第9話 転進
「怪獣、武蔵境駅前で行動を停止」
官邸からそのような報告が入ってきた。
都庁からのカメラでも、怪獣が立ち止まっている様子が見える。
「死んだのか?」危機管理センターの幹部会議室で小松文部科学大臣がいった。
「いえ、まだ生存はしています」伊波が返す。
「自衛隊は再度攻撃しないのか?」星経済産業大臣が言った。
「空爆のため、一時的に退避させました。あと5分したら、築城の飛行隊の20機が上空に到着します。また北富士から出発した第1特科隊が東京都に入り、高尾周辺で部隊を展開させる準備を行っています」
豊田防衛大臣が返す。
「よく東京都に入れたな、中央道は使えんだろ」
半村官房長官が言う。
「ええ、今、中央道を降り、一般道を走っている模様です。他にも特科教導隊が鉄道輸送を終え、厚木基地に展開しつつあります」
豊田防衛大臣が返した。
「早いな」半村官房長官が言った。
「ええ、鉄道局が頑張ってくれたようです。他にも戦車隊を輸送している貨物列車は東海道線から相模線に移り、東京西部へ向けて移動しています」
筒井国土交通大臣が言う。
報告が入ってくる。
「怪獣、活動を再開し、西へ向け、歩行。自衛隊、再度攻撃を仕掛ける模様」
「ここで足止めしていればなんとか……」福島総理がつぶやく。
午後3時。
怪獣はまたゆっくりと歩き始めた。
その時、地上にいた第1空挺団第1普通科大隊に加え、第32普通科連隊の2個中隊も後方から接近していた。
マンション屋上にいた第32普通科連隊、霧島連隊長は命令を下した。
「作戦再開。尚、5分後に空爆が実施される。地上部隊は怪獣の頭部に向け、対戦車攻撃を実施したあと、空爆に備えろ。サイコガンは作戦空域を離脱されたい」
各隊から了解の返答あり。
怪獣は前と後ろから、軽MAT10発以上による攻撃を受けた。
全弾が胴体上部から頭部にかけて着弾し、怪獣はまた視界不良になった。
そこへ爆音が轟き始めた。
築城基地より飛来した第8飛行隊所属のF2支援戦闘機20機は東京都内に進入し、怪獣を捕捉しつつあった。
『こちらマイティ01.全機へ、これよりJDAMによる攻撃を行う』
三沢の第3飛行隊と同様に、4機編隊ごとにわかれた第8飛行隊は第一陣の編隊を怪獣の上空に確認した。
4機のF2がまた怪獣に向け、JDAMを複数投下していく。
怪獣のあちらこちらに爆炎があがり、黒い煙に包まれていく。
さらに、もう4機の編隊が怪獣に迫っていた。
その頃、陸上自衛隊のヘリに載せられたあと、徒歩で移動していた自衛隊員たちが配置についた。
彼らは第1特科隊、及び特科教導隊の観測員だ。
彼らは特科の遠距離からの砲撃の成果を確認し、誤差があれば修正を指示する。
第1特科隊の観測員は調布市、特科教導隊は三鷹市南方にそれぞれ展開した。
深い緑色をした測量装置が置かれ、自衛隊員たちがそれを覗く。
一方、特科部隊本隊は、配置についていた。
御殿場から出た特科教導隊第5中隊のM270は厚木基地に展開していた。
普段ならば海上自衛隊の哨戒機や在日米軍の戦闘機が着陸するその滑走路に、M27018両と82式指揮通信車、それに弾薬を積んだトラックなどが進入していた。
M270は中にいる隊員の操縦で、その発射装置をゆっくりと空に向けていた。
第1特科隊も、東京都から神奈川県に入り、相模原市のゴルフ場に展開していた。
数十両のの牽引トラックがゴルフ場の芝を荒らしながら進入していく。
トラックはFH70を切り離した。
展開が完了したFH70はただちに展開を開始する。
後方に向けられていた砲は、隊員達が引っ張ったロープによって半周し、前方に向けられる。
横にいた隊員が操作することにより、砲が空を向いた。
こうして数十門のFH70が全て展開を完了し、全ての方が空を向き始めていた。
戦車部隊は東海道本線を行き、そのまま北上して都心へ入る予定だったが、
都心へ展開するのは鉄道の運行上混乱を来すとの鉄道局の判断から、茅ヶ崎から相模線に入り、JR橋本駅で貨物列車を降りて、現地へ向かっていた。
12両の10式戦車と82式指揮通信車が、自衛隊の白いパトカーに先導され、国道16号を北上した後、柚木街道から、東京・中央線沿線へと北上していた。
爆撃が終わった。
怪獣は立ち止まっていたかと思うと、爆撃の黒煙のなかから、より強い白煙を上げ、空に向かって大きく雄叫びをあげた。
そして急に向きを変え始めた。
「何だ?」
霧島連隊長は双眼鏡で怪獣の様子を見ていたが、怪獣が西、つまり第32普通科連隊本部のある西国分寺駅を向いたところで、即座に叫んだ。
「退避! 総員退避!」
怪獣は足にさらなら白煙を上げたかと思うと、西に向け、突進を開始した。
怪獣は足からより大きな白煙を上げたかと思うと、歩みをすすめた。
足はこれまでよりも俊足で、来た道を自転車よりも速く、徐行している自動車ほどの速さで地響きと大きな音を上げながら、西へと走っていく。
霧島連隊長以下、第32普通科連隊の幕僚たちは大急ぎでマンションを降た。
「各員、遮蔽物に身を隠せ!」
霧島連隊長がそう叫ぶと、怪獣は連隊本部の置かれたマンションを体当たりして破壊し、西国分寺駅の南口周辺をさらにずたずたにして、あたりに埃と破片を飛ばした。
怪獣はひたすら疾走し、怪獣の通った後はさらに破壊されていた。
官邸は怪獣の突然の行動にパニックになっていた。
「怪獣は現在、西へ向かっています。時速20キロ以上で、現在も速度を上げています!」
リエゾンの報告に、危機管理センターにいた全員が驚愕する。
「おい、怪獣はどこへ向かっているんだ?」
星経済産業大臣が言った。
「不明です。ただ、怪獣は白煙を上げながら突進しているため、数分で立川まで到達するとみられます」
伊波は言った。
「現在、立川駅や、その周辺には多くの負傷者や避難者がいます。このままいくと大きな被害が……」
「なんてこった」半村官房長官がつぶやいた。
福島総理が叫ぶ。
「怪獣をただちに撃退せよ!」
※9月4日追記あり。
次回投稿は9月3日(日)18時過ぎを予定しています。
次回で最終回になります。そこからエピローグを1,2話つけて、本作は終わりになります。
あと少しですが、お付き合いいただければ幸いです。
※追記:更新が予定より遅れていることについての説明と謝罪
上記されていますように、9月3日(日)18時過ぎに最新話を更新する予定でいましたが、多忙と、夏風邪をひいてダウンしたのもありまして、筆が進んでおりません。
よって、次回更新は未定とします。自分としては今月半ばまでに書き上げてたい所存です。
読者の方にはお待たせしてしまい、申し訳ありません。また。次回更新未定になっていることもお詫びし、必ず書き上げたいと思っています。
どうかよろしくお願いいたします。