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20話 闇の竜王の帰還

「フハハハハ! 見ろ! あれこそが、俺の最近引っ越した土地よ!」



 闇の塊が上空より見下ろしているのは、森の中に一箇所だけある、木々のない土むき出しの空間であった。

 そこでは真っ白い獣人……のような混血や――

 エルフ――となにがしかの種族の血がまざった、ダークエルフたち――

 それに、上空からでは豆粒のようにしか見えない、小さな生き物(?)たちが作業をしている。

 どうやら拓けた土地に畑や道具小屋などの施設を作っているようだ。

 中には目的のわからぬ木製の大きな箱もあったりする。


 それを見守るように、壁のない建物内部には、骨のカタマリがあった。

 闇の竜王の本体――皮も肉もなく、現在は中身さえない、ドラゴンである。



「どうだ、貴様ら、名前――そう、名前はなんという?」



 闇の竜王は問いかける。

 上空に浮かび己の土地を見下ろす闇のカタマリ――

 その内部には、背から鳥のような翼を生やした、ひと組の男女がいた。


 金髪に金色の瞳を持つ、幼い双子の兄と妹だ。

 彼らは感情のうかがえない、ぼんやりした目で、深淵の闇そのものといった様子の闇の竜王の意識体の内部から、地上を見下ろしている。



「名前――」

「名前は、ない、です」



 双子は交互に口を開いた。

 顔も同じだが声も同じで、どちらが兄でどちらが妹なのだか、ぶっちゃけよくわからない。



「産まれたばかり――」

「最近、産まれたばかり、です」

「ククククク! 産まれたばかりだからなんだというのだ! 普通、名前は産まれてまもなくつけられるものよ! ……だが、それも偏狭なる考えと言えよう! 文化が違えば風習も違う! ……フハハハハ! この闇の竜王、異文化に敬意を払う者よ!」

「……」

「…………」

「しかし、名前がないと貴様らを紹介しにくいのも事実……! そこでどうだ、この俺が貴様らに名を付けてやろう!」

「名前――」

「名前を、つけてくれる、ですか?」

「そうだ。この闇の竜王、生き物に名をつけるのを得意とする……! 最近も二つほど名付けた。俺に名を付けられるということは、俺の加護を得るということ。具体的には、俺から名付けた相手への好感度がちょっとあがり、少しだけ優遇したい気分になるということ……!」

「……」

「…………」

「貴様らもそういう加護を受けたいか?」

「……」

「…………」

「己の意見もないか! フッ、フハハハハハハ! なるほど、産まれたばかり! まだなにをしていいか、なにができるかもわからぬ身! よかろう、では、貴様らの名は――兄の方!」

「……」

「…………ぼく、です」

「貴様は『これより己の運命を知る透明なる命』――」

「……」

「……ぼくです」

「――という意味をこめて、『クラール』と名付けよう!」

「……」

「ぼく、クラール」

「そして妹の方!」

「妹――」

「…………」

「貴様は『主張も意見もなにも持たぬ、まっさらな無』――」

「……妹」

「…………」

「という意味をこめて、『ニヒツ』と名乗れ!」

「にひつ」

「……クラール」

「そう、ニヒツとクラールだ! ……貴様らはこうして、別個の命、各々の名を獲得した。これよりは俺の指揮下で働き、個性を獲得するのだ。透明なる者よ、俺に交わり闇色に染まれ。無なる者よ。俺のもとで己だけのものを手に入れよ。貴様らにはなにもない。ゆえに、なにもかもを得ることができる」

「……」

「…………」

「ククククク! 今はなにもわからずとも、いずれ俺のつけた名を誇り、俺に名乗るのだ。そのために俺は貴様らに生きる術を教えよう」

「生きる――」

「生きる、術」

「……だが、まず、俺は貴様らを引き裂こうと思っている……」

「……?」

「……な、なんで?」

「ほう! 兄の方! クラールよ! 貴様にはすでに『恐怖』が芽生えているようだな!」

「……」

「……妹と離れるの、やです……」

「クククク! だが、嫌と言っても、俺は貴様らを引き離す……! この俺は闇の竜王……公序良俗にはこだわる者よ!」

「……?」

「…………?」



 クラールとニヒツが首をかしげた。

 闇の竜王は哄笑する。



「クックック……ハッハッハ……ハァーハッハッハ! そうか、貴様らは、貴様らを待ち受ける運命を知らなかったようだな……ならば教えてやろう。なぜ、貴様らが引き離されなければならんのか。それは――」

「――」

「それは?」

「――これから風呂だからよ!」

「風呂」

「――風呂とは?」

「産まれたばかりの貴様らだから知らんのか、あの浮島には他の清潔性をたもつ手段があるのかは、わからんが……風呂とは! 裸になり、入るもの! そしてあの土地には、女が三人、男が十五人、すでにいる……! つまり、男女別れての入浴は必然!」

「必然――」

「なんとか、ならない、です?」

「ならん! 世間では『幼いうちはセーフ』という風潮もあるようだが……この俺は闇の竜王! ぶっちゃけヒトや魔の『男が女湯に入っても幼いからと許される年齢』が何歳までなのか、よくわからぬ身……! なにせ闇の竜王に性別はないのだ……!」



 そう、闇の竜王に性教育はできぬ!

 なぜなら、産まれた時から骨だから、男女とか、ない……!



「よってこれより、貴様らは男女別々に、ミルク風呂に入るのだ……! クックック……ハッハッハ……ハァーハッハッハ! そして小さな『男社会』『女社会』を経験し、性差を学んでいくがよい……!」



 これこそが闇の竜王の提供できる性教育の場。

 女性の方はともかく、果たして兵隊くずれのダークエルフども十五名にクラールの性教育を任せて大丈夫なのか?

 ダメそうだったら、止めるだけ。

 そう、闇の竜王はなにごともまずは試してみるのだ……!

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