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真理の実と最強の水魔法使い  作者: 卯月 三日
第一章 死神と呼ばれた男
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十五話 封印を守る理由

「よぉ。昨日はすごかったみたいだな。死神さんよ」

 そう言って厳つい顔でほほ笑むのはスヴァトブルグだ。二人は、ルシアナに連れられてギルド長の部屋に来ていた。案内されるがまま、二人は椅子に座っている。ルシアナはすでに部屋から出て行ってしまった。

 先日の応対を思い出し気分が重かった二人だが、なぜだかスヴァトブルグは嬉しそうだった。そんな彼の様子を見た二人は、訝し気な表情を浮かべている。

「そんな顔するなよ。こっちだって、切羽詰まってたんだ。街が生きるか滅びるかだったからな。あの時はすまなかった。この通りだ」

 そういって、スヴァトブルグは頭を下げる。

 やけにえらい人に頭を下げられるな、とルクスは思い憂鬱な気分に陥るも、返答しなければいつまでも動かなそうなギルド長を見て、短く嘆息する。

「はぁ……やめてくださいよ。こっちだって勝手をやったんですから。それよりも話って依頼のことですよね? なんだか、封印を強化するって話ですけど」

 ルクスの声にスヴァトブルグは顔を上げた。

「まあ、けじめってやつだ。勘弁してくれ。で、だ。依頼のことなんだがな、俺は領主様に言われたものを用意したにすぎない。細かいことはそこのお嬢ちゃんが知ってるって言ってたからよ」

 視線を向けられたカレラは、こくりと小さく頷いた。

「んじゃ、まあ、まずは褒賞からいくとしようか。下にいる連中も同じだが、金が入ったからっていって、あんまりはめを外すなよ」

 スヴァトブルグは、机の下から大きな革袋を取り出すと、重々しい音をたてながらそれを目の前に置いた。ルクスが受け取ると、眩いばかりの金貨がぎっしり詰まっている。

「金貨五百枚だ。相当な大金だからな気をつけろよ?」

 頭では想像していたが、実際に目の当たりにすると、金貨が持つ威圧感は相当だ。ルクスは、持ち上げるだけも大変な袋を目の前にして、顔を青ざめさせていた。

「こんなに持ち歩けるわけないじゃないか……ほんと、領主様とかスケールがでかすぎるよ」

 そんな恨み節を聞き流したスヴァトブルグは、もう一つ、ルクスとカレラに手渡した。

 それは、銀色のプレートだ。

 名前が彫られており、身分証ともなる冒険者の証。銀色のそれをもらうということは、銀級になったということだ。

「これも領主様から言われて作っといたぞ。まあ、マルクス殿が銀級って言ってたらしいが、妥当なところだな」

「そんなわけないじゃないですか。俺、冒険者なりたてですよ?」

「それでも、あんだけの活躍をしたんだ。誇っていい」

 そう言われ肩を叩かれたルクスは、しばらくプレートを見つめていたが、あきらめたように胸元にしまった。

「いつか、そう思えるようにがんばりますよ」

「その意気だ!」

 カレラはいつもの無表情ながらどこか嬉し気で、スヴァトブルグは楽しそうで、そんな二人をみていたら、ルクスも気持ちが柔らかくなっていく。少しは受け入れる努力をしようと思うと、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 


 そんな穏やかな雰囲気も束の間。スヴァトブルグは依頼の話を切り出した。 

「そして最後の話だ。お前たちも気になっている、依頼の話だな」

 ルクスとカレラは、気持ちを切り替え表情を戒めた。二人が小さく頷くと、スヴァトブルグはおもむろに口を開く。

「依頼の内容は、聖女にかけられた封印を強化すること、だったな。領主様から援助があってな。さっきの報奨金以外に金を預かってるのと……移動手段としての馬と馬車と御者も貸してくれるそうだ。歩いていくよりもかなり楽になるだろうな。領主様も、追い出すような形になって申し訳なく思ってるんだろうよ」

「申し訳ない……ですか?」

「ああ。この街を救った救世主達を、街を守るために追い出さざるを得ないことがな。俺だってそうだ。まあ、この前はあんな態度だったが、今は違う。できるだけお前たちによくしてやりたいって思ってるからよ……何かあったら頼ってくれ」

「ギルド長……」

 手のひらを返したような物言いに少しだけ引っかかるものを感じたが、スヴァトブルグの態度には嘘を感じなかった。自分達を気にしてくれているというのが伝わってきて、ルクスは少しだけ嬉しくなる。

「そういえばな。俺はあまり詳しくないんだが、そもそもなんで封印が解けかかっているんだ? それこそ神聖皇国の威信にかかわる問題だろう。なりふり構わず魔力を込めるはずだが」

 その疑問に、カレラはすぐさま答えていく。

「もちろん最初はそう。何人もの神官が魔力を込めて封印を作り上げていく。私が生まれたときもそう。その時から、ずっとここには悪魔がいる……」

 胸元を抑えながら沈痛な面持ちでカレラは語る。

「でも、封印を維持するのは聖女の魔力。その量が少なければ、封印に込められた魔力は徐々に失われ、封印が解かれてしまう。私は、それほど魔力が多くない。だから、こうなってしまってる」

 うつむいた顔からは表情が窺えない。しかし、カレラが醸し出す雰囲気は非常に重いものだった。

「それを補うのが極大魔石?」

「ん。封印の祠と言われる場所で、魔石を使って魔力を込めればいい。そうすれば、込めた魔力がなくなるまでは危機は回避される」

 なるほどな、と納得しながら聞いていたルクスだったが、一つだけひっかかることがあった。

 それこそ、今までなぜ疑問に思わなかったのか、それすらも不思議だった。

「ちょっと待って。極大魔石を用意すればいいんだったらさ……なんで神聖皇国がそれを用意しないんだ? 封印が解けたら困るのはむしろ神聖皇国だろ?」

「む。確かにな。お嬢ちゃんが一人で魔石を探す状況になんて追い込まれないはずだ」

 二人の視線がカレラに集まる。その視線を受けた彼女は、気まずげに顔を逸らした。

「極大魔石を手に入れるのは大変……だから、普通なら封印の乗せ換えをする。それが嫌で私は逃げてきた」

「コスト削減ってわけか」

「乗せ換えするってなるとどうなるんだ? カレラが聖女じゃなくなるのか?」

「ん……そういうこと」

「本当か! なら、そっちのほうがいいんじゃ――」

 ルクスがそこまで言いかけると、カレラは冷たい目線を彼に向けた。そして、彼女が避けたかった真実に触れる。

「乗せ換えを行えば封印は私の身体から消える……そして、その封印を守っていた私の命は、失った封印とともに消える」

 ルクスとスヴァトブルグはごくりと唾を飲み込んだ。

「……私はこれからも生きるために封印を守りたい」

 静寂が室内を包む。

 カレラは押し黙り、二人は二の句が継げないでいた。


 カレラは両手で胸元をおさえる。それが、封印が施されている場所なのだろう。強く握られた手に筋が浮かび上がる。

 その仕草の意味するものは、解けそうになっている封印を守りたいのか、それとも命を手放したくないのか。様々な意味を持つそれに、ルクスも胸が締め付けられる想いがしていた。


「……んだよ?」

 そんな彼女は、引き裂かれそうなほどのか細い声を絞り出す。

「いいんだよ? 極大魔石は手に入った。ルクスは私を守ってくれた。だから、もうやめても――」

 カレラが言い切る前に、ルクスは勢いよく立ち上がった。そして、強く見開かれた瞳で、カレラの揺れる瞳を見つめる。あまりの勢いに倒れる椅子を気にもせず、ルクスは拳を握りしめた。

「何言ってんだよ」

「だって……危険だから。付き合わせるわけにはいかない。だから、最初から目的は話さなかった。ここまできたら、私一人でも大丈夫」

 淡々と話すカレラに、ルクスは苛立ちを覚える。が、ここで感情を爆発させるのも違うと思い、仕方なく頭を抱えた。

「何言ってんだよ。ふざけんなよ? 今更降りるわけないだろ? カレラの封印からでる瘴気が魔物が引き寄せるってんなら、余計に危ないじゃないか。一人よりも二人のほうが安全だ。それにいっただろ? 一緒にいるってさ」

 どこか呆れたようなぶっきらぼうな物言い。そんなルクスを、カレラはきょとんとしながら見つめていた。そして、やや時間をかけながら言葉を飲み込むと、顔を赤らめて俯く。

「ん……ありがと」

「おぅ」

 そんな、どこかほほえましいやり取りをしている二人。そんな二人の横では、スヴァトブルグが何とも言えない表情を浮かべている。

「あのな……そんなのは二人っきりの時にやってくれ」

 その言葉に、二人はおもわず肩をすくめた。

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