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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼9

 アルプス共和国西端より先には広大な森が広がっていて、旧フランス領の南半分の殆どが隙間なく巨樹で埋め尽くされている。

 "エントの森"と呼ばれたこの地域は俗に"魔域"と区分される。魔域は魔族の生息地であり、"マナ"の濃い場所でもあり、大小数多の様々な種類の魔域がこの世界には存在する。

人々は魔域以外の場所に居場所を作って生活しており、基本的には手を出さない。強力な軍事国家であるアルプスでさえ、"サヴォイアライン"を建設し結界を張る事で対処し、わざわざ森を切り拓き領地を増やすなどの事をしていない。

 何故ならば、この森に住む魔族は種類、個体数、そして強さという点において世界屈指の危険性を誇っているからである。

ただ、ここには一つだけ北西にそれも安全に通る事が出来る場所がある。アルプス共和国は"第二十別格領域地区"から行けるこの道に膨大な時間と人命を消費して長い線路を建設していた。


「トゥールまではどれくらいかかりますか?」


 アルプス共和国西端のイレンヌにユフォたちはいた。巨大な黒い無機質な建物の駅に漆黒の厳つい装甲をした三十両編成の長大な列車が複数待機していた。

 そのうちの車両に横からスライドさせるようにピンツガウアー2台を載せていく作業を何人もの黒い制服を着た人々がしていた。


「途中で給水をせねばならない。この車両は大型の部類になるからな。そこで時間を取られるだろうから急いでも一日超はかかるな」


「そうですか…」


担当の西警隊の将官サトウと立ち話をしながら一行は支度を済ませていく。ユフォ、副隊長、エルーは"水機団"の濃い緑の制服、ビリガー、パバロッティは"海軍"のオレンジの制服、カーラは"軍務省"のスーツに近い紺の制服、マサノリ、アリアは"西警隊"の黒い制服を着用していた。それは彼らが各地から招集された部隊である事を意味していた。

元々、"アルプス軍"は艦隊を率いる者たちであり、船内、特に甲板に居て担当別に制服を色分けしており、このカラフルさはその名残りであった。


「カーラ、残り時間は?」


「最速で約十六時間ですかね」


「追いつかれる可能性は?」


「それは連中が何を持って来るかで変わりますから断言はできませんけど、無いと思います」


「そうね。"悪魔"の事だもの。そもそも、私達にもう興味があるかどうかすらわからないわ」


「興味はあるだろ。奴らの追っている事件の重要参考人引き連れてんだからよ」


「どちらにしろ、あと一時間で出発。私、副隊長、メリュはサトウ准将と打ち合わせがあるから一号車に。パバロ、エルーはタカ氏と車のメンテをお願い。別の客車に待機。だけど、全員森に入ってからは常時戦闘準備を維持して」


「「了解」」


 こうして一行は列車に乗り込んだ。黒い車体から蒸気が勢い良くだされ朝の構内が白く霞んでいく。汽笛も無く、静かに列車は動き出した。

 イレンヌは晴れているのにその先、巨大な壁の向こうには分厚く黒い雲が雷鳴を鳴らしていた。

「貴様らの荷物については我々は無関心を貫く」


「感謝します。サトウ准将」


「礼などいらない。仕事だからな。ただし、それは列車の中だけの話だ。私の許可なく列車から出た者は例外なく殺害する」


「承知しております」


「路線は私の責任で守られている。無闇に魔域に侵入し森を刺激して"氾濫"でも起きたら大変だからな」


ユフォたちはサトウ准将率いる部隊と立ち話に近い形で会報していた。一号車には彼ら含め十数名の兵士がいた。窓を大きく塞いで列車の線路図や地形図が貼られ、サトウは指示棒でそれらを説明していく。


「先程話した給水地点はここだ。フランス共和制政府の"コミューン"のブルゴーニュ前線基地がある。時間的距離にして十二時間の旅だ」


 イレンヌの北側に指示棒であてた場所はディジョンと呼ばれ、今のフランス共和国の首都であった。


「給水は物資の降ろしも含めて三時間ほどで、そこから西へ向かってトゥールの街へ着く。トゥールは基本的に"コミューン"たちの最前線である"オルレアン要塞"の為だけにある巨大な倉庫になっていて、人はあまりいない。口利きをするならディジョンへ直接向かうと良い」


「そのつもりです」


「我々は三日ほどトゥールに駐在する。貴様らよりはあちらに詳しい。いつでも頼りにすると良い」


「なるほど、ご助言頂きありがとうございます…メリュ?」


急に話を切ったユフォはメリュが外を気にしている事に気がついた。よく見ればメリュの額から汗が噴き出ていた。


「具合でも悪いの?」

 慌て副隊長がメリュに寄り添うとすがるように抱きついてきた。


「ねぇユフォ、本当にここに入るの?」


「震えているの…?」


「あのね、この森、なんていうか、怒ってるの…とんでもなく怒っているの」


「怒っている?」


 列車の行く先には暗雲が立ち込めていた。

車の整備を終えたパバロは同じくバイクの整備を終えたキリとサトウの部下の男女と共に喫煙室で談話していた。


「お前さんのあの"デカ馬"のダイエットは済んだのか?」


「デカ馬じゃない。ドゥカティのパニガーレのビンテージものよ。それにダイエットって何ですか失礼な。山越えの為の"魔力増幅器"の部品を取っただけです」


「バイクに蒸気乗せんのはキツいからな。"熱魔石"はいいヤツくすねてきたからエンジンによく馴染むはずだ」


パバロはタバコに火を付けた。キリは吸わないので、パバロの吐いた煙を手で払った。


「お偉いさん達の話はまだまだ終わらなさそうだな。まぁ、今のフランスの情勢下に俺たちみたいな腫物を運ぶんだ、そりゃ過敏にもなるわな」


「そうだな。だが、"修道院長"の命である以上、我々は責任を持って運ぶだけだ。そこは信頼して欲しい」


「今のフランスって二分されているんでしたっけ?」


「あぁ。俺たちが今から会いに行く"フランス共和政府"とパリを占拠しているかの"太陽"を冠する"竜王種"が支配する"フランス王国"の勢力が戦争してんだ」


「"竜王種"…"竜族"の頂点に立つ最強の存在ですか」


「ウチにもクォーターだか竜はいるが、やつらはその親玉の中の親玉みたいなものだからな聴いただけでおっかないが、共和政府の方は主導者の一人が"魔法使い"らしい」


「パバロ殿、あまりそういう事は喋らないほうが良い」


「おっと、いけない、いけない、"魔法使い"は禁句ですなぁ」


「気をつけて、我が隊も一枚板ではありませんから…」


そんな会話の側、テーブルに置かれた誰のかもわからないコーヒーは列車の揺れとは違うが確かに大きな振動を伝えた。

 他の客車でマサノリも外を見ていた。


「なんだ、この感覚…怒ってる?」


 いよいよ列車は最後のトンネルに入り、それを知らせのアラームが鳴り響いた。

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