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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼5

 アルプス共和国第十七地区西方には"アルプス山脈"の西端部が巨大な壁となって、人々の往来を制限している。"ヴァノワーズの壁"と呼ばれているこの地帯には道路が一つだけあり、そこ以外で西に行くにはさらに南の"モナコ公国"まで行って迂回しなければならない。

 "大混乱"以前まではもう一つの道路と鉄道もあったが、とある理由からそこは閉鎖されてしまった。山間部への拠点となる十七地区ブッソレーノ地区は昔ながらの街並みを残しつつ、現在は山々の先にある第十九地区シャンベリー地区や道路も含め全域がアルプス軍西方警備隊の基地となっている。

この地域の東西を繋ぐ"E70.A43線"へは西方警備隊の許可無しには通行できない。もちろん、周りのアルプスの山々にも立ち入りは禁止されている。


「それで、このオンボロでいくのか?」


 パパロッティが難色を示したのは2台の車だった。


「一応、エンジンは蒸気式にして、"蒸気魔石"も準備したましたけど」


 ビリガーは必要な機材を車に積んでいく。


「"ピンツガウアー"。よくこんな骨董品見つけてきたね、タテワキさん」


 ユフォは腰に手を当てながら、そばのヒューマンの老人を見る。


「なーに、近くのマニアが隠しもっとったのを、ウチへのツケのかたにふんだくってやっただけの事。ワシは大混乱以前からここにいるからの。顔が利く分、いい整備士に頼んだのさ」


 真夜中、ユフォたちは十七地区南西の佐藤自動車整備屋と漢字で書かれた古臭く小さい整備所の裏にある小屋にいた。


「ここらへんは"浸食度"も低いから、状態も良好だ。エンジンも、"西警隊"のコネでトリノから来たものだしの」


「ありがとう、タテワキさん」


「いいよ、銭もいらん。お前さんの友人には散々世話になったとるからの。これくらいせにゃーな」


「それは、そうですが」


「いいんだよう、その人がそういうのだから。貴方の人徳がそうしているのだから、誇らしくしなさいな」


 奥からお茶を運んで来たのはノームの老女だった。


「奥さん、ありがとうございます、いただきます」


 ユフォは少し不慣れそうに、お茶をとって、夫婦に頭を下げた。


「もう一つの方もやっておいたから、キリの嬢ちゃんに渡してやんな。左の方に積んである。要望は全部付けたから文句は言わせるなよ」


「わかりました。本当にありがとうございました」


 2台の車からエンジン音がした。


「すげぇな、本当に蒸気式かよ。ガソリン車みたいな音がすんぞ」


「ユフォさん、オーケーです」


「わかった。ではタテワキさん、いってきます。お世話になりました」


「おう、気をつけてな」


 ユフォはビリガーの乗る車の助手席に乗り込むと手を振って行った。車はそのまま宿へと向かう。郊外だというのもあり、市街地の照明器が要塞と化した街を怪しく照らしていた。

 ユフォたちが宿に戻り、裏口に車をつけると数人が準備していた。


「副隊長、タカ殿の容態は?」


「良好よ。エルーがいれば問題はないと思うわ」


「わかった。全員、傾注」


 ユフォの静かな声に全員が手を止めて一部を除いて整列する。


「赤い一号車には私、副隊長、ビリガー、カーラが、黄色の二号車にはパバロ、エルー、アリア、タカ殿親子を乗せるよ。キリはメリュと一緒に"あれ"で前方偵察をよろしく。ここからが本番だから、気を引き締めて」


「「了解」」


 数分の内に出立が完了し、全員が車に乗る。


「ユフォちゃん」


 乗り込む前にユフォは宿の女主人のエルフに声をかけられた。


「アンナ叔母さん。ごめんなさい、起こさずに行こうとして…」


「いいの、仕事だもの。姉さんもきっとあなたの事を誇りに思っているわ」


二人は抱擁した。


「気をつけてね」


「うん。叔母さん」


 ぶうん、とエンジンがかかる音がした。比較的静かに大型スクーターがユフォの後ろにつく。


「では、私たちは先に行っています」


「よろしく、キリ、先方にはさっきの許可書で交渉してね」


「了解しました。アンナさんにも感謝を。自家製コーヒー美味しかったです」


「ありがとう!」


 キリとその後ろに座るメリュはそういうと行ってしまった。


「歳の近い子たちがいて良かったじゃない。仲も良さそうで、おばさん少し安心したわ」


「では、私もこれで。いってきます」


 ユフォは少し離れて敬礼をした。車の中の者も同様にアンナに敬礼を送る。


「いってらっしゃい」


 そして、2つの車は動き出した。

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