表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その白い花が咲く頃、王は少女と夢を結ぶ  作者: 新道 梨果子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

13. 帰城

 去っていく馬影を、見えなくなるまで見送った。

 来てくれた。助けてくれた。抱き締めて、くれた。

 なのに、怒らせてしまった。

 当然だろう。

 せっかく、こんなところまで来て保護を申し出てくれたのに。それを受けることができなかった。

 なんて無礼なことをしてしまったのだろう。


 その場にしゃがみ込んで、膝を抱えて丸くなる。

 もう消えてしまいたいような、そんな気分だ。


「リュシイ殿、大丈夫ですか?」


 兵士たちが慌てたように声を掛けてくる。


「どこか痛みますか。お怪我はありませんか」

「だ、大丈夫です。それより、そちらは」


 バーダンに斬りつけられた兵士だった。

 慌てて立ち上がる。心配を掛けさせてはいけない。


「少し痛みますが、大丈夫ですよ」

「ごめんなさい、私のせいで」

「いいえ、大したことはありませんから」


 そう言って、にっこりと微笑む。


「むしろ、お守りすることができなくて、申し訳なく思います」

「そんなことないです」


 彼は本当に、身体を張って守ろうとしてくれたのだ。

 動きは早かった。

 リュシイが気を抜いて、ライラを信じ切ってしまったから、連れ去られてしまったのだ。

 彼のせいではない。


「それに、陛下に直々にお声を掛けていただけました。本当に身に余る光栄です」

「ああ、驚いたよなあ!」

「隣にいて、俺も感激したよ!」


 興奮冷めやらぬ、といった感じで、三人の兵士たちが語っている。

 彼は、こういう立場の人間なのだ。

 すぐ傍にいても、やっぱり遠い存在なのだ。

 自分なんて、とても手が届かない人なのだ。


 だから、傍にいてはいけない。

 忘れなければならない。


 自分が、彼を、傷つける前に。


「リュシイ殿は大変だったでしょう。本当に、無事で良かった」

「え、ええ。でも、陛下が助けてくださって」


 それを言うと、兵士たちは顔を見合わせた。

 そしてリュシイに問う。


「陛下自ら、現場に?」

「……ええ」

「それで、こちらに立ち寄られたのか……」


 なるほど、と兵士たちは何度かうなずく。


「まあ、それはそれとして」

「ひとまず、こちらにいらしてください」


 彼らはリュシイを天幕の中に誘う。


「お疲れのところ申し訳ありませんが、今回の事件を把握したいので、少々お話を」

「あ、はい」

「男ばかりが住む仮宿ですから、汚いですが。あ、大丈夫です。指一本触れませんから、ご安心なさってください。我々も、命は惜しいので」

「はあ……」


 命は惜しい? どういう意味だろう。

 もしかしたら、手を出したとしたら、リュシイが彼らに危害を加えるように見えるのだろうか。

 仮にそうでも、兵士である彼らに敵うわけもないのに。


「なるほど、そうかあ」

「そういうことか、なるほどねえ」

「なるほどなるほど」


 なにやら納得して、何度もうなずく兵士たち。

 リュシイは訳がわからずに、首を捻った。


          ◇


 城に帰って厩舎に馬を預けていると、ジャンティが厩舎に駆け込んできた。

 その姿を見ると、気分がどんよりと落ち込んでいく。

 本当に、今回のことを彼にどう言えばいいのか。


「陛下! ご無事で!」

「ああ、心配させてすまない」

「本当ですよ!」


 そう鼻息荒く言ったあと、ジャンティは小首を傾げた。


「……陛下。彼女は……?」


 きょろきょろと辺りを見渡しながら、ジャンティが言う。

 そしてオルラーフの紋章入りの馬車に目を止めた。


「あっ、馬車の中ですか」

「……馬車には、罪人を乗せている。後を頼む」

「はあ……それはもちろんですが。では、彼女は?」


 覚悟を決めた。

 そのまま事実を言うだけだ。


「村に帰った」

「はああー?」


 ここまで素っ頓狂な声をジャンティが出したのは、聞いたことがない。

 きっと、彼の人生で初、なのではないか。

 もう、頭を抱えたい。


「あんな大口を叩いておいて?」

「……言うな、もう」

「いいえ、言わせてもらいます!」

「彼女が村に帰りたいと言ったのだ。仕方ないだろう」

「どうあれ今度こそ、攫ってでも手元に置いておくべきだったでしょう!」

「実際、攫うわけにもいかないだろう」

「妃にすると仰ったのは誰ですか! あれは嘘ですか! 攫わずとも説得なさってください! だから行くのを許したのに、なんですか、この結果は!」


 どんどん傷を抉ってくる。

 自分が蒔いた種とはいえ、さすがに堪える。


「……今回は、心から反省しているのだ。すまないが、本当にもう、言わないでくれ……」

「いや、でも!」

「私は寝る。しばらく一人にしてくれ」


 結局。

 逃亡、という結論しか出なくて、そそくさと厩舎を後にした。


          ◇


 何があったか知らないが、とにかくレディオスは逃げた。


 となると、残った者に聞くしかない。

 彼らがジャンティの問いに答えてくれるかどうかはわからないが、それしかない。

 そう思って振り向くと、親衛隊の一人が厩舎から去ることなく、すぐそこに立っていた。

 これは、報告しようということだろう。


「教えてもらえるんですね?」

「ええ、我々も、話しておいたほうがいいかと思いますから」


 穏やかな口調で言われて、安堵のため息をつく。

 それなら話は早い。


「で、彼女は王城に戻ることを拒否したので?」

「そうです」

「陛下は彼女を説得できなかったんですか」

「ええ。まあ、いろいろ説得なさっていたようではありますが」

「が?」

「傍から聞いていると、少なくとも、女性を口説いているようには聞こえませんでしたね」


 大きくため息が出た。

 なんとなく、わかった。

 一人は危険だとか、王城が安全だとか、そんなことしか言っていないのだ。


 そうじゃない。

 彼女を説得するには、そんな言葉では駄目なのだ。

 どうしてそれがわからないのか。


 少なくともジャンティの目には、リュシイがレディオスを意識しているように見える。

 ジャンティだけではない。リュシイが王城にいる間、一番長く一緒にいたアリシアだって、そう言っていた。

 レディオス次第で、彼女はこの城にやってきたはずだ。


「陛下は女性を口説いたことがあるんでしょうかね……」


 ジャンティの問いに、苦笑しながら男は答えた。


「覚えがありませんね。口説かれたのは何度か聞いたことがありますが」

「やっぱり……」


 額に手を当てて、ため息をつく。

 自分から望まなくとも、何でも手に入った人間は、これだから。


「あなた方が陛下直属ということはわかっていますが、一つ、お願いしたい」

「我々ができることなら」

「リュシイ殿の監視。それと護衛」


 すると目の前の男は小さく笑った。


「もう念のため、つけております。さて、ジャンティさまにおかれましては、期間はいつまでをお望みで?」

「彼女が、ここに帰ってくるまで」

「ほう?」

「そう長くはありません」


 リュシイが城に来ない理由に、心当たりがないわけではない。

 彼女は彼女で、いろいろ考えたりはしているのだろう。その意思を尊重したいとも思っていたが。

 だがもう、遠慮はしない。


「王子であったころ、キルシーの姫君との縁談話はあったんですよ。当時は姫君はお生まれになったばかりだったから、陛下が即位されてその話は流れましたけどね」

「ええ」

「姫君の成長を待ったほうが早かった、なんてことになったら、もう……もう……こんな情けない話がありますか……。それに、下手したらキルシーとの国交に影響が出ますよ」


 どうしてこんな愚痴を垂れ流しているのか。

 けれどなぜか止まらない。


「最悪、陛下ができないなら、私がやります! まったくもう、あの人たちは! 私の仕事を増やさないでいただきたい!」


 憤慨しながら、言う。

 目の前の男は、にっこりと笑って返してきた。


「大丈夫ですよ」

「え?」

「大丈夫。我々は、そう思います」


 男の目をじっと見る。なにを根拠にそんなことを言っているのかはわからないが、だがそれで少し落ち着いた。


「あなた方は、陛下に甘いですからね……」

「ジャンティさまほどではありません」


 その言葉に、はあ、と何度目かも知れないため息をつく。

 次に顔を上げたときには、目の前から男は消え失せてしまっていた。


「まあ……とりあえずは、目の前のことを片付けますか」


 馬車に歩み寄ると、扉を力いっぱい開ける。

 縛られたまま転がっているブレフトが、顔を上げた。

 ああ、忌々しい。

 八つ当たりでもなんでも構うものか。


「外患、不敬、誘拐、暴行! 覚悟しておきなさい! オルラーフは確実にあなたを切り捨てますから、逃げ道はありません!」


 それだけ言うと、ブレフトの顔色が目に見えて青くなった。

 これだけ重ねれば、極刑は間違いない。そのことを理解したのだろう。


 そして扉を思いっ切り閉めた。

 少し、すっきりした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


少女は今夜、幸せな夢を見る
↑この話の前編の、本編に当たる物語です。

銀の髪に咲く白い花
↑この話の続編に当たる物語です。 よろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ