山の下の街10
炎が、夜の山の下の街を照らしていた。
街の所々では悲鳴や怒号が飛び交い、多くの軍用車が行き交う。"電気"が消失したこの世界において、著しく発展した"蒸気機関"は船を始めとして自動車やバイクといった小型化が進んだ。魔器で熱や水を発生させたり極めて高度な"魔導科学"の技術も同様である。通信技術は魔導を持ってしても、いまだに復活は果たしてはいないものの、"人類"は強かに、けれど確実に復興していた。
山の下の街、そこは"大混乱"の前までは"ルガノ"と呼ばれていた湖を讃える美しい街だった。大都市"ミラノ"に近く、高級リゾート地として発展していたこの街は大混乱の際にミラノからの難民と、魔族の襲来に対応出来ずに廃墟と化した。その後、日本から船旅を終えてきた人々によって清掃された後、ミラノと共に"アルプス領"となり、軍基地が置かれ、ドイツやフランスといった所からの難民を預かる場所になったりしながら少しずつ発展していった。
今では"第三十六地区"と名を変えた今でも、元の歴史的な建築物を残し、大混乱前の"記憶"と共にあった。
時間をかけて活気を取り戻しつつあったこの街に炎は容赦なく襲い掛かる。
「い、一体、何が?」
トウジロウが捕まっていた辺りから爆発が起こりアキはその爆風にアリスと共に吹き飛ばされていた。
辛うじて空き地の木の枝に飛ばされたので体は無事だった。
「お母さん⁉︎」
体に引っかかっている枝を取り、立ち上がろうとするものの、目の前は粉塵が飛び交い、目蓋を開く事も息をする事も出来ない。思わず咳き込んでいると、近くから苦しむようなアリスの呻き声が聞こえて来た。
「お母さん!どこなの?」
「こ、ここよ…アキ、無事で良かった…」
アキは口を服で防ぎ、薄目でアリスの声の方へ向かった。数メートル先の空き地の隅にアリスは倒れていた。
「お母さん。大丈夫?どこか痛くない?」
「わ、私は大丈夫だから…そ、それよりも、マサノリがっつ…」
「お母さん!やっぱり怪我しているじゃない。」
アキがアリスに駆け寄ると、アリスは手で顔を塞いだ。
「お母さん、泣いているの?」
「大丈夫よ。大丈夫だから…」
「お母さん、何を見たの?」
アリスはそのまま蹲った。
「痛いの?見せて。学校で人の応急処置は一応習っているから」
「ダメよ…ダメよ…そんなの…なぜ…あなた…」
「お母さん?」
状況がうまく把握できず困惑するアキの後ろで再び爆発が起こった。
ユフォが爆風で気を失っていたのはほんの数分だった。先程走り抜けていた広場からかなり離れた所にいた。
「他の隊員はどこに?」
周りを観察しても暗闇でよく見えない。それよりも目の前の強烈な光がユフォの目の前にあった。
「あれは…まさか…」
「ユフォ」
後ろから声をかけられた。
「副隊長、怪我は?」
「なんとか無事よ。他に四名の無事を確認したわ。一人は腕を骨折しているけれど、とりあえず今は落ち着いているわ」
「それは、誰?」
「エルーよ。彼、やっぱりタフね。私が見つけた時には自分で応急処置をしていたもの」
「今は何処に?」
「メリュたちの方へ行かせたわ。どの道、あれを何とかしないと次に進めないもの。メリュの火力が必要だわ」
「私の代わりに助かります」
「それで。どうする隊長。あれ、相当やばいものでしょう。私が見ても思うわ」
「どっちもね」
二人の眼前の先には二つの光が対峙していた。
一つは紫の光を放つ禍々しい黒い身体と翼を持つ角の生えた"悪魔"。
もう一つは目から紅蓮の炎を出しつつ、まるで"竜"の様な鱗が生えつつある人間だった。
「素晴らしいことだ!やはりあの情報は正しかった!」
黒い悪魔は目の前からヒシヒシと伝わってくる殺気に身震いし同時に興奮していた。
「竜の"知恵の炎"…触れただけで大惨事だ。私の魔弾も侵蝕するのか?」
人間から溢れ出す紅蓮の"炎"は、襲い掛かってくる紫の炎も吸収し、人間を"違うもの"へ変貌させる薪として大きくなっていく。
「彼は貴方にとってそれほど大事な人だったのか?理性まで無くしている」
人間はその甘言を聞いていたのか、いなかったのは不明だが、悪魔の言葉と共に襲い掛かった。




