同窓会
ーーその男が私と接点を持ったのは、十年ぶりに開催された同窓会の時だった。
街中の居酒屋チェーン店と言う、全く面白みのない会場で行われたそれは、やはり会場が悪かったらしく、残業を早めに切り上げた私が駆けつけた頃には、既に帰路に着く者も多い様子だった。
「もっとオシャレなホテルなんかを貸し切っていれば、こんな事にはならなかったのよ。幹事の頭が庶民的な発想しかできないから、しょうがないんだけどね」
「そうそう。もう貧乏な学生じゃないんだから、大人の社交場としてさあ、、、」
隣の席に座る女子グループも、ある程度は私と同意見だった様だ。
しかし、彼女達の意見はどこかワガママと言うか、癪に触ると言うか。
幹事のグループから睨まれながらも、酒の力を借りて愚痴をこぼすその女共は、中流階級の旦那を持つ専業主婦らしい。
やっぱり。だと思った。
社会に出てもいないか、あるいは出てすぐにドロップアウトした人間に、そうやすやすと大人の社交場なんて言葉を使う資格はない。
どうせ、私が上司から嫌味を言われたり、軽いセクハラで悩んでいるときに、少し高めのランチでも食べてグチグチ言っているのだろう。
そう考えると、周りの目も気にせずに、キーキーと喚き散らすだけの「おばさん」に変わり果てた同級生の姿を見て、ここに来るまで同意見だった自分が少し恥ずかしくなっていた。
「風間さんもそう思うよね?」
不意に私にも同意を求める声がかけられる。
「え? う、うん。そうだね、、、」
『苦笑』というステキな笑顔で、話を合わせるだけ合わせた。
ああ、私はこんなババアにも、女子グループ特有のノリで話を合わせてしまうのか。
社会にでても、人間の、女の、本質的な部分は学生の頃と何も変わらないのだろう。
もう、頼むから話しかけないで。
騒がしい居酒屋の喧騒の中で、その想いは口に出すことも無く、ぐるぐると回る失望の渦に溶け込んで、消え逝くばかりだった。
わたしはもう一度辺りを見回し、深いため息をつく。
仲の良かった友人なんかは、既に帰路に着いてしまった様で、めぼしい同性グループは見当たらない。
幹事グループとその他おばさんグループ。
あとは、名前も思い出せないぼっち飲みの輩が数人。
同窓会に来てまでぼっち飲みとは、実に寂しい男共だ。ナルシストっぽいオーラも見え隠れして、相当気持ち悪い。
と、心の中で悪態をついてみたが、自分もその「寂しい男共」とそう変わらない立ち位置にいると気づき、グラスの中の酒をイッキに飲み干した。
仕事でも底無しにストレスを溜め、先週行方不明になったヒモの彼氏にもストレスだけを置き逃げされ、息抜きのつもりで来た同窓会でも、十年物のストレスが私を襲う。
全く、こんな事になるのなら、来なければよかった。
そう考えると、強くもない酒が進む。
ドロドロに酔って、この厳しすぎる現実から逃避したかった。
ーーこのまま泥酔して病院に運ばれたら、会社には出勤しなくてもいいのかな。
ーーヒモの彼氏も、心配して戻って来てくれるかな。
ーー楽に死ねる方法はないのかな。
そんな事ばかり考えていたら、なんとなく体が重くなってきた。
疲れているのだろう。このところ、残業も多かったし。
体に回り始めるアルコールのせいで、目の前がクラクラと揺れる。
そして、幹事グループが、遂に「おばさんグループ」に詰め寄った所までの記憶を残して、私の意識はぷつんと音を立てて切れた。