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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第二章 魔森巡礼 –Forest of lost prayer–
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魔森巡礼1

アルプスと呼ばれる国の首都、"特区フジ"と今は呼ばれるこの都市はかつては"ヴェニス"とよばれ、侵略から逃れた人々が干潟に建物を建て国をつくっていた。その歴史は地盤沈下や高潮といった厳しい自然との戦いであり、また大国に挟まれた国として多くの血と汗が流れた。そうして人々は長い時をかけて美しい街の景観や文化を作り上げた。

 時代や変遷を経て、現在はアルプスの人々のものになってもその気質は変わらなかった。

 今、ヴェネチア本島の周囲には七つの巨大な船が並んでいた。一隻の全長は小さいものでも二千メートルを超える。この船たちはかつて日本から脱出してきた人々が乗って来たものだった。"都市型戦艦"とも言われる機能を持ち、現在でも市民が生活し、その役割は変わっていない。

 それぞれ、穂高、白馬、槍、劔、大汝、乗鞍、薬師と、日本の名山から名をとられた巨艦たちの艦長たちは自分の船の名を"氏"にして名乗った。

彼らはアルプス共和国の最高位の"七名家"として絶大な権力を持った。

 劔鑪場はその七名家の一角である"劔家"に養子として引き取られた。当主である劔 國友は子供を作れない体質であったためである。

"大混乱"当時、"悪魔"になってしまった鑪場はあふれ出る狂気の意識に乗っ取られて何もかもを破壊していた。それを國友は抑え、封じて、鑪場を絶望から救い出した。

悪魔の意識は今でも鑪場の意識と混同して、鑪場でさえ時々悍しいとさえ感じる言動をさせる。

俗に"二重混魂病"として、多くの人々を苦しませるこの病は、向こう側の存在が魂を持ったまま、こちらの存在に上書きされて、一つの体に二つの魂がある事で起きる。ほとんどは、向こう側の魂がうまく上書きされてこちらの存在の魂と融合し精神は安定する。

"魔族"と呼ばれる存在は魂を持たないに関わらず、その狂気で精神や肉体を汚染する為、大抵は正気と魂を失い、本能と狂気の存在となる。ただ、稀に悪魔などのかなりの上級の魔族が上書きされても、魂も肉体も汚染されない体質の者がいた。鑪場もその一人である。正確には"魔術師"であった國友に後天的にされた者であった。 

 救い出され國友の養子になった後、鑪場は國友の為に生きてきた。それは自分の弱さ故に悪魔に支配され、家族も自分の手で殺してしまった事に対する一種の償いでもあった。國友に依頼された汚い任務の時の狂気的で悪魔的な強い自分を出している時、一人自問自答を繰り返す弱い自分の時を繰り返す日々を過ごしていた。


「こちらでお待ち下さい」


鑪場はある部屋の前の腰掛けに一人座っていた。

何も考えず、ただ静寂を味わうように一点を見つめる。

ここはフジのヴェネチア本島、ドゥカーレ宮と呼ばれる場所であった。

現在、アルプス共和国の政治の中心はこのヴェネチア本島に集中し、特にこのドゥカーレ宮には最高意思決定権を持つ"聖前会議"が開かれる場所であった。


「お入り下さい」


「失礼致します」


鑪場は毅然とした様子で会議の開かれる大評議会の間へと入っていった。

中は広く、四方の壁、天井には豪華な金の装飾と絵画が施され、三方にある大きな窓からはアドリア海の陽光が差し込んでいた。真ん中には大きな円卓が置かれ、七人の当主達と三人の人物が座っていた。

鑪場はまず三人の方に会釈した。

 この三人は"三聖"と呼ばれている。日本脱出の際、日本と命運を共にした"帝"から"三種の神器"を託された三人の従者たち。

それぞれを剣聖、爾聖、鏡聖と名乗り、神器を今なお守りついでいる。その権威は七名家と同等であり、彼ら三人と七名家の当主を持って国の最高意思を決定する。

三聖の座る後ろ、窓の無い壁には十五世紀に描かれたティントレッド作の「天国」があり、その下には箱に納められた"三種の神器"が置かれていた。この聖なる前で行う会議を"聖前会議"と呼んだ。


「礼儀などいらない」


三聖の一人がそう言うと鑪場はすぐに國友の後ろに立った。


「そもそも、最近の陸軍は度が過ぎているのでは無いか?」


「我々海軍にも話さず事を進めていたとは、よもや反乱でも企てているのではあるまいな」


「内々に争いスイスの連中に感づかれでもしたらどうするつもりだ。國友」


 アルプス共和国陸軍元帥である、國友に批判が殺到する所から会議は始まった。

 アルプス共和国の"軍"とはそもそも三聖麾下に五つの独立した軍が存在する。

 街道、内陸部の戦力および、各軍基地の管理を行う陸軍。

 海上の戦力および、航路の確保を行う海軍。

 制空権の守護および、戦力としての空軍。

 東西南北の国境の警備および最前線への後方支援行う国境警備隊。

 海外任務および、特殊任務を行う水機団。

 七名家はそれぞれ二家で一軍を統括し、"穂高家"を除く六家で陸海空を治めている。

 "穂高家"は統合幕僚本部の長を務め、軍務局を治め、その下には水機団が入っている。

三聖は国境警備隊と独立した首都防衛隊である"禁軍"を治めていた。

 つまり、アルプスは政権を持つ者全員が軍事を司る軍事国家であった。それは、互いが連携を取らず少しでも反乱を企てれば内乱になる事を意味している。

故に、この日の会議には陸軍反乱と言う唯ならぬ緊張が走っていた。


「お待ち下さい」


口を開いたのは鑪場だった。

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