表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真理の実と最強の水魔法使い  作者: 卯月 三日
第二章 聖女事変
35/44

五話 危なげなし

「貴様――」

「精々、悪あがきでもしてみるんだな」

「ほざけ」

 

 男達は、怒りに満ちていた。ただの少年にここまで言われ平静でいられるほど安穏な人生を送ってきては来なかった。むしろ壮絶な中で生き残ってきたからこそ今ここにいるのだ。

 だからこそ、自分達を馬鹿にしているような口調の少年に腹が立つのは当然だ。


 すぐさま踏み込もうとするが、少年が目の前に水球を生み出したのをみて踏みとどまる。同時に、なぜあれだけ自信があったか、その理由も知ることができた。

 少年は魔法使いである。

 そして、その魔法を戦いに使えるということは相当の魔法適正があるのだろう。なぜ、水魔法を使うのかはわからないが、自信の根拠はそこなのだろう。実戦で通用する魔法がつかえるものなど、それほど多くはないのだから。

 

「気をつけろ! 何か、仕掛けてくるぞ!」

 指揮官の言葉に全員が身構える。

 目の前の水球だが、徐々に大きさを増し、円状に広がっていった。どうなるかと思えば、それはそのまま回転をし始め、宙に浮かんでいく。そして、その水の円盤はいくつかに分かれ、そして美しい布のような動きをしながらすっと消えていった。

 その美しさは確かに見ものであったが、自分たちに何事も起こらなかった男達は拍子抜けをした。

 しかし油断はできない。じっと、次の手がくるのではないかと身構える。その時、男達の後ろで何かが倒れる音がした。

 

 振り向くと、少女を乗せていた馬とそれに乗っていた男が地面に崩れ落ちており、少女は大柄な男が抱きかかえていた。少年の魔法は陽動だったと気づいた指揮官はすぐさま攻撃の号令を発する。


「二人は聖女様を追え! 残りはこの男を殺すんだ!」

 返事はない。だが、全員が一斉にルクスへと襲い掛かる。

 しかし、それをただみているだけのルクスではない。魔物の襲来、悪魔との闘い。それぞれを通して上昇した位階は、それなりのものだ。加えて、ルクスの魔法は絶対的な攻撃力を有している。ルクスは増長でもなく卑下するでもなく、ただできることをしようと地に足をつけて相対していた。


 すぐさま魔法を行使したルクス。

 音もなく襲い掛かったその魔法は、襲い掛かろうとしていた三人の男の意識を瞬時に奪い取った。指揮官を除いた三人の男達は剣を振るう前に馬から崩れ落ちる。誰しもがすでに呼吸をしておらず、苦悶の表情に染まっていた。

「何が――がああぁぁぁぁぁ!」

 残された指揮官は、事態が呑み込めないまま両腕に感じた激痛に思わず叫び声をあげていた。

 痛みを感じた部位をみると、そこには何もなかった。そう何もないのだ。切り落とされた両腕は、すでに地面へと落ちている。

 バランスの取れなくなった指揮官は、馬から落ちるように地面へたどり着くと、なんとか逃げ延びようとすぐさま立ち上がろうとする。だが、それをよしとするルクスではない。背中をけりつけ、覆いかぶさり地面へと顔面を押し付ける。


「動くなよ? 聞きたいことが山ほどあるんだ」


 突き付けられた短剣をみて、指揮官は敗北を悟った。





 そこからはやや離れた場所。そこには、追っ手から逃げるアルミンとカレラがいた。

 アルミンは、気を失った妹を抱えており、すぐに距離が詰まっていく。

「くそっ! 嬢ちゃん! どうにかできねぇか!?」

「無理。私は、神聖魔法しか使えない」

「まじかよ!」

 そうして必死で逃げていくも、茂みに囲まれた一帯に追い詰められてしまう。咄嗟に振り返ると、すでにそこには二人の男が立っていた。

 男達は、警戒をしながらじりじりと近づいてくる。

「ここまで来て、打つ手なしかよ」

 アルミンは、ヒルデを静かに地面に寝かせると、持っていた大剣を取り出す。その仕草は慣れたものであり、数多くの戦いを潜り抜けてきたのがわかった。

 それを、男達も感じていたのだろう。

 決して機を焦ることなく、隙を伺っている。


 対して、アルミンもまた目の前の男達の技量を図っていた。

 

 目の前の男達の武器は短剣である。

 取り回しのしやすさと軽さから、大剣に比べると速度は速い。ましてや実情、多数対一人である。そうなれば、必要なのは一撃の威力よりも確実に肉を切り裂くこと。そうすれば、いずれは複数の利点を生かし勝つことができる。

 生き残るための確実な判断、身のこなし、醸し出す空気。どれをとっても、自信と同程度の実力を感じていた。それも一人ずつにだ。

「圧倒的不利。どうするかね、こりゃ」

 そうぼやいていると、ようやく男達が刃を振りかぶり迫ってくる。


「ヒルデを頼んだぞ!」

「ん!」


 背中をカレラに任せ、アルミンは一歩を踏みだした。大柄な体躯で踏み出す一歩は大きく、地面に踏み下ろした足を起点にして大剣を横なぎにした。

 うねるを上げながら空気を切り裂く大剣は、当たれば間違いなく死を呼ぶ一撃だ。

 その脅威に、やすやすと男達も近づいては来ない。

「この間合いに入ってくるなら、まっぷたつになる覚悟をしてからにするんだな」

 すごみながら、アルミンは男達に迫る。


 アルミンの強みは、その恵まれた体躯から繰り出される強烈な剣と、それを十全に生かす積み重ねた技術だ。

 ただ闇雲にふるうだけでなく、相手の行き場を徐々に消していく。

 当たれば必死を、必ずあたる必死へと追い詰める。それが、アルミンの剣技だ。


 だが、男達も確かな実力を持っている。ただ、攻めあぐねているだけではなかった。


 雄たけびを上げながら迫るアルミンに向かってナイフと投合。その隙を狙い、飛び掛かる刺客。

 振り下ろされた短剣を危なげなく受け止めたアルミンだったが、それがまずかった。

 視線は上を向いており、無防備に近り下半身へと、もう一人がすかさずナイフを投げつける。崩れ落ちるアルミンは、苦し紛れに剣を振った。

「くそがぁぁぁ!」

 その剣幕にたまらず距離をとる二人だったが、すさまじい気迫を向けてくるアルミンをみてここが勝負時だと悟る。

「来るならその命、死ぬ気で食らってやるからなぁ!」

 不安定な姿勢で剣を構えるアルミン。そして、そこにとびかかる男達。


 いざ、両者が激突するかというその時――。


 びたああぁぁん。


 そんな、場にそぐわない間抜けな音が響く。

 見ると、黒づくめの男は二人とも、見えない壁に激突していた。

「前方不注意、ご用心」

 それは、カレラが作り出した不可視の防壁。端的にいうとただの壁である。

 だが、その壁は、聖女たるにふさわしい魔法適性から生み出されたもの。内包する魔力はそんじょそこらの防壁とは段違いであり、ちょっとやそっとでは壊れない。


 そんな壁に激突した二人は、予想できない衝撃に体も心もダメージを負った。

 人間は予想していないことには、なかなか対応できないものだ。今まさにアルミンと最後の攻防をする瞬間。すべてを敵に集中させていたからこそ、その衝撃はすさまじいものだった。

 容易に脳みそを揺らされた二人は、意識こそ失わなかったが、立ち上がることなどできない。

 そこに、アルミンの大剣がゆっくりと突き付けられる。

「なかなかの名演技だったろ?」

「ん。旅芸人も真っ青」

「それなりに冒険者してるとな、いろいろな芸が身につくものよ。嬢ちゃんも、名女優になってルクスの野郎とたぶらかしてやんな」

「……ん。それは要勉強」

 アルミンは、先ほどの怪我などなかったかのように軽やかな動作で、二人を縛り上げていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ