魔森巡礼22
マサノリ達を乗せた列車が既に通った線路にガブリエッラは立っていた。後ろには巨大な武装した列車と木々を薙ぎ倒して進む何十台もの戦車が連なり、その数倍もの歩兵が付いていた。彼らの通った魔の森は焼けた木々と魔族の屍だけが積み重なっていた。
「魔の森といえど、今の我々の戦力の前には無力ですな。私が提案した甲斐はありましたよ」
ガブリエッラの横には鑪場が小さな魔族の頭部を掴んで眺めていた。
「元々、私も含めて皆考えていた事だ。建国当時とは国力が違うのだからな」
ガブリエッラは鑪場に見向きもせずに線路を見つめる。普段の厚く着飾った衣装を脱ぎ捨て、背中を大きく開けた肌着に近いような紺の服装で、血に濡れた得物を手に歩き出す。
横では森と魔が悲鳴をあげながら彼らの軍団に焼かれていた。
「今はどのあたりだ?」
ガブリエッラの後ろに老齢のエルフが寄る。
「剣聖様、今はボジョレー山脈を控えたロマネシュトランと呼ばれていた地区でございます」
「おや、ここら辺はかつてワインで有名な所だったそうですよ。何処かの地下にまだビンテージ物が眠っているかもしれませんね。探してみます?」
「構わない、全て焼き払え」
「かしこまりました」
鑪場の提案に全く興味がなさそうなガブリエッラは剣を抜き歩き進む。
「報告では列車はこの線路の先、クリュニーと呼ばれた地点で"魔域氾濫"にあったそうだ。貴殿の求める品もそこにあるだろう。急ぐぞ、"悪太郎"を解禁しておけ」
『毒よ、死を喰らい、火は生を駆けよ』
鑪場の持つ紫の拳銃から紫の炎が溢れ出た。
『草薙、形態変化、十束』
同時に唱えたガブリエッラの剣の刃が崩れ、十の光の束になってガブリエッラを包むと彼女の体を浮遊させた。
「それが"草薙"ですか。当代の"三神器"の一つ…」
ガブリエッラはそのまま高速で線路を突き進んでいった。
はずだった。
「はっ?」
突然、森から吹き荒れた風にガブリエッラが吹き飛ばされ、鑪場のすぐ後ろの地面にめり込んだ。衝撃で当たりの戦車が吹き飛ばされていった。
「剣聖様!」
部下たちが、慌てて駆け寄ろうとするのをガブリエッラは手で静止した。額からは血を流し、左腕の骨は折れていた。
ギロリとガブリエッラは風の来た方向を睨んだ。まだ何も見えないが向こうから唯ならぬ殺気を感じる。
(この森の連中、向こう側の奴らとは明らかに違う者の攻撃だ…)
ガブリエッラは先のフジでの出来事を思い出していた。
(この殺気、この冷気、"奴"によく似ている。という事は…!)
ガブリエッラはバラバラに散らばっていた"草薙"を元の剣状に戻した。
「鑪場殿、予定変更だ。問題ないか?」
「えぇ…この殺気、そこら辺の雑魚と明らかに違う。心あたりでもおありで?」
「あぁ…"幽鬼"だ…」
「なっ…ナズ…」
森の先、木々の間の闇が蠢く。
「全部隊に通達!"最上級魔族"に備えよ!」
砲音と悲鳴が止み、静寂が訪れた。
そして、数多いや何千何万もの黒い犬が襲い掛かってきた。森の魔族たち、兵士達が次々に喰い殺されていく。
「このっ!」
兵士の一人が刀で犬の口を押さえた。しかし刃はまるで水に振るったかのように顎を通り抜けて、犬の牙は兵士の首の頸動脈を捕らえた。
(物理攻撃が効かない?私の精鋭達がこんなにもあっさりと?)
紫炎の弾丸と悪魔の硬い皮膚の腕で応戦していた鑪場は近くのガブリエッラを見た。彼女の"草薙"から鋭い水流が勢いよく放たれ、黒い犬たちを切り捨てていく。
(しかし"草薙"の"流水刃"はこいつらを切り裂いている。私の皮膚も有効だ。この違いはなんだ?)
考えている暇はない。この無限に湧き出す黒い津波に飲み込まれないようにするので手が一杯だ。
("悪魔化"を!…いや、それよりも今は…)
犬を片手で押さえて投げ飛ばし弾丸を叩き込む。
「お前達!何をびびっている!馬鹿されるぞ!隊列を組み直せ!」
鑪場の叫びと共にアルプス軍の中でもエリート中のエリート集団である"陸軍第一兵団"は瞬時に体制を組み直し怪物に突撃していった。
怒号と悲鳴が波の様に森に響いていった。




