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9話 野菜が実ったので害獣対策を本気で考える

「ヒィィィ……!? 野菜が……野菜が実ってる……!?」



 ヴァイスは腰を抜かしておののいた。

 それはそうだろう――今しがた植えたばかりの種が、あっという間に芽吹き実をつけたのだ。

 その成長速度は間近で見ていて怖ろしさを覚えるほどであった。



「ククククク……ハハハハハハ……ハァーッハッハッハ! 見たか、これが、闇の竜王の――コネの力よ!」

「あ、あの、この野菜、本当に食べても大丈夫なものなんですか……?」

「安心するがよい!」



 とは言ったが、別に根拠はない。

 ふんわりと『土の竜王ならば野菜を食べられなくするような加護は与えないだろう』という信用があるだけであった。


 闇の竜王は発言の際に、いちいち『根拠』などというつまらぬものは気にしない。

 ただ、彼の中には根拠はなくとも確信があるだけなのだ。



「それにしても……スローライフ! 作物の実りを見ると、いよいよもってスローライフを送っているという感が強まってきたな……フフフフ……ハハハハハハハ! 陽光よ! 土よ! 水よ! この俺のためにこれからも励めよ!」

「と、とにかく、ありがとうございます……! これで、妹にお腹いっぱい食べさせられます!」

「ククククク……! 感謝の言葉が心地いい! やはりいいことをするのは気持ちがいいものだな……!」

「えっと、闇の竜王さん、いい人ですよね……?」

「『いい人』ではない! 俺は闇の竜王! 俺が『ヒト』に見えるか!?」

「ああ、種族について否定なさっていたんですか……」

「当たり前だろう。貴様とて『色白でケモミミの生えたモンスターですね』と言われればどう思う? 『違うだろ?』とは思わんか?」

「あ、は、はい。それは、たしかに……気を付けます……ごめんなさい……」

「反省はいいが過ぎたる恐縮はいらぬ! ……クククク! それにしても、作物が実った程度でこの喜びよう! まるで己に降りかかるすべての不幸が消え失せたかのような笑顔! まことに愚かと言わざるを得ぬ!」

「……え?」

「ククククク……! 貴様は気付いておらんようだな……作物の実りは、貴様を襲うさらなる不幸なる運命の序曲であること……!」



 闇の竜王は哄笑した。

 ヴァイスはしっぽを垂れさせ、恐怖に震える。



「ま、まさか……ここから、私を食べる気なんですか……?」

「フハハハハハ! 貴様を食べる、か。ある意味そうとも言えるかもしれぬ……」

「そ、そんな……」

「この野菜はこれより貴様の血肉となる……しかし、この野菜を狙う不吉な影について、貴様はすっかり忘却しているものと見える……! 愚か! あまりに愚か! そして、浅はか! 貴様は――『ボア』の存在を忘れているようだな!」

「……あ」

「そうだ、気付いたか……! まだ俺が処理したボアは一頭のみ……! 連中の『群れ』は消えておるまい……! 多くの野菜が実ったことにより、やつらがさらなる暴虐を働きに来るは必然……! そして襲い来るボアどもは、貴様の血肉となる野菜を貪り喰らう……! フフフフ……ハハハハハ! ボア問題を解決せぬ限り、貴様に平穏はないと知れ!」

「そ、そうでした……! ど、どうすれば……」

「ハァーハッハッハ! ……竜骨兵! 真夜中に貴様らがした働きを、このお姉さんにアピールせよ!」

「いちばん、『あしあと』をたどりました!」

「にばん、『におい』をたどりました!」

「さんばーん、『じゅもくのきず』をたどりました!」

「よんばん! 『たかいばしょからていさつ』しました!」

「ごばん、おるすばんしました!」

「「「「「みんなでぼあの『す』をみつけました!」」」」」

「ハハハハハ! よくやった貴様ら! 骨の欠片をやろう! これまでやった二つの欠片と組み合わせて遊ぶのだ! クククク……貴様らは知るまいよ! 俺がやったこれまでの骨の欠片と組み合わせることで、変形合体をするということを……!」

「「「「「ほんとだー!?」」」」」

「フハハハハハ! 褒美にはかすかなサプライズを……! これぞ闇の竜王の部下から好かれる九十九のコツの一つよ……!」

「あ、あの、闇の竜王さん、じゃあ、これから、ボア退治に出向いてくださるんですか?」

「退治!? 貴様、今、退治と言ったな!」

「え……ち、違うんですか……?」



 ヴァイスがすくんだようにあとずさった。

 闇の竜王は後ろ足二本で立ち上がり、骨だけの翼をいっぱいに広げる。

 するとヴァイスに降り注ぐ朝の陽光は陰り、彼女の周囲がおどろおどろしい影に包まれる。



「貴様は自然をなんと心得るか!」

「ヒィィィ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 殺さないで!」

「昨日、俺がボアを退治したのは、あのボアが貴様どころかこの俺さえ怖れぬような、完全なる害獣と成りはてていたからだ……! ああなってしまった獣は救えぬ……! 獣を救うならば、貴様を救わない選択をせねばならんかった……! 獣を救うか、貴様を救うかで、俺は貴様を救う方を選択したのだ……!」

「……え、えっと、あ、あ、ありがとうございます……!」

「しかし、この闇の竜王、救える命を無駄に散らすことはせぬ! そも、害獣という呼称はヒト基準のもの……! ボアどもは普通に生きているだけ……! 命、悪くない……! さらに連中がいれば除草剤いらずのうえ、糞は森をはぐくむ肥料ともなる! 畑さえ襲わぬよう話をつければ、共存とて可能であろうよ!」

「た、たしかに……!」



 ヴァイスは驚嘆していた。

 闇の竜王は依然として威嚇するようなポーズをとっているが、ここで恐怖し続けないあたりに、彼女の『慣れ』が見えた。



「これより俺が出向くのは、退治ではなく、説得だ!」

「で、でも、闇の竜王さん……ボアですよ……? 話は、通じるのでしょうか……?」

「通じぬならば、通じるようにするのが、この闇の竜王よ」

「どうやって……?」

「クククク! そんなもの、俺の骨の粉末を飲ませるだけのことよ……!」

「ええええええ!?」

「土中の微生物とて竜骨兵化する俺の骨粉に、不可能はない!」



 今明かされる竜骨兵衝撃の正体!

 果たしてすでにある程度の知能があるボアにも、闇の竜王の骨粉は通じるのか?

 まだ試したことは、ない……!

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