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26話 寝床を拡張しよう

「闇の竜王様、そろそろ寝所を大きくなさってはいかがでしょうか?」



 夜――

 おやすみのあいさつをしに来たダンケルハイトから、そのような提案があった。



「ハァーハッハッハ!」



 闇の竜王は哄笑する。

 いきなり言われたもので、とっさに返事が思いつかなかった。

 それゆえに笑って間をもたせたのだ。


 そう、闇の竜王は知っているのだ。

 少しでも困った時は、とりあえず笑えばいいということを!



「……ダンケルハイトよ、この寝所は俺が手ずから竜骨兵で作ったもの……たしかに以前の寝所よりは狭いやもしれぬが、それはそれ、スローライフというものよ」

「スローライフとは……」

「フハハハハ! 馬鹿者めが! スローライフとはいちいち説明されるものではない! 雰囲気で察するものなのだ!」

「し、失礼しました!」



 ダンケルハイトがひざまずき、頭を下げる。

 闇の竜王は寝所の中から夜空を見上げた。


 ダンケルハイトは、仲間内では強い子扱いされていて、実際武力は強いが……

 心は弱い子なので、怒鳴っておいて見つめ続けると萎縮してしまうのだ。


 そう、闇とはすべてを塗りつぶす深淵なる黒。

 しかし、その闇を司るからこそ、闇の竜王は知っている。


 同じ黒に見えるものにも、様々な個性がある。

 つまり闇の竜王は子供の個性に気を配る者なのだ。


『ダンケルハイトは体つきも年齢も、もう子供とは言えないだろう。こんなヘソだしムチムチダークエルフのどこが子供なのか、証拠を見せてもらおう』と余人ならば言うかもしれない。

 けれど闇の竜王にとって、おしめを替えた相手であるダンケルハイトは、いつまでも、いくつになっても子供なのであった。



「……しかしダンケルハイトよ、貴様にも考えがあろう。周囲のみなが就寝のため家に向かう中、わざわざ一人残って俺にそのようなことをのたまったのだ。貴様の考えを聞かせよ」

「は、はい。……実は、みな、思っていたことがあるのです。けれど闇の竜王様への進言は勇気がいること。であれば、あたしが代表し、述べさせていただこうと……」

「つまり、なんだ?」

「闇の竜王様、その、あなた様におかれましては……」

「……」

「お太りあそばしたようで……」

「…………」

「ちょっと、見ていて心配になるぐらい、家からはみ出ているのです」

「……クックックック!」



 笑うしかねえなこりゃ。

 なるほど、言われてみれば、たしかに、妙に家が狭い。


 ミルク風呂に毎日浸かり、そうでなくともミルクを浴びているが(その後はもちろん体を綺麗に拭いているのでミルク臭い竜王ではない)……

 そのせいで、骨が肥大したようだった。


 そう、闇の竜王は肉も皮もない超生物。

『ミルクを浴びた程度でそんなに簡単に骨が肥大するのか?』と余人は疑うであろうが、それは通常の生命の話。闇の竜王に常識は通用しないのだ。


 すべては気分次第!

 信じる心が体を大きくもし、また、小さくもするのだ。

 ミルクは本当に必要?



「ハァーハッハッハ! ダンケルハイト!」

「は、はい! 差し出がましいことを申し上げました!」

「かまわぬ! ……だが、たしかに家が狭い。……それに、主食が手に入り、ミルク、野菜の安定供給がなされ、貴様らが祝福なき土地に拓いた畑でも順調に作物が実っている……」

「いえ、すみません、まだあと数ヶ月は成果がわかりません……」

「……実る可能性が感じられる! つまり、この土地はそろそろ次の段階に進むべきなのだろう。なるほど、スローライフレベル2が始まろうとしているならば、俺の寝所もそろそろ拡張の時期が来ているのであろう」

「で、あれば……」

「うむ。寝所の拡張をしよう。ダンケルハイトよ、よくぞみなを代表し俺に諫言した。貴様のプライドの高さは玉に瑕だが……そういうリーダー性と責任感を、俺はかっているのだ。これからも励めよ」

「ははあ!」

「……しかし、俺の新たなる家か……このまま、木製でただ大きくするだけというのはつまらんな……ククククク! ハッハッハ……ハァーハッハッハ! しかしこの闇の竜王、疑問をつぶやくと同時に答えが降りてくる者! すでに次なる我が寝所の姿は描いておるわ!」

「さすがです!」

「次の家は――石だ」

「石?」

「そうだ。俺は石材に手を出すぞ!」



 闇の竜王の哄笑が響き渡る。

 それは、遠く、遠く、世界を響き渡り――


 なぜか遠方で、土の竜王が胃痛を感じたという……

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