魔森巡礼19
魔の森を進む列車の先頭部では煙が上がっていた。
車両内、対峙する二つの光源が照明器を落とされた暗い中で輝き続けている。
一方はこの列車を取り仕切るサトウ准将の持つ"曜変天目"と呼ばれる契約兵装であり、青のラインが入った黒い自動式拳銃から淡い様々な色の光の槍が空中に放たれて浮いている。
もう一方、ユフォの周りには彼女の持つ大振りの倭刀から放たれる爆炎の竜が二匹侍っていた。
(これが、契約兵装の最高傑作の一振り、"倶利伽羅"か…)
サトウの服は所々焦げ、下には血が垂れていた。周りの壁や天井にも傷と焦げ跡が生々しくついていた。
(私の"曜変天目"では力不足だとでも言うのか、こんな小娘にこの魔域を任せられる私が劣ると…)
サトウは少し外を見た。走る景色は黒い木々ばかりだが、それに慣れているサトウにはその奥の空の様子と現在地が大凡だが分かった。
(給水所まであと三十分といった所か。すでに魔域は越え、"反逆の壁"の中か。日没も近い…)
ユフォの方を見れば二匹の火の竜の頭を彼女は撫でていた。
(私としてはこのままトゥールまでこの膠着状態を続けたい所だが…)
サトウは銃を持ったまま構え光槍を展開していく。
「貴様のその"倶利伽羅"、かなり厄災化が進んでいるな」
サトウの言葉にユフォは特に反応はしなかった。しかし二匹の竜がグルルとサトウを睨みつける。
『グサファンの焚き火よ、トリネコと嘆息を熱しろ!』
ユフォは倭刀の持つ手とは反対の手に持った"魔法陣"の書かれたカードをサトウに手裏剣のように投げつける。サトウに届く前にカードは爆発して煙を撒き散らす。
「"陣術"だと…?"契約兵"の分際で"魔術"を使うとは野蛮な」
サトウは歯軋りしつつも光槍を四本、煙中に放つ。同時にユフォの二匹の竜が煙から姿を見せてサトウに襲い掛かろうとする。放たれた光槍をユフォは全てかわし、倭刀を両手持ちに変えて振るう。刀身から部屋を覆うほどの炎が溢れ出て竜ごとサトウを飲み込む。
部屋の外にまで炎が飛び出し、ユフォは炎の壁を前にして持っている柄を更に強く握る。
『二天竜流。ニの陣。青天』
溢れ出る炎が青くなり、さらに勢いを増して強くなり、そのまま爆発を起こした。
天井が剥がれ、壁がボロボロに崩れた。外が拓けてなだらかな丘が続く場所を列車が走っていた。
「森を抜けた…」
雲は無く、夕陽がユフォに当たり、彼女の真紅の髪が輝いていた。
「もう…森には、戻れんぞ…」
ガラガラと向こうの方をユフォが見ると光槍を束にして壁にして炎を防いだサトウが膝を屈していた。
「もう、立てないでしょう准将。命に関わりますよ」
「うるさい!…っく…」
サトウは後ろに下がっていた部下に体を支えられていた。とっさに部下たちがユフォに銃を向ける。
「貴方の…」
ユフォは特に気にすることもなく倭刀を納める。
「貴方のその真面目さには感服致しました」
突如として、あてられた夕陽が影に遮られた。
上から桜色の鱗を持つ翼竜が列車にのし掛かった。ガシャンと言う音と共にユフォを背に乗せて飛び立つ。
「さよならサトウ准将。ここまで感謝致します。向こうの方にも宜しくお伝え下さい」
竜の翼が起こす風で周りに生えていた秋桜の花が待っていく。
「ま、待て…!」
「准将、大変です!彼らの"荷物"を含め乗せていた車両の連結を切り離されました!」
「…クソ!」
「このまま停車して彼らを追いますか?」
サトウは考えた。
「いや、正体不明の事案が発生している魔の森へ戻るのは危険だ。このまま給水所に向かい、共和政府に助力を要請する。大佐は…自分の意思で向かったのだ無理に追って巻き添えを喰らう訳にはいかん。それより、我が隊の負傷者の手当てと行方不明者のリストアップを急げ!」
「はっ。了解しました!」
日が沈み夜の帳が降りかけていく中を列車は進んで行った。




