風来坊太郎の経歴
「ねえ、風来坊太郎っていったい何者なの?」
俺は風来坊太郎。
どうやら世間からは、このように思われているようだ。
いるのかいないのか、わからない、存在感が無いと。
まあ、もう少し俺の話を聞いてくれ…。
俺が生まれた時にはもう、両親はいなかった。
ネグレクト【育児放棄】をしていたということで、子育てをする能力も意思も無かったのだろう。
父親も、母親も、俺を捨てて逃げた。だから俺は両親の顔も、名前も知らない。いや、知ろうとも思わない。
そして、両親は俺に一度も会いに来なかった。一度も迎えにも来なかった。
この風来坊太郎という名前も、俺が勝手に名乗っているだけで、実際には本名は不明。
『風来坊』とは、あてもなく旅を続けてさまよう人のことを言うらしい。
だから俺は、『風来坊太郎』と名乗ることにした。
そして、生まれてすぐに俺は、児童養護施設に預けられた。
それから俺はその児童養護施設で育ち、小学校、中学校、高校と行かせてもらった。
しかし学校ではほとんど友達もできなかった。
好きな女の子はいたが、その子は他の相手とつきあっていた。
そして高校を卒業すると、児童養護施設からも退所し、本当にあてもなく文字通り風来坊のごとく生きることになった。
とまあこれが、俺、風来坊太郎の今までの人生の経歴だ。
風来坊太郎から見た、最近の風潮。
最近では知識、教養を問うクイズ番組などがもてはやされ、幅広い知識が必要となる。
その一方で、特定の物事しか興味を持たない人たちもいる。
たとえば、異世界ファンタジーの転生ものなら、異世界ファンタジーの転生ものしか興味を持たない、
それ以外の分野のことには興味を持たない、という人たちもいるようだ。
また、あるいはスマホゲームならスマホゲームにしか興味を持たない、
それ以外の分野のことには興味を持たない、
そういう人たちが『ゲーム依存症』とか『ゲーム障害』とか、
まるであたかも、彼らが病人や障害者であるかのように、世間では扱われるようになってきている。
また、あるいは誰彼構わずネットの掲示板に悪口を書き込むことしか興味を持たない、という連中もいる。
『風来坊』とは、あてもなくさまよう旅人ということらしい。
まるで俺の今までの人生のようだ…。
それならば、本当に知らない土地に旅をしたい。
知らない土地に旅をして、気ままに暮らしたい。
日本中、いや世界中、海を越え、空を越え、国境を越え、地平の果てまで、旅をしたい。
それが『風来坊太郎』と名乗る自分の、満たされない思いだった。
それがまさか、あんな形で叶うことになるなどとは、この時はまだ、全く思いもしなかった…。