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幼馴染み



 雷が落ちたような大音響。震源が真横だったせいで、ベッドが大きく揺れた。長いあいだ溜まっていた棚や照明のホコリが舞い、室内で霧のように広がった。


 塵芥が落ちてきても、手が縛られているので顔に浴びるしか無い。私は吸い込まないよう、懸命に顎を引いた。視界は最悪で、ホコリの向こうに小さな影が揺らめいていたのに気づかなかった。


「メイヴィス、大丈夫?」


 小さな声で、後半はよく聞き取れなかった。けれど確かにその声は、私の名を呼んでいた。


「誰?」銃声で馬鹿になった鼓膜のせいで、声が大きくなるのを止められなかった。


 カツカツと走るような靴音が、ベッドの周りを一周した。そして手の甲に持ち上げられるような感触が二度あって、パチンパチンとタイラップをペンチで切る音がした。かくして私の手首は自由になった。


「間に合って良かった。私が銃の扱いに手間取ったせいね」


 今度はハッキリと聞こえた。凄惨な現場に似つかわしくない幼い声。


それにしても(エニウェイ)、意外と当たるものね。スポンジ・スプーキーみたいに丸くて大きい頭だったからかしら」


 信じられない。この白くて細い腕が銃を持ち、狙いを定めて引き金を引いたなんて、煙を出している銃口を見なければ――。


 信じたくない。あどけない口調や素朴な三つ編み、薔薇色のソバカスが天使のように可愛らしい少女。悪党とはいえシトラスの脳を躊躇なく吹き飛ばしただなんて――。


 頭が壊れそうになる。この子の名前が『ジゼル』で、小さなころ近所に住んでいた幼馴染みだという事実を、受け入れなければならないなんて――。


「あなた、だいぶおばさん顔になっちゃったのね。うん、髪の色以外――目の形も鼻の高さも、メイヴィスのママにそっくり。ちょっとしわが多いかな」



 ジゼルはメソジストの両親のもとに生まれた、私より2つ年下の茶髪の小さな女の子。私にとっては血の繋がらないただひとりの妹だった(・・・)


 私は12になる直前まで、大陸東部のブルーミントンに暮らしていた。幼少期をその街で過ごしていた間に、唯一いた仲の良い友達がジゼルだった。


 ジセルは私よりチビだった。それでいて、最初にプリスクールで出会った時から生意気な態度が身についていた。事あるごとに腕を組むポーズで首をかしげ、「それにしても」とか「割に合わない」とか、年上の言葉を使ってマウントを取りたがった。

 

 そしてこの瞬間、大人になった私を目の前にしても、ジゼルの癖は変わらなかった。


「それにしても、ここは臭うわね。この汚い豚ちゃんが住んでいたせいかしら。たまんないわ。早く場所を変えましょう。さあ、立てるのならついてきて」


 私は痛む腕を擦った。ベッドから離れようとして、床に横たわっている死体を目にとめた。そして当然のように疑問を口にした。


「こいつは死んでるのに、消えない。死体のままなんだ」


 他人から聞いたら、意味不明の言葉に聞こえたはずだ。けれどもジゼルは全く当然だというように賛同して首を縦に振った。「そうね……多分、私も死んでしまったらそのままだと思うの。でもあなた(・・・)は違うかもしれない」ジゼルはすまし顔で言った。


「それどういうこと? 私が死んだらって?」


「ふふ、メイヴィスったら見た目は大人だけど、お話の最後を知りたがる癖は治らないのね。でも今は我慢して。さあ、私と行きましょう」


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