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真理の実と最強の水魔法使い  作者: 卯月 三日
第一章 死神と呼ばれた男
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六話 角ウサギはおいしい

 アルミンから得た情報をもとに、ルクスとカレラはすぐさま行動に移った。

 その真偽を確かめる術のない二人だったが、この話が本当だったら万々歳であり、嘘にしろ、魔物を討伐して小さな魔石を集めることでお金はたまる。お金はあるにこしたことはなく、あることによって情報を買ったり錬成の依頼をしたりと極大魔石が近づくことがあるかもしれない。それに、復帰したてのルクスの修行にもなる。どちらにしろ、二人にとって有益なのは確かだった。

 ルクスは、神聖皇国の追っ手がくることを懸念して、ほかの街に移ることも提案したのだが、カレラはそれをかたくなに拒否をした。その理由は定かではないが、追っ手が来ないのならルクスも住み慣れたドンガの街が好きである。

 二人の利害は一致し、ドンガの街を拠点にして、魔石を集めることになったのであった。


 そうした経緯があって、二人は今日も討伐依頼を受けて森の中にいた。こうして二人で討伐を初めて、すでに七日間が経っていた。



 いつものように門を出たルクス達は、ひとまず馬車達が通ったであろうわだちに沿って歩く。人や馬車が何度も往来して、周囲の草原とは違い道のようになっていた。 

 人気のあるところにはどちらかというと魔物は寄ってこない。比較的安全な道だ。

 だが、自然が隣り合わせになっているのだから、まったく魔物や獣に合わないということもない。時々遭遇するそれらには、当然対処せざるを得なかった。そして今日は、そんな場所でもいるような魔物が目的である。

 二人は、淡々と歩きながらも、警戒は怠らない。


 ルクスは、茂みに気配を感じると、素早く短剣を抜いた。がさりと草が鳴っている場所を目で追うと、地面を蹴りだし飛び出す。

 あっという間に茂みまで迫ると、逆手に持った短剣を切り上げる。その動作だけで、茂みの草が舞い散り、その中に血しぶきが混じっていた。一緒に空中に投げ出されたのは、角の生えたウサギ。地面に落ちた角ウサギは、何度か痙攣をした後、動かなくなった。

「ふぅ。もう角ウサギも五匹目だけど……とりあえず夕飯には困らないな」

 そう一人つぶやきながら、角ウサギの血抜きを始めた。

 後ろでそれを眺めていたカレラは、目をぱっちりと開き何度も頷いている。

「うん。ウサギはおいしい」

「そうだな。っていうか、ちょっと聞きたいんだが、カレラって料理はできるか?」

 食材を前にして問われた質問に、カレラはどこか胸をはりながら答えた。その自信がありそうな様子から、ルクスも思わず期待するが。

「焼くのと煮るのはできる」

「えっと、つまり得意じゃない?」

「私が作った料理を食べるなら、何もしないで食べたほうがまし」

「自信を持っていうなよ! ただの料理できない食いしん坊じゃねぇか!」

「頼りにしてる」

「まあ、俺もできないわけじゃないけど、期待はするなよ? そんなに得意じゃないからさ」

「ん」

 げんなりしているルクスとは対照的に、カレラはどこか嬉しそうだ。

「話は変わるけどさ。そういえば、その……この前は話がそれてちゃんと聞けなかったけど、治癒魔法とかは使えるのか? 俺の見当違いだったら恥ずかしいなと思って聞けなかったんだけどさ。こうして一緒に行動してるからさ。一応は聞いておきたくてね」

 どこか唐突なルクスの問い。それを自身もわかっているのだろう。気まずげに問いかけるルクスだったが、カレラは特に狼狽えもせず淡々と答えた。

「ん……使える」

「へぇ、どの程度?」

「ん……ちょっと説明が必要。神官達が使う聖魔法。これは大まかに三種類に分かれてる。一つは治癒、もう一つは守護、もう一つは破邪」

「へぇ。細かく分類されてるんだな」

「うん。治癒は、当然傷を治したり病気を治したりする。守護は、結界をはったり、壁を作ったりできる」

「便利なもんだなぁ」

「そう。そして最後の破邪。これは唯一の攻撃手段」

「言葉をきく限り、悪しき者を打ち破る的な?」

「そんな感じ。とりあえず、聖魔法はこの三種類。そして……私は、そのすべてを使うことができる」

「はぁ!? 全部だって!!」

「ん。治癒魔法も守護魔法も破邪魔法も、この世界に存在する聖魔法は全部。ついでに言うと、私は神官じゃない。お父さんに教えてもらっただけ」

「え、は? 教えてもらって全部使えるとか、どういうことだよ」

「だから、私といる限り絶対にルクスは死なせない。安心して」

「いや、そういう問題じゃなくてな……」

「なに?」

 自分のことがどれだけ規格外か理解していないのか、カレラはこてんと首を傾げルクスを見つめている。カレラがよくやる仕草だが、ルクスはこれにめっぽう弱い。

 美しい容姿に可愛い仕草をされると、年頃の男子には言い返す気力などなくなってしまうのだ。

「いや、なんでもない。とりあえず、頼りにしてるよ」

「ん」

 そうやって話している間にも、何度か角ウサギが何匹も襲ってくる。普通なら、追いかけることに苦労する角ウサギがこうも現れることに違和感を感じるルクス。

「こんなに討伐できるもんだっけ?」

「毎日、討伐数が増えてる」

「俺の腕が上がったとか?」

 おどけるルクスに、カレラは視線を逸らして、無言で歩き続けることしかできなかった。


 ◆ 

  

「では、はい。討伐依頼の報酬と、角の買い取り金です。確認してください」

 冒険者ギルドの受付嬢であるルシアナは、黒いボブカットの髪の毛を耳にかけながら告げた。銅貨と銀貨を積み上げながらほほ笑むその様子はまさにギルドの顔とも言える。ルシアナは、ギルドの制服を着ているのだが、類まれなるその胸元は自己主張をこれでもかとし続けていた。カウンターには、その双丘が、どっしりと乗っかっている。

「う、うはっ……」

「メロンだ」

 そんな二人の反応に、少しだけ顔を赤らめて胸元を隠すルシアナ。むっとした表情で唇を突き出すと、くるりと後ろを向いた。

「そんなに見られたら恥ずかしいじゃないですか! ほら、報酬を受け取ったなら早く行ってください!」

 ルクスは必死に欲望に抗いながら、銅貨と銀貨を袋に入れていく。そんな様子を横目で見ていたルシアナは、ふと思いついたかのように呟いた。

「そういえば、お二人は鉄級の冒険者ですよね。よくこんなにたくさん角ウサギを狩れましたね」

 未だ背中を向けているルシアナに、ルクスはぎこちなく答えた。

「なんだかむしろ寄ってくるんだよな。わけがわらないけどさ」

「寄ってくる?」

「ああ。最近は特に激しくてさ。まあ。そのおかげでこんなたくさん稼げるんだ。ありがたいよ」

 ほほ笑むルクスとは対照的に、ルシアナはいつのまにか体を二人にむけ考えんでいた。

「じゃあ、これで。また来るからよろしくね」

「さよなら」

 ルクスとカレラは用が済んだとばかりに立ち去ろうとしたが、ルシアナはそんな二人を慌てて呼び止めた。

「ちょっと――」

 きょとんとした表情で振り向く二人に、ルシアナは何か言おうとしながらも、言葉に詰まった。

「あの……えと」

「どうしたんだ? もう行こうかと思ってるんだけど?」

 ルクスのその言葉に、ルシアナはすぐさま言葉を続ける。

「すいません。なんだか最近、魔物の数が増えているみたいなんですよ。繁殖期でもないし、周辺の街や村でも何かあったという報告はないんですが、気を付けてくださいね」

「そうなんだ。わかった、たすかったよ。ありがとう」

 そういって手を振りながら去っていくルクスとカレラ。二人を見ながら、ルシアナはしばらく顎に手を当てて思案する。


 その脳裏に浮かぶのは、最近の冒険者達の顔。

 獲物が豊作だと喜ぶものや、予想以上の魔物の攻撃を受けて満身創痍のもの。どちらも、魔物が増えているということに起因した結果だ。

 ルシアナはこれが何を指し示すのかわからない。けれど、脅威となる情報をすぐさままとめて、上司に報告をしたのだ。



 その中には、西の草原で目撃された凶悪な赤い魔物の噂もあった。


「全部、杞憂ならいいんだけどね」

 思わず、素の口調で話していたルシアナは、ため息を吐きながらカウンターの奥へと入っていった。 

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