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71話 病みの竜王

「クックック……ハッハッハ……ハァーハッハッハ!」


 闇の竜王の大笑が響き渡る……


 深夜の集落の風物詩と化し、『これが聞こえないと眠りが浅くなる』などと最近は評判の高笑いが、闇に閉ざされた限界集落にこだました。


 近隣集落においては『風鳴りにしては低すぎる』『森で死んだ怨霊の声だ』などと怪談としてささやかれるこの笑い声ではあるが、慣れというのは恐ろしいものであった。


 いずれ、この声が聞こえる範囲にいるすべての者が、この笑い声に慣れる日も来るのであろうか?


 闇の竜王にはわからない。

 なぜならば、かの存在が司るのは『闇』……なんもわからん。さっぱりわからん。俺たちはなんとなくで闇属性をやっている。つまり――先行き不明を司るも同じ……!


「ククククク……これが笑わずにいられようか! なあ――『光の』!」


 闇の竜王はかたわらに浮遊するものへと語りかけた。


 そこにはやや光量おさえ気味の光の球体が浮かんでいる。


 そこからは落ち着いた、青年のような声があがった。


「……ヴァイスさんの思想は、私と同じ箱庭思想だ。自分がすべてを差配したいという願望……まあ、管理癖というよりは、もう少し違うなにかだろうけれど、なににせよ、ディストピアにつながりかねない。私としては笑えないね」


 集落で交わされるあらゆる会話は、光の竜王はもとより、闇の竜王にさえ筒抜けだった。


 光の竜王の情報巡回業務とは別に、闇の竜王はお子様組の安全のためにつけている竜骨兵から、会話などが流れ込んできてしまう。

 これは安全のための監視システムではあるのだが、安全に関係ない情報まで入ってきてしまうし、なによりどうやってオフにすればいいか闇なのであった。


 ともあれ――闇の竜王は笑う。


「フハハハハ! 光の、貴様も存外、ものがわからんと見える」


「私の笑いのポイントは君とはちょっと違うんだよ」


「ヴァイスは、この俺さえ幸福にしてみせるとのたまった(・・・・・)のだぞ」


「……」


「ただのヒトの分際で! この竜王たる俺を! 他のヒトどもと同様に! 幸福にしてみせると! フハハハハハハハハハ‼︎ こんなに楽しいことがあるか⁉︎」


「君は、竜王と他の生物とを等しいものと認めたい。だから、そうして、ヒトと同じ位階に扱われて、楽しいのだろう。けれど私はまあ……もう少し冷めているよ。ゲームのキャラがプレイヤーに語りかけてくる演出は熱いけれどね。彼らはしょせん、言うだけ(・・・・)さ。そこに実行力を期待するのは、少し、頭がおかしいと私は思ってしまうね」


「そうかそうか! なぁに、まだまだ時間はある。見せてもらおうではないか、ヒトが――貴様の言う『ゲームのキャラ』が、竜王という位階の違うものに――『現実』に影響を及ぼすのを!」


「まあ、君の趣味にはとやかく言うまいよ。私は苦言を呈するのが嫌いだ。私だって、私の生活に苦言を呈されたくはないからね。そういうのは『土の』に任せるさ」


「ところで貴様、最近はよく来るが、暇なのか?」


「仙界の発展に少し飽きている。今は、新しい箱庭でも作りたいなと思っているところだね」


 ここで闇の竜王はじゃっかんあきれた。


 だが、竜王としての常識からすれば、光の竜王のほうが、より竜王らしい態度でヒトに接していると言えた。


 飽きたら、やめる。

 飽きたら、捨てる。


 竜王にとってヒトとはそういうものだ。

 あるいは世界そのものさえ、そういうものと言えるかもしれない。


「やはりね、私は思うんだよ。箱庭は作り始めのわたわた(・・・・)するところが、もっとも面白い。安定してしまったあとは、義務感というか、惰性というか、そういうもので続けはするけれど、あまり面白いとは言えないね」


「クククク……! 俺は飽きっぽいと自称するところだが、貴様もたいがいではないか、光の!」


「いやあ、これでも私は、この世界のヒトの感覚における百年単位でかかわるからね。ヒトにとっての時間の流れは、我ら竜王には早すぎる。そこに合わせてせかせか(・・・・)するのは、少しばかり疲れる。一方で君は、ヒトと似たような時間感覚を持っている。我らからすれば、飽きっぽいどころの騒ぎではないよ」


「フハハハハ!」


「今の、笑いどころがあったのかい?」


「いやあ、言われる通りだと思ったまでよ!」


「……君は、感情移入がすぎるんだよ。しょせんはヒトだろう? ……『土の』や『水の』には怒られるかもしれないが、私はね、仙界もリセット(・・・・)したいぐらいに考えている。正直なところ、君たちがヒトを大事にしすぎるのは、理解が及ばないね」


「とはいえ貴様も、箱庭の仙人どもから『考えること』を奪ってしまったと悔いていたではないか。感情移入ならば、貴様とてしていよう」


「いやあ……嫌われそうだから言えなかったが、あれはそういう意味ではないんだよ」


「ふむ?」


「てんでバラバラに考えられるのは面倒くさい。一方で、そういうランダム性がないと楽しくない」


「……」


「ようするにね、気分次第なのさ。その時、どういう遊び方をしたいか――管理癖があるのを自認するところの私はね、管理された美しい状態を好むが、一方で、管理されていないバラバラの状態を管理された状態に持っていくところに喜びを感じる側面もあるのさ」


「フハハハハ! 貴様は――竜王よな、真に!」


「君は竜王らしくはないよね、本当に」


「正反対と言えよう!」


「だからこそ、君と話すのは楽しい」


 光と闇の竜王は、互いに笑いあう。


 もっとも、その笑いは、片方は光球で、片方は骨なので、余人には窺い知れないものではあるが……


 ひとしきり笑ったあと、光の竜王はぽつりと述べる。


「ともあれ、君がここを管理するのは、私とまったく違うスタンスによるものだというのは、もう、完全に理解した」


「そうかそうか」


「あるいは口出しをしようかとも思ったが、私がなにかを言わない方がいいだろう。人の遊び方に口出しをするのは、したくなるものだが、やるべきではない」


「その通りよな! ……だが、まあ、もう少しの配慮を求めるとすれば」


「?」


「俺は『管理』をするつもりもなく、『遊び』のつもりでもない。そのように区切ってしまうから、つまらなくなるのではないか?」


「……なるほど。一理あるね」


「であろう」


「けれど、そうした方が楽しいから、ある日突然、そう思い込むというのは、難しいよ。私はどうしても、ヒトと己を対等に見ることはできないし、それは、あらゆる竜王がそうだろう。竜王としてヒトと付き合うならば、一番うまくやっているのは『水の』だろうね」


「俺を除いた竜王はそうであろうな」


「君も含めて、そうだと思っているよ」


「……ほう」


「もっともそれは、君の責任ではないだろう。竜王として生まれてしまったがゆえの仕方なさ……君の『ヒトと対等たらん』という矜持と、実際の君の位階の高さとの齟齬から生まれるひずみ、というのか……」


「フハハハハ!」


「笑うところがあったかい?」


「難しいことを考えるなと思ったまでよ!」


「そうか。……君がそうしてなんでも楽しく笑うところを、私はちょっとすさまじいほどの美徳だと思っている」


「そうか!」


「だからこそ、君にはそのままでいてほしい」


「……」


「あるいはこれも『管理され変化のない状態を美しいと感じる』私の性癖ゆえかもしれないが……笑っていてくれよ、最後まで。どのようなかたちであれ。もしも君が笑えないような事態になるなら、私はそうした連中をすっかりデリートして、最初から全部やり直すのも手かと思っている」


「大雑把よな、貴様も」


「どうかな。『風の』あたりは乗ってくるだろう。『炎の』は、まあ、提供できる過程次第かな。『土の』と『水の』は現在の世界が好きそうだから、反対するだろう。もちろん君もだ。つまり――私がうまくやれば、三対三になる」


「……」


「どうしたんだい? 『それもよかろう』と笑うのが、君だろう?」


「いやあ、今のは引くな」


「引く⁉︎ 君が⁉︎ 私に⁉︎」


「フハハハハ! 俺こそが闇の竜王……だが、今の貴様の発言は『(ダークネス)』ではなく『病み(シック)』よ! そちらはちょっと取り扱っていない!」


「私は距離感へたくそ竜王だからな……そういうこともあるかもしれない」


「距離感のうまい竜王などいたか?」


「『水の』……いや、ううん……どうかな」


「竜王とは距離感がヘタクソなものよな!」


「……ともあれ、まったくすべてが本気ではないが、ある程度はそういう可能性もあることを、覚えておいておくれよ」


「覚えておこう。だが、覚えたところでどうにもならん! 未来の己がどうなっているかなど、俺には見えぬのでな!」


「私も、君の件について、未来を閲覧することはやめた。だが、ヒマだとついつい見てしまうので、こうして暇つぶしに来ているというわけさ」


「フハハハハハハハハ! では、もうしばし語らおうか、光の! 俺とて集落の連中が目覚めるまでやることがないゆえにな!」


 竜王の雑談は続く……


 なお、闇の竜王は集落において定まった仕事がないので、集落のみんなが起きて来ても、特にやることはないが……


 それについて突っ込む者は、この場には存在しなかった……

今週分更新終了

次回更新は12月14日(月曜日)20時予定

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[一言] そろそろギャグ分が欲しいなぁ…
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