表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話 避難


憲吾は自分の方に向かってくる怪獣の姿を目の当たりにして、足が震えた。

怪獣が一歩を踏むたびに、大きな地響きがして、砂煙が舞い上がる。


憲吾は近くに京子がいないことに気が付き、辺りを見渡す。

しかしその間にも憲吾は群衆の波に飲まれそうになっていた。


辺りを見渡すと、道端で片足から血を流して動けなくなっている京子が見えた。


「桐谷さん!」


憲吾は逃げる群衆を縫って京子に近づく。


「大丈夫?」


「ごめん、歩けない……人込みに飲まれていたらころんじゃって、足踏まれたみたい……先に逃げて……」


憲吾は弱々しく声を出す京子を背負った。


「大丈夫。逃げるよ」


憲吾はそういって駆け足で怪獣から離れようとした。

しかし、怪獣はもう目の前まで来ている。


憲吾はふと、すぐ近くに雑居ビル、その地下へ通じる階段を見つけた。


憲吾はとっさの判断で、そのビルの地下に逃げることにした。






官邸は騒然となっていた。

自衛隊は大きな損害を出し、さらに怪獣は健在だ。


「怪獣はやや速度を落としています。現在、時速8キロ程度で西の方へ向かっています」

伊波が言った。


「豊田大臣、自衛隊はこの後どのような撃退対処プランがある?」


「えー、現在、市ヶ谷に問い合わせていますが、目下の所、再考中とのことです」

と豊田大臣。


「急げ、ぼやぼやしていると被害は広がるばかりだ」

福島総理は苛立ちを見せながら言った。





「今は即応できる部隊を可及的速やかに出動させ、少しでも怪獣の動きを止めた方がいいな」

防衛省地下指揮所でそう言ったのは佐藤統幕長だった。


「それなら普通科に武装させましょう」

檜山陸幕長が言った。

「小銃や対戦車装備をさせて、現場に向かわせます。ヘリによる攻撃は断念します」


「わかった。足止めはそれで行う」佐藤統幕長は言った。






憲吾と京子は二人で、ある雑居ビルの、地下に通じる階段に座っていた。

地下階への入り口にはシャッターが下ろされていて、先には進めなかったが、階段までなら座っていることが出来る。



憲吾は京子の脚を見た。右足首から出血していた。


憲吾はカバンからペットボトルのミネラルウォーターを取り出した。

「傷口を少し水で流すよ」


京子が頷くと、憲吾は土や砂埃でよごれた京子の傷口を水で濯いだ。


その後、憲吾は自分のハンカチを取り出し、残りのミネラルウォーターの水でハンカチを少し濯いだ。

水をしぼって、出来る限り清潔に保ったハンカチを、今度は京子の傷口にあてて、それを自分のカバンのなかにあったタオルで巻いて圧迫した。


「これで10分ほど待とう。怪獣も遠ざかっているみたいだから、安心して」


「ありがとう」


憲吾はふと外の様子を見に行こうかと思った。怪獣は去っただろうが、このまま出ていけるか心配だ。


「ねえ。座らない?」


そう、京子が言った。


ああ、そうだね、ごめん、そういうと憲吾が京子のやや上に座った。


「謝らなくていいよ、落ち着かないんだよね」


「うん、まあ、そうなんだ……うち、国分寺なんだけど……怪獣がうちの方向かっているかと思うと気が気じゃなくて……」


「わかるよ、私の家も高尾だってのは話したけど……気が気じゃないもの……うちの母親も高尾のスーパーでパートしてるから……」


「お父さんは?」


「うちの父親は3年前に女作って逃げた……母親も口うるさくて、あんま好きじゃなかったけど、こうなると気になるね」


「ごめん……」


「さっきから謝りすぎだよ。こっちこそ重い話してごめんね、こんな時に」


そういって京子は少し寂しい笑いをみせた。





「現在、怪獣は速度10キロ程度で国分寺市に進入」


都庁もパニック状態になっていた。

怪獣はまた徐々に速度を上げ、東へ向けて進攻していたのである。


「くそっ、自衛隊め」思わず野尻副知事が毒ついた。


「むしろ怪獣の能力が人知を超えている」

と山本警視総監。

「しかし、自衛隊でも倒せない相手だと、これからどのように対処するんだ?」


「官邸によれば、普通科を投入して、小銃等の攻撃で相手を足止めさせるらしい」小川都知事が言った。


「普通科か」山本警視総監は言った。

「かなり官邸や防衛省もやけっぱちですね、たしかに足止めはできますが、これでは怪獣に致命傷は与えられないでしょう」


「うちもやけっぱちさ」小川都知事が言った。

「何せ自主避難に任せ、警視庁や東京消防庁は現場の判断で動かしている。地震水害時の避難場所を使っているが、怪獣に襲われる可能性もある。

それに避難誘導だけじゃないんだ。怪獣が去った後の救護活動にも人員を投入している。自衛隊も攻撃ばかりに人を割いてもらっては困る」


「いったいいつまでこんなこと続くのでしょうか……」野尻副知事が言った。


「私が知りたいよ」小川都知事が吐き捨てるように言った。




午後1時の時点で怪獣は国立市を横断、国分寺市の西国分寺駅1キロ南の地点を西に向けて進攻していた。

怪獣がJR武蔵野線と府中街道を破壊した時、練馬駐屯地から出発した第1普通科連隊第3中隊と対戦車小隊と接触しようとしていた。




中隊長の居村一尉は第1から4までの各小隊長と対戦車小隊隊長を集め、広げた地図を指さししながら各隊に作戦を指示する。


「対戦車小隊は各所に分散して展開し、誘導弾による攻撃を行え。普通科部隊は分隊ごとに怪獣に接近し、周りに避難民がいないか確認、可能ならば分隊長判断で攻撃し、小銃も含め、あらゆる火器で応戦。

しかし、普通科部隊は市民を見かけたらただちに戦闘をやめ、救出し、適切なところまで誘導するんだ。もし敵の攻撃の兆候があれば、装備を棄てても良いので撤退せよ」


居村はそのように言うと、小隊長たちの顔を見た。

小隊長たちは興奮したように目を充血させ、顔をこわばらせていた。


そんな小隊長たちをみて、居村中隊長は忠告するように言った。

「作戦の目的は怪獣の足止めと市民の避難誘導だ。怪獣の撃退じゃない。少しでもやばくなったら、近くにいる市民を連れて逃げるんだ」




午後1時12分。

怪獣はゆっくりとした歩行で進んでいた。


第3小隊第2分隊の隊員が小さな子供の背丈ほどある円筒状の物体――84ミリ無反動砲、通称カールグスタフをもち、怪獣の500メートル前方にある電柱の影にいた。

隣にはくっつくようにして予備弾をもった装填手がいる。

隊員は後方をみて、誰もいないことを確認した。発射時、砲身後部ノズルから爆風が飛ぶための安全確認である。

隊員は引き金を引く。


あたりに衝撃波が舞い、埃が飛んだ。

対戦車榴弾が怪獣の腹部めがけて飛び、命中した。


他の建物の物陰に隠れていた隊員達も上を向いて、89式小銃やMINIMI機関銃による射撃を開始する。


怪獣は下を向いた。

その時に他の各所からもカールグスタフによる攻撃が起こり、次々と対戦車榴弾が怪獣に命中していく。

さらに小銃や機関銃の射撃も増えた。

怪獣の動きが少々鈍った。


と、怪獣は大きく口を開いた。

口中には若干の輝きが見られた。


そこへ対戦車小隊の放った87式対戦車誘導弾が怪獣に向かって飛翔した。

同時に各所から発射したこの対戦車ミサイル4発は怪獣の頭部に命中した。

怪獣は光線を吐きかけたが、大きな轟きを上げ、空を仰いだ。


怪獣は首を大きく振ると、口に再度光を溜めて、光線を吐いた。


光線はまず、目の前に光線を落とし、それから顔をあげて、前方1キロを焼いた。


対戦車誘導弾の第二派攻撃が始まる。次は腹部から首元にかけて発射された。

怪獣は光線をまた放ち、今度は各所に展開していた対戦車小隊に目がけて光線を撃った。


その後、対戦車小隊の攻撃はなくなった。


怪獣はその場で静止をしていたが、5分と経たないうちにまたゆっくりと歩き始めた。





官邸では陸上自衛隊の普通科部隊が怪獣と交戦したという情報が入った。

危機管理センターの幹部会議室では、都庁展望台から、自衛隊の撮影班が撮影している映像が生中継で入ってきていた。


かなり遠距離からでも鮮明に撮影できる映像機材を使っているので、怪獣が光線を吐いたり、自衛隊の誘導弾が飛んでいくところが見える。


映像では怪獣が攻撃を受け、静止したところが映っていた。


「普通科部隊、怪獣からの攻撃を受け、撤収。作戦続行断念。損害は不明」


リエゾンからの報告を受けた閣僚たちはため息をついた。


「それでも足止めにはなっているな」半村官房長官は言った。


「総理」小松文部科学大臣が手元の電話機の受話器を片手に福島総理に話した。

「上の手塚博士からです」


官邸のとある会議室には、次々と集められた学者などの有識者が集まって、撮影された映像などから怪獣の行動などを研究していた。


福島総理は自分の目の前にあった受話器をとった。


リーダーシップをとっているT大学名誉教授の生物学学者、手塚博士からだった。


「総理ですか」と手塚博士。


「そうです。いかがされましたか?」


「総理、怪獣を倒せるかもしれません。弱点らしきものを確認しました」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ