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29話 住宅展示会

「闇の竜王さん、石材の家についてなんですが……」



 昼ごろ。

 闇の竜王が、己の寝所の中にて、深い瞑想にふけっていた時である。

 ヴァイスが現れ、困ったような顔で切り出した。


 このヴァイスというのが、真っ白い混血の少女である。

 頭上にある二等辺三角形の耳と、太い尻尾はまぎれもなくヒトの側たる獣人の特徴。

 けれど、その白すぎる肌は、他の種――おそらく魔の側に属する精霊種のものであろう。


 その純白の色みと、多少マシになったとはいえボロボロの衣服、いくら食べても太くならない、血色が悪く痩せた体つきなどのせいで、やけに儚い印象がある。

 その少女が――



「どういうデザインがいいかと思いまして、ミニチュアを三つほど用意しました」

「……ククククク!」



 闇の竜王は思わず笑った。

 ヴァイスには(ヴァイスだけでやれとは言っていないが)、石材を用いて寝所を作るよう命じていたが……


 命じたのは昨日の昼だ。

 ちょっと仕事が早すぎるうえに、むやみに手慣れた感がある。



「ヴァイスよ……貴様、寝ておらんな?」

「え? あ、えっと……まったく寝ていないわけではないんですけど、たしかにちょっと、夜更かししちゃったかもしれません」

「フハハハハ! 愚か者めが! 貴様は長くこの俺に奉仕する身……! 体調管理には気を付けろといつもうるさく言っているはずだ! 俺の忠告を聞かぬとは、貴様、命がいらぬらしいな……!」



 闇の竜王は知っている。

 医療という概念から遠く離れたこの地において、ちょっとした油断が死を招くことを!


 ましてヴァイスのような若者は、栄養も睡眠もたくさん必要なのだ。

 夜更かし、ダメ、絶対。



「ご、ごめんなさい……でも、おうちのデザインを考えるのが楽しくて、つい」

「……まあいい。どれほど俺が昨日の貴様を責めたところで、昨日に戻って睡眠を取り直すことはできぬ……! この闇の竜王、昨日の失敗を過剰に責めるなどという愚は犯さぬ! 今日より気を付けるのだ!」

「は、はい……ありがとうございます」

「しかし、ミニチュアとはな。貴様、住宅販売営業の素養があるのではないか?」

「そうなんでしょうか……?」

「まあいい。とりあえず貴様のプレゼンを聞こう」



 闇の竜王は骨だけの首を起こす。

 ヴァイスは地面の上に三つの小さな家を並べた。



「まず、こちらが――」

「待て」

「……はい?」

「そのミニチュア、石でできているようだが……ミニチュアを作るためにわざわざ石を小さく切り出したのか?」

「そうですけど……」

「フハハハハ! 愚か! 石を切り出すよりも、木材の端切れなどを再利用した方が簡単で自然に優しかったであろうが!」

「あ、そうでした……でも、石を切るのも、木を切るのも、手間的にそんなに変わらないっていうか……あの、闇の竜王さんにいただいた大工道具があるじゃないですか」

「あるな」

「あれ、石がスイスイ切れるんですけど、なにでできてるんですか?」

「フハハハハハハ!」



 今明かされる、この集落で用いられる工具類の正体!

 それこそは――



「この俺の骨よ!」

「えええええ……!? や、闇の竜王さん、ちょっと骨身を惜しまなさすぎでは……?」

「俺の骨などミルクに浸かれば増えるのだ。利用しない手はあるまい……! それにだヴァイスよ。貴様は勘違いしておらんか? 俺の骨でできたから、並の金属より丈夫で、劣化もなく、切れ味もいい……そのように思ってはおらんか?」

「違うんですか?」

「クククク……! 愚か者め! この俺がむざむざただ便利なだけの道具を惜しみなく与えると思ってか! 闇の竜王は、貴様らの自立を促す者よ! 俺の骨でできた工具は、持ち主の想いの強さにより、その丈夫さや切れ味を変える……! 石をスイスイ切ったのは俺の骨が優れているというだけが理由ではない! 貴様が懸命にやったからこそよ!」

「想いに応じて……? ど、どういう仕組みなんですか……?」

「クックック……ハッハッハ……ハァーハッハッハ! 闇とはすなわち正体のわからぬもの! 気にするな!」



 詳しい仕組みを聞かれても、無駄……!

 なにせ闇の竜王自身、よく知らないのだから!


 闇の竜王シリーズの工具はノコギリ、ホネヅチ(骨製カナヅチ)、ノミなど多岐に渡る。

 武器はナイフが十六本のみあり、これらはダークエルフたちに与えられているのだ。



「よ、よくわからないけど、便利なものですね……」

「便利……便利か!」

「え、ち、違うんですか……?」

「フハハハハ! そも、効率だけで言えば、俺製の道具に頼るより、水の竜王にやらせた方が早い……! 俺の骨身を削った道具は、気分屋! 使い手のモチベーションを維持できなければあっというまにナマクラと化す! ある意味で通常の道具より不便とも言える……」

「たしかにそうかもしれませんけど」

「しかし、最初は効率よりも『自分の手でやってみること』が肝要! そも、貴様らはゼロから技術を習得している段階……! ならば実際にやってみて経験してみなければ、改善や進歩の方向性自体がわからぬ……! そのために貴様らは、やらずともいい苦労をさせられているのだ……! フハハハハハ!」

「思いやりなんですね。ありがとうございます」

「……貴様の相手が最近やりにくい!」



 ヴァイスはもともと精神が強いのだろう。

 最近まったく震え上がらないので、闇の竜王はちょっと寂しい。


 闇の竜王は自立進歩を促す者であるが……

 めきめきと成長されると、それはそれで複雑な心境なのである。

 ダンケルハイトみたいに手を離れた途端酒浸りというのも困るけれど……



「……話が逸れたが、貴様のプレゼンを聞こうか」

「あ、はい。では……こちらの家ですけど、なんと……壁があります」



 ヴァイスによるプレゼンの結果――

 闇の竜王の新居デザインは決定した。


 完成を待て!

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