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真理の実と最強の水魔法使い  作者: 卯月 三日
第一章 死神と呼ばれた男
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十三話 報酬と依頼

 極限の緊張状態から解放された二人は草原の真ん中に横たわっていたのだが、周囲にいた魔物達はマンティコアが死んだのをみて、あっという間に去っていった。予想通り、マンティコアがあの魔物達を操っていたのだろう。

 去っていく魔物達と無事だった街を見ながら、二人は意識を手放そうとしてたのだが、それに待ったをかけたのが騎士団長であるマルクスだ。マルクスは、馬からおり悠然と二人に近づいていく。

 そして、二人を見下ろしたかとおもうと、すぐに腰をかがめ穏やかに声をかける。

「そこの少年と少女よ。今しがた、戦いを終えられたばかりで恐縮なのだが、ついてきてもらえるか?」

 そういって、二人は領主の館へと連れていかれた。


 疲弊しきった頭と身体を馬車の乗せたどり着いたのがここ、領主の館の応接間だ。ルクスとカレラは疲れた体を柔らかい椅子に預けていた。


「なんだよ、この状況。わけがわかんない。しんどい。眠い」

 そういいながら、今にも閉じそうになる目をこするルクス。彼は、身体だけは魔法で治癒した状態だが、当然、長時間戦ったつけはその精神にきていた。

 頭はまわらず、なぜここに呼ばれたのか、その理由を考えることにすら至らない。ぼんやりと一点をみつめており口は半開きだ。

「そりゃ、戦いの場を混乱させたのは悪かったと思ってるけど、行けると思ったんだよ……。結局、カレラに守ってもらわなきゃならなかったわけだけどさ。でも、がんばったと思うんだよね。あの獰猛な魔物を殺せたのは、確かに運がよかったよな本当なら死んでたんだよな……って、怖っ! 生きててよかったー、俺」

 疲労のためか、よくわからないテンションのまま一人ごち続けている。ふと、相槌がないことに疑問をもったルクスがカレラのほうに視線をやると、そこにはしっかりとした座位を保ったまま目をつぶり眠っているカレラがいた。

「すぅー、すぅー」

「なんて器用な……。これも聖女のなせる業ってか?」

 領主の館にものおじせず居眠りをできる図太さに、ルクスはただただ関心していた。同時に、彼女だけがだけ休んでいる状況に、すこしだけ苛立ちを覚えた。

「なんだよ。俺は、疲れてても領主の館とかいう場違いな場所に来て緊張してるっていうのに! 幸せそうな顔で寝やがって。このっ! このっ! このぉ……お?」

 ルクスは、動かしたくもない身体を起こし、カレラの鼻をぐいぐいと指で押す。鼻が上をむき、当然ぶさいくな顔になるかと思えば、なぜだかさらに愛嬌がある可愛らしい表情になってしまう。不覚にもどきりとしてしまった彼は、自分の行動を顧み、すぐさま椅子へと戻った。

「こんなに可愛いって罪だろ……」

 そんな台詞をつぶやいていると、唐突に扉が開きそこから三人の人が入ってきた。

「なあぁ!?」

 ルクスは慌てて姿勢を正し前を見る。すると、目の前には、温和な笑みを浮かべた青年が座った。年のころは三十台前後だろうか。綺麗に分けられた髪はどことなく気品を醸し出し、来ている服も上等だ。まさに貴族といった出で立ちの青年に、ルクスはごくりと唾を飲む。

 その後ろには、メガネをかけた美女が立っておりおそらくは秘書か何かなのだろうとルクスはあたりを付けた。そして、もう一人、顔見知りの男が立っている。それは、カレラとルクスとともにこの街を守った騎士団著うであるマルクスだ。

 秘書とマルクスは無言で立っているだけであり、椅子に座った青年が、にこりと笑みを深める。


「彼女とのいちゃいちゃタイムは終わったかな? 少年」

 楽し気に語り掛ける青年の言葉に、ルクスは思わず吹き出しそうになる。が、なんとかそれを抑え込み、立って貴族の礼をした。

「失礼しました。冒険者のルクスと申します」

「ほほぉ」

 軽く頭を下げるその様子に、青年は片側の口角をあげることで応じる。

 そういえばカレラは、と思ったルクスが横をみると、そこにはいつの間にか目を覚ました彼女が、同じように貴族の礼をとっていた。

「神聖皇国のおける北の聖女、カレラ・シュトルツアーと申します」

 そこには、ルクスの知らない少女がいた。完璧な礼をしつつ、温和な笑みを浮かべて、流暢に話すその様は、ただの知らない美少女だ。

 目の前の青年は手を組み、やや身を乗り出した。そして、目を見開きながら口を開く。

「二人とも、丁寧にありがとう。私も名乗るとしようかな……。わかっているとは思うが、私はテオフェル・スヴェーレフ辺境伯だ。一応、このあたり一帯を治めている」

 どこか気さくな様子で話す彼をみて、ルクスはやや訝し気な表情を浮かべてしまった。そんなルクスの様子に気づきつつも、テオフェル辺境伯は、そのほほ笑みを崩さない。

「まあ、見ての通り私は若い。まだ三十にもなっていない若輩者だ。色々あってこの立場にいるが、本当はまだふさわしくないというのもわかっているがね。まあ、それでもなんとかやれているのは、ここにいるイザベルやマルクス。そして、ギルド長のスヴァトブルグや街の皆のおかげかな。もちろん、君たちにも多大な借りを作ったようだ」

 テオフェルは小さく咳払いをし、姿勢を正す。

「と、まあ、こんな私だが、今回のことはさすがに肝が冷えたんだ。小規模といえど一万に届こうかという数の魔物の襲来。こんなことはいままでになかったからねぇ。街の犠牲は多大なものになるはずだった。本当ならね。だが、君達の活躍のおかげで、この街の被害はほとんどなかった。これは奇跡と言っていい」

 ここまではなし、テオフェルは唐突に表情を戒める。

「街を救ってくれた二人には、心からの礼を――ありがとう」

 そういって頭を下げるテオフェルに、ルクスは大慌てだ。

「なっ!? ちょっ――! やめてください! 領主様が頭を下げるなど!」

「君達がいなかったら街は滅んでいたかもしれない。なら、こんな頭くらいいくらだって下げるさ」

 そういって肩をすくめるテオフェルに、ルクスはどこか居心地の悪さを感じる。

「だからこそだ。こうやって直接謝罪をし、褒賞を与えたいと思っている。加えて、一つのお願い事もね」

 テオフェルは静かにカレラに視線を向けるも、彼女は動じない。今さら何を言われても怖くないかのような、そんな態度だった。そんな二人のやり取りに気づかないルクスは、テオフェルの言葉尻に疑問を覚え首を傾げた。

「お願い……ですか」

「そう。だが、まずは今回の褒賞だ。君達二人は確か今は冒険者として活動をしているのだったね。それならまずは、二人の冒険者の階級を上げようじゃないか。ねぇ、マルクス。この二人はどのくらいがちょうどいいのだ?」

 マルクスは、聞かれた質問に機械的に答えていく。

「はい。あの数の魔物を退ける力は金級といえども持ってはいないと思われます。ただし、ギルドに問い合わせた結果、二人の冒険者としての経験は皆無。そのあたりを考慮しどれくらいの階級をつけるかは最終的にはギルドの判断になりますが……銀級が妥当だと思われます」

 マルクスの言葉に、ルクスは顔をひきつらせた。



 冒険者の階級は、魔法適正と同じように五段階に分かれている。鉄、銅、銀、金、白金と金属の名称がつけられたその階級は、端的に冒険者の実力を表していた。

 ルクス達の階級は鉄級であり、冒険者を始めたもの全てがこの階級になる。そこから経験を積み、冒険者として生きていけると判断された者たちが銅級となる。この銅級が一人前の証だ。

 そこからさらに研鑽を重ねて、一部の人間だけが銀級となれる。これは、いわゆるベテランと言われる層であり、周囲の冒険者からは一目置かれる存在となるだろう。

 そのさらに上である金級は特別な成果を上げたものだけに与えられる階級だ。ましてや、白金級は、歴史上、数人程度しか認められていない。


 ルクスは、見習いから一気にベテラン冒険者として認められてしまったようなものだ。驚かずにはいられなかった。

 そんなルクスを後目に、テオフェルは淡々と言葉を重ねていく。

「そうか。なら、二人の階級が上がるようにスヴァトブルグに使いを出そう。そして、褒賞金として……金貨五百枚。それで、手を打ってもらえないだろうか?」

 その言葉で、ルクスは再び脳みそを金づちで殴られたような衝撃を受けた。


 この社会での金銭の価値。それを説明するには、まずは硬貨の説明をしなければならない。

 銅貨、銀貨、金貨、白金貨と四種類の硬貨が存在するが、日常では銅貨と銀貨だけで事足りる。銅貨を五十枚もあれば食事は十分にできる(ちなみに銅貨が百枚で銀貨が一枚である)。銀貨が数枚あれば一晩の宿は借りることができ、金貨が一枚あれば、一般的な家庭であれば一月の生活費になる。白金貨は金貨百枚で一枚という換算だ。

 それほどの価値がある金貨が五百枚ともなれば、そのすさまじさに気づくだろう。それこそ、屋敷が立つくらいの大金だ。


 一気に大金と立場を手に入れたルクスは、その展開のすさまじさに二の句が継げない。そんなルクスの様子を面白がるように、テオフェルは笑いを零した。

「なんだい? 固まってしまって。足りないかい?」

 その問いかけに、ルクスは焦ったようにまくしたてる。

「い! いえいえいえいえいえいえっ! 十分です! いっぱいです! これ以上食べられません!」

 意味不明なことを言うルクスを視界にも納めないカレラ。今度はそんな彼女がテオフェルに問いかけた。

「そして……それほどの褒賞をいただいてされたいお願いとは?」

 相変わらずできる系美少女の仮面を崩さないカレラは、先ほどの発言で気になっていたことを告げた。それを聞いたテオフェルは、温和な笑みをゆがめていやらしく笑う。

「ああ、そうだったね。これはこれは、危うく忘れてしまうところだったよ。街の恩人たる二人にこんなことを告げるのはとてもとても心苦しいのだがね。スヴァトブルグから受けた報告を鑑みて決めたことなんだが……これだけは聞いてもらいたいと思っていることがあるんだ」

 無言で次を促すカレラ。それにひるむことなく、テオフェルは淡々と告げていく。

「君達に依頼を出したい。その依頼内容は、『聖女にかけられた封印を強化すること』だ」

 その言葉を聞いて、ルクスは眉を顰め、カレラは驚きに目を見開いた。

「封印を強化するって――」

 思わずカレラに問いかけていたルクスだったが、すぐにその言葉の意味をしる。それはルクスが知らなかったこと。極大魔石の使い道に他ならない。

 カレラは、できるだけ平静を装っているのだろう。だが、まとう空気は緊張感を増し、手に力がはいっているのがはたから見ていてっも明らかだった。そんな彼女を、テオフェルは楽しそうに見つめている。

「今回の戦いで手に入ったんだろう? 私達も、封印が解けず、魔物を呼び寄せないなら君がこの街にいることを咎めずに済むんだよ。恩人である君らに無碍な行為はしたくない。だからこそ、依頼として出し、援助もしよう。それならば、君達も心置きなく封印の強化に行けるんじゃないかな?」

「なぜ、私が封印を強化したいと?」

「そんなの。君の素性と状況を鑑みれば、おのずとわかるものさ」

 やはり、どこかおどけた様子のテオフェルを見て、カレラは静かに俯き息を吐く。そして、ルクスを一瞥するとすぐさま口を開いた。

「わかりました。その依頼、お受けします」

「ありがたい。細かい話は、ギルドに行ってスヴァトブルグから聞くといい。イザベル。依頼を申請を頼んだ。では、また会う時まで」

 テオフェルはそういって部屋から出ていった。

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