魔森巡礼26
森の端が吹き飛んだ。轟音と共にはるか上空まで土煙が舞う。
「全員、戦闘態勢。非戦闘員は車に乗って」
ユフォの冷静な声に副隊長、パパロッティが前に出た。他の隊員とアリアは乗車し、キリとメリュは車を守る様に後方に回った。
ユフォは"倶利伽羅"を抜き、副隊長は携帯式のステッキを、パバロは懐から皮表紙の本を取り出す。
やがて煙は収まり、その中から女がでてきた。ユフォよりも紅い緋色の長い髪、顔の数倍はある大きな帽子、中世の庶民の女性が着る様な出立ちの女はユフォたちを見るとギラついた鋸の様な歯を見せて笑った。
「なによ、うしろでこそこそしてると思ったら雑魚ばっかりじゃない」
「ギャビレット様…ハヤク行キ過ギデス…」
女の後ろから黒い影が現れた。黒い布を重ねたようなむっくりとした図体に鹿の頭蓋骨の様な仮面をしていた。
「アンタが悪いんじゃないアガルタ。アタシはマグメルの馬鹿が違う連中に向かっちゃったから少し急いだのよ。もう少しマシな指揮をしてよね」
「モ、申シ訳アリマセン…」
「謝罪なんかいらないわ」
ユフォは二人を見て戦慄していた。
(この威圧感、どちらも"最上級"クラスかそれ以上だ…)
本来、例外を除き人間は魔力を持たない。だが"魔族"が持つ魔力を感じとる事は訓練さえ受ければ誰でもできた。もちろん軍役であるユフォたちも訓練は受けている。
「さてと、ねぇアンタ、そこのアタシとキャラ被りしてる"赤い髪"のアンタ」
「何でしょうか?」
「ここにいる"星"をアタシに頂戴」
「"星"?何を言っているのかわかりませんが」
「あーもー面倒臭いわね!なんか変な奴その車の中にいるでしょ?それをよこしなさいって言ってんの!」
ユフォは後ろに気をやった。この女が誰を指して"星"と呼んでいるのか彼女にはわからなかった。
「さぁ、とりあえず名前もわからない人には何もお答えできません」
「あーもう!苛つくわアンタ!」
女は髪をクシャクシャ掻いた。
「いい?アタシは"恐怖の魔法使いオズ"が率いる"虹国"の幹部、".北の魔女"ギャビレットよ!よく耳に刻み付けておきなさい!」
ギャビレットは腕を天に上げた。
「ギャビレット様!」
「煩いアガルタ!全員丸げにしてから自分で探すわ!」
ギャビレットの腕が青白く光り、轟音を立てながら枝のように上に伸びていく。それが何かユフォたちにはわからなかった。もう半世紀も前にこの世界から消え去ってしまったそれは"雷"と呼ばれていたことも。
「我が"万物変化"を味わいなさい‼︎」
ギャビレットが腕を振り下ろした瞬間、夜陰の森の端は熱と轟音に包まれていった。




