召喚獣
私は彼女のことが心配で一睡も出来なかった。
彼女は月曜から土曜日まで学校の寮で過ごしている。
会えるのは土曜日の夜から日曜日まで。
その彼女が私の目の前で猛獣に襲われていた。
正確には召喚獣らしいが。
そして彼女はボロボロになって私の部屋で今寝ている。
なぜ同性でありながら婚約者である彼女がこんな姿になっているのか。
彼女が目を覚ましたらはっきり問い詰めようと思った。
彼女が目を覚ました朝方、私はビックリする光景を見た。
全く傷跡が残っていないのだ。
私が呆気にとられていると彼女は
「何を呆けているの。
不思議そうに」
と聞いてきた。
私はその問いに対し思わず昨日のことを問い詰めてみた。
「あ〜、その事。
それだったら長くなるからゆっくり話すわね」
そう言い彼女は事の子細をゆっくり話し始めた。
「私は2つの専門学校に通わせてもらっているの。
月火はメイド、水木はくノ一の学校にね。
金土は大学に行っているのだけどそれはまた別の話。
今回の話はくノ一の学校の話をするわね。
私はこれでも成績トップのくノ一なの。
でも、一流のくノ一は召喚獣が一匹必要でね。
それを私はしばらく持つことが出来なかったの。
召喚獣を召喚するにはある一定の儀式と魔力が必要なの。
忍者だから忍力と言っても良いかしら。
その忍力が足りなかったのか儀式の仕方が悪かったのか今となっては分からないわ。
ある日、私はいつものようにその儀式をしたの。
何十回とした儀式だから本を見ずに1人で出来るようになっていたわ。
でも、その日は何か間違えていたみたい。
それとも今までが間違っていたのかしら。
私の忍力が全部吸われ召喚獣がいきなり4匹も召喚されたの。
こんなことは前代未聞だって学校中騒ぎになったわ。
だからこのことを知っているのは私の学校の担任と校長先生。
そして私のくノ一の友達とあなただけよ。
お義父様も知らない事実だから。
だから内緒にしてね」
と彼女は説明してくれた。
彼女は
「ここまで説明したところで口調を変えるね。
僕は君の恋人だから」
と男言葉モードになった。
そうするとどこからともなく笑い声が聞こえてきた。
彼女のベッドからのような。
私はベッドに目をやった。
そうしたら小さい声で
「いきなり僕って」
「何、今のかっこつけたような言葉」
「ご主人様の男言葉初めて聞いたわ」
「ぷぷっ、かっこわる〜」
確かに空耳ではない。
私が彼女のベッドに行こうとした矢先彼女の方が先にベッドの方へ行っていた。
彼女は
「こら、ぬいぐるみのフリをしろって言ったじゃないか。
何、しゃべっているんだ」
「何、そのしゃべり方。
らしくない。
普段のしゃべり方をしなさいよ」
私は呆気にとられていた。
彼女は諦めたかのように私にぬいぐるみ4体紹介してきた。
彼女は
「もう召喚獣の話をしたから隠しておく必要がないね。
この4体がぬいぐるみに見えるけれど召喚獣なんだ。
左から虎のティグリー、龍のドラコ、孔雀のピーコ、鳳凰のフィーニー。
みんな女の子さ。
本来の姿は君が見たとおりなんだけど・・・。
本来召喚獣は異空間に収容しなければならないんだ。
でも僕はそれが出来ない。
ていうか、4体もの召喚獣を収容することは現在の魔法でも不可能なこと。
でも召喚獣を本来の姿で外に置いておく訳にも行かない。
パニックになるしね。
だから僕はぬいぐるみのカタチに変化させているんだ。
僕はぬいぐるみが大好きだし」
その間もぬいぐるみたちは大爆笑している。
よっぽど普段のしゃべり方と違うのか。
彼女はぬいぐるみたちに向かって
「僕の出自は知っているはずだろう。
何でそんなに笑うかな」
ぬいぐるみの1人は
「そりゃぁ、笑うわよ。
元男の子だって事は知っているけど。
あなた、心は女性そのものでしょ。
私たちに接する時も女の子として接しているし。
大体、いつも私たちを抱きしめて寝ている女の子のあなたが急に男言葉を話しても説得力がないわよ」
彼女は
「恥ずかしいことを言うな。
僕は小さい時は男として育てられてぬいぐるみの1つも買ってもらえなかったんだからしょうがないだろ」
顔を赤らめて反論していた。
反論になっていないけれど。
彼女は女の子だけど私の前では男の子でいたいみたい。
そう思うと彼女が余計に可愛く見える。
私は彼女に
「ねぇ、くノ一の学校のことを聞かせてよ。
一体どんな授業を受けているの」
と聞いてみた。
彼女は
「別に普通だよ。
座学と実技と言ったところだよ。
座学はくノ一の基本の忍法の原理。
これが結構難しいみたいなんだ。
周りのクラスメートは四苦八苦しているから。
そして実技での実践。
手裏剣術とか剣術とか。
他にも変わった武器があったかな。
まだ、やっていないけど」
彼女は一通り授業内容を話してくれた。
私は
「クラスに友達はいるの?」
と聞いてみた。
彼女は
「もちろん、友達はいるよ。
僕の事情も知っている。
彼女たちには凄く鍛えられたよ。
もちろん女子として。
だから彼女たちのおかげでそれなりの女子の振るまいが出来るしね。
裸の付き合いもしている仲だしね」
彼女ははっとして
「それはあの、女の子としてちゃんと生活できるようにとの訓練としてだけど。
とにかく変な意味はないから」
と私は何も言っていないのに釈明してきた。
私は彼女の裸を見たことがない。
だから彼女の友達が羨ましくもあった。
だから今夜一緒に入ろうと約束をした。
もちろん、彼女が本当に女なのかを確かめる目的もある。
(もちろんちゃんとした女の子でした)
そんな会話をしている間、ぬいぐるみたちはずっと笑い転げていた。
ぬいぐるみたちにとって男言葉の彼女に慣れるまで時間がかかりそうだ。