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アルバートの店



 もしかしたら、意地汚く2・3回余計にタバコをふかしている間に、ジェイミーは友人と学校を出たのかもしれない。前に同じ事をされたので、私を待つようにと叱った事があった。でもあの子、友達に誘われると断らないから。


 相手が娘でも遠慮なく舌打ちをするのが自分流。私は踵を返してピックアップまで戻った。こっちも毎日怒りたくはない。だが今回は向こうが悪い。自宅でたっぷり言い聞かせてやらないと。


 車のアクセルを踏み込むのと、向かう先を決めたのは同時だった。



 『アルバーツ・ダイナー』は街でも若い奴らが集まる大衆のレストランだった。


 この店を探そうと決めたのは、ジェイミーがここでレモネードを飲みながら、私が来るのを待っている可能性を考えたからだ。ここは最近の私たち家族の定番の店だった。


 店の扉を開けるとすぐに、コーヒーとワッフルの甘い匂いが鼻元に漂ってくる。客の入りはまあまあ。古めかしい髪型の女性が食事を持って通り過ぎる。彼女が唯一の店のメイドであり、アルバートの妻でもあった。


 中年男のアルバートは経営者兼コック、この店で唯一の男性店員だった。ギリシア人の両親からもらった人懐っこい瞳と、頭にピッタリ張りついた黒髪の持ち主。だいぶ膨らんだ腹が笑顔と相まって滑稽に見えた。


「よう!」厨房にいた主人はこちらに気づいた。じろじろと私を観察した後、一言付け加えた。「メイヴィス、今日もひとりかい?」


 ギリシア系移民のユーモアって、本当に笑えない。一週間前この店に娘とランチを食べに来たばかりだというのに。この男は3日店に来ないと、つまらない皮肉を言う。


「こんちは……アル。えっと、今日は食事じゃなくて、ジェイミーよ。探してんの。ここに来てない?」


「知らんね」アルバートは3つ目の卵を割ってフライパンに放り込んだ。「そいつの事は良くわからんが、答えはノーだ」やんわりと否定する。


「そう……わかった」なんだかアルバートの返事が素っ気ない気がした。


「アルバート、薬の時間よ」食器棚の前で皿を拭いていた妻が注意した。


「わかった、わかった。ウルサイやつだ……おい、何だよ」アルバートはそそくさと帰ろうとした私に気づいた。「今日は注文も無しに帰っちまうのかい? つれないね。もうすぐ新作のスイーツが出来るってのにさ。わかったよ。じゃあまたな。友達(・・)によろしく」


「……ありがとう、また来る」私は収穫のなかった虚しさに溜息を漏らすと、店を出て行こうとした。だが、どうしても我慢ができなかった。


 あと少しで扉が閉まる直前に振り向いて、アルバートに言ってやった。


「|本当につまらないよ。その冗談ユー・サック


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