エピローグ
高尾山の異常現象から怪獣の進攻までの間に出た犠牲者は800名以上に上り、負傷者は7000名に達した。
だが、災害は終わっていない。
40万人近い被災者が避難所生活をはじめたばかりだった。
「桐谷さん?」
夜。
災害医療センターの外で、京子が泣いていた。
偶然、憲司はそれを見て、バツの悪い顔をする。
「……お母さん、見つかった」
泣きながら、京子は言った。
「八王子の体育館にいるって……」
京子はそういってよかった、よかった、と言って涙を流す。
憲司もよかった、と同じように涙を流した。
災害から2日経った、7月7日、政府は甚大な被害が出た災害として、例外的に激甚災害に指定した。
これにより被災者及び都や市などの地方公共団体に対し、国から特別な財政援助や助成を受けることになる。
また政府はこの日の会見で、この一連の災害に対して、『東京都西部怪獣災害』という名称をつけた。
数日後。
内閣危機管理監の伊波は総理執務室に呼ばれた。
福島総理と伊波は執務室のソファーに向かいあわせで座っていた。
「伊波君」
福島総理がまず切り出した。
「結論から言おう。君には怪獣研究・怪獣災害の対策について統括してもらいたい」
伊波は前のめりになって聞いた。
「というのは?」
「うん、今後、環境省や国交省、文科省、防衛省などと連携して、怪獣対策のための機関を作ることになった。この件に関しては、近いうちに正式に発表される」
伊波は少し考え、そして言った。
「……総理はまた怪獣が現れると?」
福島総理は頷いた。
「有識者たちがそういっている。備えは必要だ……手塚博士がいっていたよ」
福島総理はため息交じりに言う。
「『あの怪獣が最後の一匹とは思えない』と」
さらに7月10日。
中央線は必死の復旧作業が行われていた。
全国からJRグループの作業員や建設会社の作業員がやってきて、不眠不休の作業が続く。
国土交通省の種島鉄道局長はヘルメットに作業着という姿で、立川駅近くのマンションの屋上にいた。
横には同じ出で立ちの伊波がいる。
2人は総理以下他の閣僚とともに、現場視察にやってきたのだった。
伊波と種島は今、総理たちとは別行動をとっている。
2人は中央線の線路を眺めてみた。
「予想以上の被害だ。八王子駅、立川駅は全壊。その他複数の駅も損害を受けている。路線も数十か所が破壊された」
「これからですね」
伊波がそういうと、ああ、と種島がつぶやいた。
「そうだ、何もかもこれからだ。ライフラインの復旧、仮設住宅の建築、怪獣災害の予防……それがお前の方が詳しかったな」
種島はそういって伊波を笑みをもって見た。
「えぇ……本当にこれからです」
伊波は中央線から視線をそらし、種島に目を向けた。
「先輩のご家族は?」
「ああ、家族は全員無事だったし、うちの方は被害は受けなかったから、当分は東京住まいだ。家内も東京の育ちだからね……疎開なんていう人もいるみたいだが、そもそも怪獣はどこに出ても不思議じゃない、そうだろ?」
総理以下視察団は立川の災害医療センターにいた。
多くの報道陣が囲む中、総理らが避難している被災者の声を聴く。
伊波はそれを見ていて、ふと思った。
この人たちがこの災害の前の暮らしを取り戻すまでにどのくらいの時間がかかるのだろう……?
総理一行がテント村と化した公園を歩いて、被災者から話をきいている。
伊波が少し離れた場所に立ち止まって、総理達の様子を見ていると、ふと足元にボールが飛んできた。
伊波はボールをつかむ。
「とってー!」
一人の小さな女の子がこっちに向かってきた。
伊波は彼女に近づいて、ボールを渡す。
「ありがとー!」
少し離れたところに、二人の高校生の男女がいた。
「お兄さんとお姉さんかい?」
少女は首を振った。
「違うよ、友達で命の恩人なの」
少女の言葉に、伊波は少し驚いた表情をして、言葉を復唱した。
「命の恩人……」
「うん、怪獣がこっちに向かって走ってきたとき、お兄さんとお姉さんが連れ出してくれたの。動けないお母さんと一緒にいるつもりだったけど、今は感謝してるの」
「そうなんだ。お母さんは?」
「右足がなくなっちゃったけど、元気だよ」
「そうか……頑張ってね」
少女は伊波の言葉にありがとう、と頷くと、じゃあね、といって少女は手を振り、伊波から離れた。
高校生2人も会釈をする。
3人がボール遊びを再開するのを、伊波は見届けた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




