てよ!』
杖から黒い水滴が落ちると漆黒の影が広がっていく。後方の車やキリ、メリュたちまで広がるとドーム状に闇が立ち上って囲んだ。車の中にいたサトウ隊の一人が窓越しに驚いていた。
「あれが有名な"諸力使い"か!初めて見た」
「エルー、運転代わって!」
慌ただしく運転席に入ってきたのはキリだった。
「二号車はどうするんだい?」
「アリアが運転出来るみたい。役立たずよりはマシだから私の運転に付いてくるように言っておいたわ。メリュもいる事だし任せましょう…今は何をしてもここを離れるべきだわ」
急いでエンジンを掛けて全開でアクセルを踏む。
「いいのか?隊長置き去りにして?」
後ろにいた一人がよってきた。
「大丈夫、あの三人は全員、"最上級討伐経験者"よ。あの程度なら問題ないわ。それよりも…」
キリはバックミラーを見た。薄暗く見えずらいが、ユフォが二撃目を放とうとしていた。
「あの手加減下手に巻き込まれて全員お陀仏になる方が大変よ」
同時にギアがトップに入り全速力で道無き道を突き進んだ。
「待ちなさい!」
それをギャビレットが見逃すはずが無かった。右足を振り込むと足が巨大な刃と化しそれを蹴り上げた。
「マジか?!何でもありかよ!」
轟音と共に伸びた刃の足が溶け冷えて固まった黒い大地を引き裂きながら車に進む。
『ヴァーナの鳥よ!』
副隊長は闇のドームから出た車列に向けて左手を向けて唱えると、ドームの一部が鳥の様な形になって飛び出し、車列を取り込んで羽ばたき刃の足を回避しつつ飛び去ってしまった。
『範囲固定』
その隙を見計らうようにパバロが動いた。
ギャビレットの周りに六つの紙片が囲むように並んでいた。
『蜘蛛瀑縛!!』
合図と同時に紙片が糸のようにほどけてギャビレットを覆った。
「何よこれ!鬱陶しい!」
ギャビレットは自身の全体を炎に変えてすぐに紙片を焼き尽くした。
「火にまで変身できるのか!だが…」
ギャビレットが体を元に戻した瞬間、すぐ目の前にユフォが刀を振りかざして来た。その刀身は金色の炎を噴き出していた。
『金剛夜叉』
「ぐっ……!」
反射的にギャビレットは防御姿勢をとる。
『刃刄!』
振りかざした刃がギャビレットとに衝突した瞬間、ユフォの背後に猛烈な炎が吹き上げ、同時に刀身の輝きと何十にも折り重なった空気の層によってギャビレットは森の方へ吹き飛ばされた。物凄い土煙を上げながら止まる事なく木々を薙ぎ倒して吹き飛ばされていく。
「ひぃえ〜相変わらず手加減ねぇな隊長」
パバロはそれを見ながら副隊長の所まで来た。
「"兜"、解除し終わったか?」
「えぇ。皆はどこまで行けたかしら…慌てて拡張しちゃったのよ」
「本当かよ…まぁ一応軍人の集まりだし大丈夫だろ。それより…」
「二人共、怪我無い?」
「大丈夫だ。どうする?」
「荷物はキリに託す。予定は一時中断。私たちはあの脅威の排除にあたる。かな…」
「了解。なんなのあれは?」
「さぁ…でも確実に"最上級"以上だろうね。絶対また来る」
三人が見つめる先、森の深く、土煙の先に緋くドス黒い殺気が立ち込めていた。




