魔森巡礼10
オートコンブ修道院の講堂では瀬名がユフォたちを乗せた列車が国境を越えた報告を受けていた。激務の一息入れる為に窓を開けてると、来客があった。
「お久しぶりでございます、お婆様」
「おや、随分とお早い事」
当代の"剣聖"にして瀬名の孫であるガブリエッラは先代の"剣聖"へ一礼をした。
「何ヶ月ぶりでしょうか、お身体の方はいかがですか?」
「相変わらずだえ。お前の方こそお役目はどうだえ?」
「先代の頃ほどではありません」
コートオンブ修道院に二人の"剣聖"が顔を合わせていた。
「フン、お前が今、ここに居るということ は"十束"でも使って来たのかえ?」
「ええ、急用がありましたので」
「フン、なんとまぁ品性の無い…」
瀬名は窓のそばにある執務机の書類に手をやった。外を見ると、西の方から暗い雲がやって来ていていた。
「あやつは先刻出立したえ」
「存じております。私が彼女に任務を命じましたから」
「"魔法使い"など、今さら求めても何にもできないえ…」
沈黙がしばらく続いた。瀬名は外を見て、昔出会った魔法使いの事を思い出していた。
「それで、急ぎの用は?」
「はい。先の"聖前会議"で決定された事についてです」
「フン、どうせいつもの平行線だえ?」
「いえ、会議にて決定されたのはある作戦の実行命令についてです。賛成多数で可決され、六時間前に発動されました。故に陸軍がこちらに来る前に急がせて頂きました」
「なんだとえ?陸軍?」
「明日午前四時より森への軍事作戦を行うゆえ、先ほど私の権限で陸軍の前線基地への配備を許可しました」
瀬名は振り向き、ガブリエッラを睨みつけた。
「誰の権限であの野蛮共を入れただえ?」
「私です。"三聖"の一、"剣聖"として許可しました」
ガブリエッラはただ無表情に事務をこなすように話していた。
「お前ごとき青二才が私の管轄に手を出すなど半世紀早いえ!」
「お婆様が"劔家"の連中がお嫌いなのは承知しております、ですが事は急を要する案件なので越権致しました」
瀬名は手で握りつぶした資料の紙を投げ捨てた
「急を要するだと?そんな事はどうでも良え。"森"を刺激する事以外に何を要するというのだえ?誰か!誰か!」
瀬名が手を叩くと部下の者がやってくる。
「急ぎ、"緊急事態"を基地全体に発令せよ!線路に"黒"を流せ。急ぐだえ!」
「了解致しました!」
「なりません、お婆様」
次の瞬間、瀬名の胸に剣が貫いた。
「な、何…を」
「なりません、まだ、餌は撒いたばかりです。」
ガブリエッラは剣を引き抜いた。部下が絶句する中で瀬名は仰向けに倒れた。血に汚れた剣をガブリエッラはまじまじと眺めていた。
「…え、さ……あの…子が……」
それきり瀬名の命は潰えた。
「さよなら、お婆様…私はようやく進む事が出来る」
剣から血を払い、納めると手を叩いた。何人もの私設部隊が姿を現した。絶句していた部下を拘束すると、ガブリエッラに執事が寄った。
「鑪場様一行がお見えになりました」
「わかった。お婆様は体調不良でお隠れなされた…緊急事態につきこれより私がここを指揮する」
ガブリエッラは堂々と部屋の外へと赴く。
「陸軍の作戦に同行する。各々の準備致せ」
外に待機していた黒ずくめの集団の「応!」が辺りに鳴り響いた。




