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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼16

「そうか。トウジロウが…」


 船内の狭い休憩室でコーヒーを飲みながらアキは自分の経緯と目的をレオに話した。

 レオはトウジロウの訃報を聞くと少し息をはいて弔う様に暫く目を閉じた。


「それで、アリスはキャスパリーグをお前に渡したのか」


 アキの膝に抱えられたキャスを見てレオは少し笑ったが心は悲しんでいたのがアキにも分かった。


「お前、そいつがなんて言っているのかわかるだろ」


「えっ?いや、なんか人語が話せる猫だって母から渡されたんですけど。違うんですか?」


「アイツ、そんな事言ってそれ渡したのか…まぁいい。キャスパリーグ」


「にゃー?(なにー?)」


「ちょっと武器形態になってくれないか。アキの頼みだから」


「にゃーにゃ、にゃ(いいよー、ねぇあき、しっぽつかんで)」


「えっ、こう?」


アキがキャスの尻尾を掴むとキャスの体が光だし、巨大なマスケット銃へと変形した。


「これは…確かっ!」


アキにはこの銃に見覚えがあった。あの夜に母親が使っていた物だった。


「それがそいつの正体だ。この国の軍に普及している"契約兵装"の雛型の一つ、"キャスパリーグ"だ」


「けいやくへいそう?」


「なんだ、アリスは教えてないのか?」


アキは頷いた。


「"魔術士概論"は受けたか?」


「少しだけ、学校で…『マナは"意志によって方向が決まる"』でしたっけ?」


 レオはため息をついてコーヒーを入れ直した。


「"契約兵装"ってのは簡単に言えば、"自分の感情を形にできる武器"の事だ」


レオは棚にあった資料の一つを取り出した。「魔力図解」と書かれていた。


「まず、"大混乱"でこの世から電気が消え失せたが、正確には消えたんじゃなくて"上書きされて別の物になった"。それが"マナ"だ」


 図解のイラストに沿う様にレオは話していく。


「マナは物質が放つ放射線に直接影響して、放射線を魔力線って言うものに変えてしまっている。本来の毒性の変わりに人の意識や感情に影響されて様々な現象を引き起こしているんだ。ここまでは習ったな?」


「うん…」


「そいいうのをまとめて"魔力"と呼んでいて、色んな技術、例えば感情の込めた声や意識が持っている概念を記号化させたりする事で"奇跡"を起こす連中を"魔術士"というんだ。こいつらは誰でもなれるわけじゃない。文字通りの才能と適正が無ければまず無理だ。この国でもまだ二千人ほどしかいない」


 レオは本を閉じて銃の方に指をさした。


「だが、その才能や適正を人に求めるのではなく、武器に与える事で誰でも"奇跡"を使えるようにするものがある。それが"契約兵装"だ。」


「じゃあ、これがあれば私にも"奇跡"が使えるの?」


「まぁな。ただ、そのキャスパリーグは少し特別でな。」


「特別?」


「契約兵装はいわば人の感情の増幅器だ。感情や意識を吸って動いている。吸われすぎて廃人になったりする奴だっているんだ。そして、時には兵装自体が意識を持ってしまう事がある。古ければ古いほどそういうものは多い。そのキャスパリーグは最古の契約兵装の一つだからな。お前も知っての通り意識を持ってる」


「意識を持つとダメなの?」


「大抵、そういうのは暴走して大惨事を引き起こすな。"厄災化"ともいうが」


「でも、キャスはそういう事が無いよ」

「それは、飼い主の"血"のお陰だな。アリスと血の近い俺の言う事もある程度聞いているだろ。アリスは…実験で厄災化した兵装を操れる身体に改造していたからな。その肉体から作り出されたキャスパリーグにもモロにその影響が出ているんだ。普通は"詠唱"や“呪符"で制御するものなんだが」


(もう、戻っていい?)


銃から声がした。猫の時よりも母に似た鮮明な女性の声だった。


「いいよ」


アキがそういうと、銃はまた光って白い毛むくじゃらの耳の長い猫に戻った。キャスはテーブルの上に乗り寝てしまった。


「この通り会話だけで制御して、自分で考えて"変身術"を使いこなしている。"神道"には獣を血で縛り契約して代々使役する"式神"の概念があるが、それは契約抜きでお前の中のアリスの血の情報のみで従っているのさ。世界に二つと無い特別な契約兵装だ」


さて、とレオは立ち上がった。


「それで、アリスはお前に旅をする為にソイツと俺を同行させようとしている訳だが…」


窓から船の外を見た。複数人の男たちがやって来ていた。


「悪いが俺は行けないな」


「えっ?」


キャスパリーグは大きくあくびをした。

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