山の下の街11
アリスがようやく落ち着いて、とりあえずの応急処置を済ませたアキは路地裏に母を移動させた。手足は擦り傷のみだったが、肋骨が折れており安静が必要だった。先程の爆発でさらに粉塵が舞っており、路地裏の外に出るのは危険だった。
「アキ…ごめんね」
「いいの。それよりお母さん。お願いだから説明して。私たちに一体なにが起こっているの?お母さんは、何者なの?私、もう、訳が分からなくておかしくなりそう」
「……いいわ。そうね。もういいわよね」
「誰に話しているの?」
アリスは少し息を吐いてから話し出した。
「まず、私は元軍人よ。お義爺さんの事は知っているわね」
「確か、"大航海"の途中で"南アフリカ"に立ち寄ったおばあちゃんと出会ったって」
「当時、お義母さんは夫を亡くしてお父さんを連れていたの。私は、お義爺さんと共に"アフリカ戦線"で戦っていた子供の兵士だった」
「お母さんってお父さんの十歳上だっけ」
「初めて出会った時、お父さんは赤ん坊だったわ。あなたを授かったのはそれからかなり先の話なの。私は六歳から訓練して、九歳頃には戦場に居たわ。毎日毎日が地獄だった…向こうでは獣人は差別もされていたし、いつ死ぬのかもわからない恐怖で震えていた。でも、お義爺さんと出会ってからは前線に出なくなっていった」
「おじいちゃんは何者だったの?」
「向こうの軍の医師だった。当時の"魔導兵器"開発の為に私は被験者として試作の実験に参加したの。いえ、参加させられたのね。お義爺さんはその実験の責任者だった」
「最悪だね…」
「戦場で死ぬよりはね。私はまだ十歳くらいだったけど、それなりに戦果を上げていたから、実験への志願の時にも自分から希望していたわ」
「それで?」
「この銃、これがその実験で作られた"魔導兵器"なの。今は"契約兵装"というわね。私の脊髄の一部から作られている。名前は"キャスパリーグ"」
アキは少しギョっとした。
「この銃は私が標的として認識した対象に対して自動追尾する弾丸を撃てる。弾も私の"魔力"から作り出せるから再装填も火薬も必要ないの」
「これは…お母さんと繋がっているの?」
「さすが、私の娘ね。正確にはとい私を拡張したものって感じね。これの実験が成功した事によって私はお義爺さんの護衛かつサンプルとして過ごす事になっていたわ」
「……お父さんは、何者だったの?」
「お父さんは…お父さんは普通の人よ。私みたいに血に汚れてはいないわ。ただ…」
「ただ、アフリカからここに着くまでに私たちは船の上で育ったの。その時…いつも一緒にいた子がいたの。それがマサノリのお父さん、タカって言うのだけど…」
「えっ、マサノリのお父さん?」
アキはいつだったかマサノリが肉親の事を話していたのを思い出した。
「そう。私たち三人はアルプスに着いて、それぞれの道に進んでも心はいつも一緒だった。だから、タカからマサノリを預かった時も二つ返事で引き取ったの。あの時、タカは本当に傷ついていたから」
「傷ついていた?マサノリの事故で?」
「そう、この国を作るまでに本当に本当に大変だったから、本当に守るべきものを絶対に見失わないように。そう誓って引き離したの」
「それがなんでこんな事に…」
「タカがマサノリを預かる時に言っていたの。これからこの国は確実に"侵略"に走る。俺はそれを止めるって。マサノリもいつか分かってくれる。いつかそれで、私たちに危険が起きても許してくれるか?って」
「そんな事…」
「タカはいつも不器用だった。そんな事聞かなくても私たちは拒まないのに」
「詳しくは聞いたの?」
アリスは首を振った。
「でも、私たちは今日まであの子の事をあなたと同じように接して育ててきたわ。いつか起こる危険も全部覚悟して………」
アリスは言葉に詰まった。
「お母さん?」
「…お父さんは死んだわ…殺されたの」
アキに衝撃が走った。直後に感情が込み上げてくる。
「な、なんで?」
「…スコープで見ていたから…爆発の直前に…間に合わなかった…それに…」
アリスのそばでアキは泣き崩れていた。抱きついてくるアキを肋骨の痛みを顔に出さないようにしてアリスは優しく慰めた。
(思う存分泣きなさい。私もまだ、立ち直れそうにない。だけど、マサノリは…マサノリは…あの子の所に早く行かないと…)




