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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼7

 アルプス共和国最西端は"第二十別格領域地区"と呼ばれている。前の名はシャンベリーという都市で歴史的にみれば"サヴォア家"が支配する美しい公国であった。

歴史的な建築物が立ち並ぶ美しい街だったが、今はそれらの建物は一切姿を消し、近くにあるブールジェ湖を中心として巨大な軍事施設となっている。


「ここが西部前線基地か…」


一晩かけて二台の車はこの場所にたどり着いき、街の東側の小高い所にある休憩所で朝を迎えた。

 各々が朝の身支度をトイレで済ませて戻ってくると、ユフォはレーションを咥えながら地図と時刻表を確認していた。


「とりあえず、オートコンブ修道院に行かないと。手続きの書類はそこで提出した方が時間を稼げるから」


「全員で、ですか?」


「一号車だけでいいよ。二号車はここの地点に待機して欲しい」


 ユフォは副隊長に地図を見せ、ペンで印をつけていく。


「一号には私とメリュ、とあとは"倶利伽羅"も持っていくよ」


「それだけで大丈夫ですか?」


ビリガーが洗った顔を拭きながら尋ねてくる。


「もしもの時はプランbを強行してジュネーブに向かって。まぁ、大丈夫だとは思うけど」


「あそこの"修道院長"は知り合いだったものね」


「メリュも大丈夫?」


「大丈夫だよ!」


 朝はすぐに終わり、一行は再び車を走らせた。

 休憩所の先、山と山の間に南北に広がる大きな湖があった。

このブールジェ湖の南、アルプス共和国"第二十別格領域地区"のすぐ北にはもう一つ大きな軍事都市がある。"スイス連邦"に今は組みされているこのエクスレバンの街は本来はブールジェ湖のほとりの大きな街であったがシャンベリーと同様に"大混乱"の際に焼け野原になってしまった。つい十年前にアルプス共和国によって整備されてスイス連邦に《《譲渡》》され、シャンベリーと同様に軍事基地となった。その機能は隣国の基地である二十区と同様であり、共に同じ施設によって運用されている。

両基地の側にあるブールジェ湖には数多くの軍船が配備し、それらを従えるようにエクスレノバンの対岸に古く、荘厳な修道院が建っていた。


"オートコンブ修道院"


 そこはイタリア最後の王が眠る歴史的な修道院で今はアルプス、スイス両前線基地の総本部でもある。

 二号車と別れユフォの運転する一号車は湖のほとりの船着場着く。


「失礼します」


 ユフォとメリュは並んで姿勢を良くし船着場へ入っていく。二人は軍服に着替えていた。胸にある勲章をみればすぐに地位がわかるので敬礼をして歩くたびに言葉を発さなくとも船着場の職員たちに敬礼を返される。

 修道院へは小さな専用のボートでのみ行く事ができる。後の湖の移動物は例外なく軍船たちによって処分される。

 対岸へ着くとメリュは目の前にある大きな建物に圧倒されていた。


「行くよ、メリュ」


「うん」


普段は明るく元気なメリュも少し恐縮気味に建物へ向かっていく。


「待て」


緩やかな坂を登って行くと道が十字に分かれた広場になって、白く細かい装飾が施された大きな入り口があった。赤い扉の前には衛兵が両脇に立っていた。


「帯刀は許されておらぬ」


ユフォは紅く大きな羽振りの倭刀を腰にさげていた。


「これは失礼致しました」


ユフォが倭刀を取ろうとした時、扉の奥から、「そのまま通しなさい」と声がした。

はっ。と衛兵は二人から離れた。扉は開かれ二人は中へ入っていった。


「失礼致します」


礼拝堂の奥には一人の和服のヒューマンの老婆がいた。


「久しいね、ユフォ」


「はい。尾張様。四年ぶりでしょうか。お元気そうで何よりで御座います」


「瀬名でいいと前に言ったのにねぇ。相変わらず堅苦しい。それに実力主義のこの国において、引退した老いぼれなど役立たずに等しい。もっとくだけて話さないかえ」


「役立たずはこんな剣呑な所にはございません。貴方様は"先代剣聖"。引退なさっていても、"英雄"でございます。未だ、戦場から去ってはおりません」


「ふん。口だけは達者になりおって。おや?その隣のは"槍家"のご息女かえ?」


 メリュは背中が震えた。目の前にいるこの老婆から溢れ出る覇気が只者では無いことを無理矢理認識させる。


「や、槍=メリュジーナと、と申します…」


「おや、可愛いらしい"子竜"だこと。"人化"はお上手だえ。お歳は?」


「十四歳、です…」


老婆はニコッとメリュにら笑った後、ユフォを睨んだ。


「こんな子をお前は連れ回しているのかえ、おまえは?」


「フォレ伯には許可を頂いております」


ふん。と鼻で老婆は笑った。


「それで、要件は何かえ?」


「はっ。では率直に申し上げます。次の列車で私の隊を運んでいただきたいのです」


 老婆はユフォを睨んだまま再び鼻で笑った。


「見くびるなユフォ。私が何も知らないとでも思っているのかえ?三六地区の事件、"アルヴェロンの忌み子"の事、隠しているあの"天使族"の娘の事、全部分かっておるわ」


「承知しております。何せ、私は"剣聖"の命で動いているのですから」


老婆は今度は大きく笑った。礼拝堂に響く声にメリュは再び震えた。


「私たちが三六地区からここまで至るにはトリノ経由だとしても、不自然なくらいスムーズでした。全ては貴方様のお計らいによるものですね」


「解っておるではないかえ。私は愛しい孫娘の為に手を貸しただけの事。幼き頃より私の侍従をしていたとはいえ、お前の為にやった訳ではないえ」


「物事が不思議とうまくいっている時は大抵誰かの掌の上で転がされていると貴方様から教えて頂きましたから。ですが、本当に感謝致します"先代剣聖"様」


ユフォは少し笑って頭を下げた。


「だが、私は孫娘の"命"とやらを知らない。あの子にはただお前を手助けしてくれとしか言われていないのだえ。お前たちは何を探しているのだえ?礼とは言わぬが教えておくれ」


 ユフォは少し、老婆の探しての言葉に驚き、考えた後に返答した。


「命はこうです。"魔法使いを探せ"と」


「"魔法使い"だと?」


老婆は先程よりも大きく笑った。


「そんなものを求めてどうなるというのだ。何を考えておるのか我が孫娘は!」


「現在、このアルプス共和国は表向きはスイス連邦の共同体として体裁を保っていますが、その実態はスイス連邦の事実上の属国となっています」


属国という言葉に老婆の笑顔が消えた。


「その中で、陸軍、海軍、南方警備隊はかねてよりスイスへの独立を計画しておりました」


「そんな話、建国当時からいくらでも」


「えぇ、ですがガブリエッラ、"剣聖"様の一派は今回の計画に過剰に反応した事は確かです。私の隊や、貴方様も巻き込まれたと言えるでしょう」


「巻き込まれた、かえ…」


「そして、彼らは勢力的に侵略派…特に陸軍に対して圧倒的に劣ります」


「それで、"魔法使い"をか…」


「今、この世界で抑止力足りうる数少ない力である"魔法使い"を彼らは極秘裏に求めたのです」


「なんと、軽率な…」


「ご存知の通り"魔法使い"の力は強大です。英国の"選択のマーリン"や中東の"支配のソロモン"それとフランス共和政府の"反逆のジャンヌダルク"…たった一人を持つ事で"竜王種"とも肩を並べる事が出来る。故に各国が拘束して隠しいるとも言われる存在です。見つけるのは容易い事ではありません」


老婆は少し目を手で抑えた。


「大丈夫ですか?」


「よい。続けて」


「はっ。私が"剣聖"様より命を受けたのは、ある、未だ知られていない"新たな魔法使い"からのコンタクトによるものなのです」


「ほう。新たな、かえ?」


「そうです。代理人を何人も介してのもので、最初の代理人は現在、"フランス王国"内に居るそうです。」


「フランスか…それで列車を使い"森"を抜けたいのかえ」


「その通りです。私は、いえ"剣聖"様はあくまでも、一派の思惑とは別に"魔法使い"が人々に利用されない為に動いております。仮に魔法使いを一派が手に入れたとしても、今度はスイスとの軋轢を生むだけです。それはスイスとの国交に尽力なさった貴方様が一番避けたい事でしょう。何卒お願い致します」


ユフォは深々と頭を下げた。メリュも慌て頭を下げる。老婆は黙ったまま二人を見ていた。


「私が何故、亡き姉から引き継いだ"刃守"の号を渡したと思う」


「私には測りかねます」


「あの子にはこの国の未来が見えていると思ったからだえ。この先、世界に対してこの国の振る舞いがあの子の振る舞いあればいいと私は"剣"を譲り渡した」


老婆の独り言のような言葉に二人はただ黙っていた。


「私も賭けてみるとするかえ…基地局官!」


老婆の声にドワーフの男が一人ユフォたちの後ろに現れる。


「お呼びでしょうか」


「次の列車に彼女らを乗せる。積荷を確認せよ。終わり次第全駅長に通達、積荷は確認するなと伝えよ」


「かしこまりました」


「それと、人事官に彼女の持つ書類を提出しておくれ」


「はっ。早速」


男はユフォから封筒を受け取ると足早に退出した。


「例の二人をお前の隊に編入するが、これは私の所で出す以上、二人はここの所属になるが、大丈夫かえ?」


「お願い致します。その為にここで手続きするのですから」


「あの、"天使族"の小娘はいいとして、なぜ"アルヴェロンの忌み子"まで連れていく?そのまま三六地区に置いておけば良かっただろうに」


「あのまま、彼をあそこから切り離さなければ、死亡したトウジロウ氏だけで無く、他の関係者もただでは済まないでしょうから。剣聖一派の筆頭であるタカ氏の息子である以上下手に被害を拡大されても任務に支障をきたすだけです」


「ふん。役に立ちそうかえ?」


「今のところは何も。ですが、我々の旅に同行させる以上は役立たせます。なんとかは道連れとも言いますから」


 そうして二人は修道院長に別れを告げて一号車に戻った。


「ふー、疲れたぁ…」


メリュは座席に溶けるように寝そべった。


「お疲れ様、メリュ。助かったよ」


「うん。でも、その"倶利伽羅"だけでも良かったんじゃないの?前に言ってたじゃん。"剣聖"様のと姉妹剣で、あの人から貰ったって。充分名刺代わりじゃん」


「うーん、これだけだと私があの人に会うには難しいんだ。やっぱりメリュみたいな"七名家"クラスの要人が側にいないとね」


「ま、ユフォの役に立てたならそれでいいけどさ」


「ありがとうメリュ。大好きだよ」


 そうして一号車は動き出した。

 二人が去った礼拝堂で和服の修道院長》は一人考え耽っていた。机には先程までの情報と自分のツテで拾った情報をまとめた紙があった。


「あの子、まさかね…」


 側付きの者が飲み物を運んできたので、老婆は窓を開けるように指示した。

昼下がりの陽光が暗い礼拝堂に差し込んでいた。少し強い風が中へ入りこみ、紙を吹き飛ばしていった。

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