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3話 畑を守ろう

竜骨兵(りゅうこつへい)、番号!」

「いちー」

「にー」

「さーん」

「しー」

「…………ご? あるいは、ろく?」

「貴様は五だ」

「ご! ご、ご、ご!」



 畑に骨の粉末を撒いて、水をやって数時間。

 女の腰ほどまでの高さしかない、五体の竜骨兵が完成した。


 骨を削りだして作った、兵士のデフォルメ人形というような容姿をしている。

 見た目ははっきり言ってかわいらしいし、強そうには見えない。



「ふーむ……一人、頭の弱いのがいるな……土に栄養があまりないのかもしれぬ」

「あの、闇の竜王さん……」



 女がおずおずとたずねてくる。

 闇の竜王は、長い鎌首をもたげて、女の方を見た。



「どうした、女よ」

「……え、えっと、その子たちに戦わせるんですか?」

「そうだが」

「そんなにちっちゃくてかわいらしい子たちに、ですか?」

「貴様、ヒトと魔の戦争がもっとも激しかった時代を知らぬらしいな」

「……えっと、はい……」

「その当時、俺の骨より作られた竜骨兵が猛威を奮った話は、あまりにも有名だ。俺の骨より生まれた『闇の竜骨兵団』は、『見た目はかわいいのに戦いぶりは狂戦士』と呼ばれ、ニンゲンどもを恐怖のどん底に突き落とした」

「……」

「その時学んだのだ。見た目がかわいい方が、ギャップにより、より強そうに見えると……」

「……ええと」

「それ以来、俺の『闇の竜骨兵団』は、見た目はかわいく、戦いになれば狂戦士という方向性で強化を進めている……そして……そして! 見るがいい! この完成度! このどんなに重要な作戦中でもちょうちょを見たら追いかけていきそうな、間抜けなデフォルメ顔! 知性を感じぬ子供のような声! 三頭身のずんぐりむっくりしたフォルム! 短い手足!」

「……」

「クックック……ハッハッハ! ハァーッハッハッハ! 完璧だ! 竜骨兵ども! 貴様らの特技をこのお姉さんに紹介してあげなさい!」

「いちばーん。ひふをはぎまーす」

「にばーん。にくをそぎまーす」

「さんばーん。ほねをおりまーす」

「よんばーん。ないぞうをまぜまーす」

「ご! ……やることないです」

「以上だ!」

「あの、闇の竜王さん、五番ちゃんがやることないらしいですけど……」

「五番は大器晩成型なのだ。いずれこいつにしかできん役割が見つかるだろう」

「ご!」



 五番竜骨兵は力強くうなずいた。

 やる気だけは竜骨兵の中で一番かもしれない。



「まあ、竜骨兵は一日活動すると崩れるのだが……」

「ご!?」

「そのあたりの問題を解消するためにも、スローライフの中で、より質のいい竜骨兵の栽培方法を探していきたいと思う」

「闇の竜王さん、ひょっとして、畑で竜骨兵を育てるおつもりだったんですか……?」

「俺が育てられる作物はこれしかないゆえな」



 土と水さえあれば、身を削る(物理)だけで育つのだ。

 楽でいい。



「さあ、では、畑を荒らすボアを――そうだな、待ち伏せして、迎え討つか」

「は、はい……化け物たちは、夜になると現れて、畑を荒らすんです……私の作物も、それでダメになってしまって……」

「それでこの畑にはなにも植えられていないのか。……では、どのようにボアたちをおびき出すのだ?」

「あ、ダメになった野菜を、家から持ってきます。それを撒いておけば、おびき出せるかなあって……」

「ふむ。悪くない案だな。しかし、貴様はなにもない畑にいったいなにをしに来たのだ?」

「今日、本当は、ボア対策に網を張りに来たんですけど……そこに闇の竜王さんがいらっしゃったんで……」

「そうか……では、貴様は運がよかったのだな」

「……ええと」

「網が張られていれば、俺とて『ここは誰かの土地なのだな』とすぐに気付いた。そうすればこの土地に降り立つこともなく、貴様の願いを叶えることもなかっただろう」

「……」

「つまり、あと一日、網を張るのが早ければ、俺と貴様は出会わなかったということで――我が竜骨兵どもにボア退治をさせることもなかったというわけだ」

「……そうですね」

「ヒトよ、弱者たる貴様の尺度で測るのは難しいかもしれんが……貴様は『網を張るのが遅かった』という巡り合わせにより、俺という強大な存在に力を借り受けることに成功したのだ。これを幸運と呼ばずになんと言う!」

「……はい。幸運です」

「ならば、笑え」

「……え?」

「女よ、笑え。いいか、幸運に恵まれたなら、恐縮するな。恐怖するな。笑え。さすれば次の幸運も、貴様の笑い声に釣られて訪れようぞ」

「……」

「笑い方がわからんなら、俺が教えてやる。……まずは『クックック』と喉奧で押し殺すように笑うのだ。やってみろ」

「え、ええと……」

「やってみろ」

「は、はい……くつくつくつ?」

「違う。『クックック……』と、こうだ。楽しい気持ちをまずは抑え気味に表現するのだ」

「くっくっく……?」

「少しはマシか。次は『ハッハッハ』と――」



 闇の竜王による笑い方指導は、夜まで続いた――

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