山の下の街13
アキとアリスは夜明け前に煙が消えて、救助隊に助けられていた。
「私よりもマサノリは?マサノリは?無事ですか?」
「落ち着いて下さい。後で確認しますから」
それから二日程経ち、アキはマサノリが爆発を起こしたテロリストに連れ去られたと、聞かされた。
病室に行くとようやく目が覚めたアリスが居た。
「…話は聞いたよ」
「……お母さん、行く気でしょ」
「………うん」
「一人で?」
「うん、そうね」
「私を置いて?」
「そうね」
「ふざけないで!」
病室の外まで響く声だった。
「自分たちだけで抱えて、私たちを巻き込んで、自分たちだけで解決して、私たちを遠ざけて、それで問題解決しましたって、それで私たちが納得すると本気で思うの⁈」
「アキ…」
「マサノリは私が連れ帰るわ。絶対に」
「アキ…本当に危険なのよ」
「お母さんがそんな体で行く方が危険だよ!私が止めたってどうせ行くんでしょ?行って何処かで死んで、私を一人にするんでしょ?それだったら私が行ったほうが手っ取り早いわ!」
次を言おうとした時にアリスに顔を引っ張たかられた。
「お母さん…」
アキはアリスに抱き寄せられた。
「こまった子ね。お父さんに似て頑固なんだから。それに一度決めたら絶対に曲げない所も」
アリスは自分の額をアキの額につけた。
『我は理を笑う猫。我は理を睨みつける猫。我は理に身を変え隠す獣。我は理を揺らぎ渡り歩く影…我が真名はアリス、汝の血に宿し、子に、常世に渡らしめん』
「"キャスパリーグ"はちゃんと隠したわね?」
「うん。言われたようにタニギのおじさんに預けてる」
「今、貴方にあれを"譲渡"したわ。旅には必要でしょ?」
「いいの?お母さんの一部なんでしょ?」
「少し寂しいけど、貴方もマサノリもかけがえのない私の一部よ。だから守らせて」
「お母さん…私、絶対にアイツ連れ帰るから」
「約束よ。わたしは家でお父さんと待っているわ。その代わり途中で諦めたりしたり、何が起こっても誰かのせいにしてはダメよ。いい?」
「約束する」
「いってらっしゃい」
「いってきます。お母さん…お父さん」
アリスは優しくアキを撫でた。
翼の生えた少女は山の中にいた。
自分を背負っていたあの青年から発せられた炎に吹き飛ばされて、共に行動していたユフォの部下に助けられて現在に至り、飛び去ってしまったユフォたちとの合流の為に山を越えようとしていた。
「大丈夫か?お嬢ちゃん?」
前を歩くノームの男性が声を掛けて来た。
「大丈夫です。貴方こそ小さいのですから気を付けてください」
「はっはっは!お嬢ちゃんに心配されちゃ面目無いな!心配、ありがとうよ。お嬢ちゃんも羽に気を付けな!」
「皮肉に聞こえますよそれ。大人気ない…」
後ろを歩くヒューマンの若い女性が冷たい目で前を見つめる。
「あなたも言葉には気を付けなさい。ノームに背の事を言うのは失礼」
「?わたしは普通に心配しただけですが」
少女の言葉に女性はため息を吐いた。
「それよりもあのマサノリとかいう奴はどうなったんだかな。俺たちごと吹っ飛ばしやがって。おかげでこんな山道行く羽目になったじゃねえか」
「臨機応変です。ウダウダ言ってないで歩いて下さい」
(あの青年、マサノリ。マスターの息子…マスターは無事でしょうか…)
「前を向いて歩きなさい。転げ落ちるわよ」
気がつくと後ろの女性がすぐ横に居た。
「はい…」
「おーい。そろそろ峠だ。太陽が登りきる前に越えるぞ」
先頭を行く男性から声がした。
「もうすぐ、夜明けね。長い夜だった…」
「見ろ、後ろ、ちょうど街が見えるぞ」
少女は振り返った。
朝日を山々が街に影を落として、煙が消えた遠くの街の家々にはまだ明かりが灯っていた。




