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真理の実と最強の水魔法使い  作者: 卯月 三日
第一章 死神と呼ばれた男
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五話 極大魔石と冒険者

「冒険者をまた始めるだって!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、冒険者であるアルミンだ。

 アルミンはルクスに呼び出され、冒険者ギルドに来ていた。ルクスから酒盛り以外で約束を取り付けるなど久しぶりのことだったため、何かあるなとは思っていたのだが。

 しまい込んでいた武器や防具を身に着けたルクスから冒険者を始めるといわれ、アルミンは思わず声を張り上げていた。

「ああ。ちょっとなりゆきでな。やりたいことができたんだ」

「やりたいことったってお前……本気、なのか?」

「ああ」

 おどけた様子で肩をすくめるルクスに、アルミンは困惑しながら大きく息を吐いた。

「前も言ったけどよ。お前に冒険者は向いてねぇ。それはルクス自身が一番よくわかってるはずだろ?」

「ああ。それでもだ。それでも、俺はやりたいんだ。こんな俺でも、必要としてくれる人がいるからさ」

 そういってまっすぐ見つめてくるルクスをみて、アルミンもとやかく言うのをあきらめた。

「なんだよその目は。……しゃあねぇな。で? お前のことだから報告だけってわけじゃないんだろ?」

 少しばかり嬉しそうなアルミンを後目に、ルクスは真顔でとんでもないことを呟く。

「ああ。実は教えてもらいたいことがあってな」

「おお」

「極大魔石ってどうやって手に入れればいいんだ?」

「はぁ!?」

 話は数日前にさかのぼる。



 

 ルクスがカレラに協力を申し出た日。

 つまり、男達からの襲撃があった次の日であるが、その日から数日間はルクスの身辺整理や準備に費やされていた。

 ルクスは大道芸人をやっていたのだが、まずは師匠に大道芸人を辞める旨を伝えなければならなかった。ルクスは師匠のことを大層怖がっていたため、置手紙でお茶を濁してきたのだ。そして、芸をやる場所の許可も取り下げて、場所の使用料も返金してもらっていた。

 あとは、いまだに捨てられなかった冒険者を志した時の装備の手入れを行ったり、必要なものを買い集めたりしていた。


 そんな最中、ルクスはカレラに今後の方針を聞いていた。一緒に動くのだから当然である。むしろ、遅すぎるくらいであった。

 ルクスは、カレラが次にどこに逃げるか、を聞いたつもりだったのだが、彼女から発せられた言葉はルクスの想定外のものだった。


「極大魔石を手に入れなければならない」


 その言葉を聞いたとき、ルクスの目と口は、これでもかと見開かれていた。そして、その反応は至極当然のものである。


 

 そもそも魔石とは、自然界に存在する魔素が結晶化したものだと言われている。魔力の原料である魔素の量が多ければ多いほど、密度が高ければ高いほど、その魔石の大きさは大きくなる。つまりは、強い魔力を内包する魔物の中にあったり、パワースポットのような魔素溜りと呼ばれる場所に生まれることが多い。


 カレラが欲した極大魔石は、自然に生まれる魔石の中でも特別なものだ。


 通常の魔石は、小石程度のものから掌大と持ち運べるものが多い。それでも、魔法具や儀式のための核、魔力の増幅装置としてとても有用である。だが、極大魔石というものは、優に数十センチは越え、国同士での戦争の局面を大きく揺るがす程の力を内包しているものだ。

 当然、その大きさから、必要な魔素は膨大なものであるのだから、それを持っていた魔物や、魔力溜りは、生半可なものではない。それこそ、魔物に限って言えばだが、街を滅ぼすような力を持った魔物を討伐しなければ手に入らない。


 それを、カレラは欲しい言う。ルクスは、聞かずとも何をやらなければならないか容易に想像ができた。


「それは、買えないの?」

「国レベルの財源がないと無理」

「依頼を出すとか?」

「買うのと同じ」

「じゃあ、どっかに落ちてるとか?」

「そんなにごろごろ落ちてるなら、この世はきっと消滅してなくなってる」

「はは……そうだよな」


 そんなやり取りをして、自分の発言を後悔したのは余談である。

 自分の知識と経験だけでは、どうやったとしても極大魔石を手に入れることは難しかった。だからこそ、冒険者の先輩であるアルミンに知恵をもらおうと考えたのだ。




 ルクスが一通りの事情を話すと、アルミンは頭を抱えてうなだれた。そして、どこか諭すようにルクスへと語り掛ける。

「ねぇよ」

「え?」

「ねぇっていったんだよ。お前がもってる知識で十分。それこそ災害級の魔物を倒すか、人が生きていけないような魔境にでも行かない限り、極大魔石なんて手に入れられねぇよ」

「そんな! 何かいい方法はないのかよ!?」

「馬鹿いえ。あったら誰かがやってるよ! 手に入れられればそれこそ一生遊んで暮らしてもおつりがくるわ。馬鹿なこといってないで、さっさと師匠に謝ってきたらどうだ?」

 本気で心配したような顔でアルミンはルクスを見ていた。その視線に気まずさを感じたルクスは、思わず視線を明後日の方向に向けた。

「悪いことはいわねぇよ。そんな博打みたいなことやってたら命がいくつあっても足りねぇぞ? やめておけ。そして、一人前の大道芸人になればいいじゃねぇか」

「そういうわけにもいかないんだよ。それじゃあ、あの子の役に立てないんだ……」

 ルクスが漏らした呟きを、アルミンは耳ざとく拾った。

「ん……あの子?」

「いや! 違うんだっ! 別に、カレラがどうとか――」

 慌てた様子のルクスに、途端にアルミンはにやつきながら腕を組む。

「ははーん? どうにも様子がおかしいと思ったら、女に入れ込んでやがるんだな? 恰好つけたい年頃なのはわかるがよ、貢がされておわるぞ?」

 からかう様子のアルミンの言葉に、ルクスは顔を真っ赤にしながら頭をぐしゃぐしゃとかきむしっている。

「そんなんじゃないって……」

「はは! まあ、社会勉強もいいもんだ。お前がしたいようにやればいいさ。……だがな」

 調子の高かったアルミンの声が突如として低くなる。

「冒険者は遊びじゃねぇんだ。何があっても、死ぬんじゃねぇぞ」

 その鋭い視線に、一角の戦士の風格を感じ取ったルクスは、思わず背筋を伸ばして力強く頷いた。その様子を見ていたアルミンは途端に表情をくずして笑みを浮かべる。

「お前とは馬が合うんだ。飲み友達がいなくなったら寂しいからよ」

「わかってる」

 そういって、アルミンはおもむろに立ち上がった。

「もう話は終わりだな? そろそろ依頼があるんだ。何かあったらまた呼んでくれ」

「ああ。時間を取らせて悪かったな?」

「いいんだ。どっちかっていうと、ルクスが冒険者になるのは歓迎すべきことだからな。無茶はすんじゃねぇぞ」

「ありがとな」

 手をふって見送ると、途中で何かを思い出したように立ち止まるアルミン。すぐに踵を返してルクスのいるテーブルへと戻ってきた。

「そういやぁよ」

「どうした? 時間は大丈夫か?」

「ああ、すぐ行くがな? 小さい魔石を大量に集めて極大魔石を錬成したって噂を聞いたな。まあ、眉唾もんだけどよ」

 アルミンのもたらした情報に、思わずルクスは活気づく。

「本当か!?」

「あくまで噂だ、噂。裏付けは勝手にとれよな。じゃあ、今度こそ行くぞ」

「ああ、ありがとな! アルミン!」

 嬉しそうなルクスの声を背中に受けながら、アルミンはギルドを出ていった。それを見届けると、ルクスも立ち上がり駆け足で宿へと向かった。

 

 カレラの無茶な願いも、もしかしたら叶えられることができる。そのことを早く伝えたくて。


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