クイズ・ショウ
私たちは私の運転する車の後を追いかけた。ジゼルが言ったように追跡は容易だった。道順はもちろん、道路の混み具合も事前にわかっていた。だから橋を通ることは避けて、迂回する道を選んだ。おかげで小学校の駐車場には、迎えの時間の10分前に着くことができた。
私は自分が選ぶはずのエリアから、少し離れた場所に車を停めるようジゼルに指示した。そこでエンジンを切り、待つこと5分。白いピックアップはするするとやってきた。
夢を見ているようだった。
私は右から2番目の白枠に車を停める。イライラと髪をいじる。手荒に車内をあさって、タバコの箱を見つける。一本引き抜いて、火を点けるのはウィストンを咥えてから3秒後。最初のひと息は長めに吸って、煙を一気に車外に吐き出してから、やり過ぎて咳き込む。
彼女の行動を全部言い当てられる。簡単なことだ。過去に見た日記を読み返すだけなのだから、すべては記憶力の問題だった。
「何て奇妙なの! ジェイミーたちが社会から抹消されて、死んだ男が消え、薬中のオカマに犯されそうになった! それだけでも十分なのに、今や幼なじみが昔の姿で横に座って、昨日の私を一緒に眺めてるなんて……」
「そうよ、それでいてあなた自身は冷静だし、狂ったようにも思えない。なぜかしら? 私たちの大好きだったテレビ『エレン・デジェネレス・ショウ』の最初に出るクイズに、こんなのがあったの覚えてる?
私は《everything》の始まりで
《everywhere》の終わり。
私は《eternity》の始まりで
《time》と《space》の終わり。
私は誰?
思い出したかしら? メイヴィス、答えは?」
相当昔の事なのに、その古いTVショーのクイズをしっかりと覚えていた。私はしばらく考えてから言った。「そう……答えは【e】だったわ。everythingとeternityの始まりの文字、everywhereとtime、spaceの終わりの文字。すべてはeだもの」
「正解よ。それがエレンの用意した答え。でも、このクイズを聞いて、自分がなんて答えたか覚えてる?」
「え……わからないよ。そんな昔のこと」
「私たち、テレビの前のソファに座っていたじゃない。となりにいたあなたの口から、その答えを聞いた時、私とてもドキドキしたの」
「ごめん、本当に思い出せない」
「あなたの答えは【死】だった。そっちの方が神秘的で正解だと思えた」ジゼルは私をじっと見つめていた。「いま思えば、それはすべての予言だったのかもしれない。ほら、メイヴィス。私はいま大事なことを言ったよ」
私が困った顔をしても、ジゼルはそれ以上ヒントをくれなかった。少女は私が自ら気づくのを待っているかのようだ。私は考えなければならない。
死が答えとはどういう意味だ? 始まりがあり、永遠とも思える人生が終わる。そこには時間も空間もなくて、emptinessだけが支配する世界。それが死ぬと言うこと。何もかも失い、自分さえも奪われ……奪い……奪う……。
私はギョっとした。先ほど返しそびれダッシュボードの上に放置していた切れ端を、慌ててつかみ取る。
ゴクリと唾を飲み込んで、その記事を貪り読んだ。『狂気の鉄塊が少女の世界を奪う』
メイヴィスは理解した。死はそこにあった。震える手を伸ばせば容易に触れられるほど、近くに。「ジゼル、あんたはもしかして……」
「うん、そう。私は死んでしまったの。メイヴィスが持っているのは私の死について書かれた記事。原因は交通事故よ」
その言葉を聞いてからあらためてジゼルを見つめると、少女の顔がより青白く見えた気がした。
「私の見た目が幼いままなのはね、その事故があなたが去ってから一年後に起こったからなの。あなたが知らずに予見していた通り、私があなたと同じママになる未来は、死によって奪われたわ」
ジゼルは言葉を失った私をよそに、車のドアを開けた。「あなたの知りたがってる物語は、まだこれからよ。さあ、昨日のメイヴィスの後を追いましょう」