Repeated Summer
いつも通りのある夏の日のこと。いつも通り、私は学校へ向かう。いつも通りの友達との会話。ふと、以前同じことがあったような気がした。
ジリジリジリジリ…
「志織ー、起きてるー?早くしないと遅刻するわよー。志織ー。」
「ん……ふわぁぁ。」
「志織ー、おきてるのー?遅刻ー。」
「はぁぁーい」
私はぼーっとしながら、お母さんに返事をする。
「ん?遅刻?」
私はふと枕元のスマホを見る。時刻は8時ちょうど。
(しまった。寝坊した!)
私は急いで制服に着替え、かばんを手に取り階段をドタドタと駆け下りる。
「お母さんなんでもっと早く起こしてくれないの!」
「お母さん、ちゃんと起こしたわよ」
と、弁当を私に差し出しながら、お母さんは言う。
「朝ごはんいらない!じゃ、行ってきます!」
と、急いで玄関に向かう。そしてドアを開けると、蝉の声が五月蝿く響く。夏の日差しが照らしつける。
「あつ!」
私は自転車のペダルに足をかけ、走り出した。
私は地元の高校に通っている。地元と言えど、山や畑や田んぼしかないこの町には、自転車でも20分かかる。いつもなら8時に家を出るのだから、自転車をとばせば間にあわなくもない。私は全力で自転車をこいだ。
額から大きな汗の水滴を流しながら、私はチャイムが鳴るギリギリの教室に滑り込む。
「おはよう、志織。今日は珍しく寝坊か?」
嘲笑いながら、和真が話しかけてくる。和真は私の彼氏。
「しおりー、おはよう。よくこんな暑い日によく自転車で来れるよね。」
和真との会話を遮るように、3年間同じクラスの未奈が話しかけてきた。
「美奈はいいよね。夏は涼しくて、冬は暖かい電車通学とかさー。」
私は美奈に言う。
「それなら俺も自転車だっつの。」
和真が話に加わってくる。
そこに担任が入ってきた。
「起立、礼」
「「「おはようございます。」」」
「着席」
学級代表の掛け声で、挨拶をする。
「みんな、おはよう。突然ですが、今日は抜き打ちテストを行います。」
(えぇー。抜き打ちテストとか、聞いてないし。)
そりゃあ、言ってたら抜き打ちにならないんだけど。テストのプリントが配られて、
「はい、じゃあ始めてー。」
と、先生の掛け声で、一斉に紙を裏返す音が聞こえる。そして、カリカリとシャープペンシルを滑らす音が教室内に響き渡る。
(はぁ。やっぱり全然解けない。)
私は時間が余ったので、机に突っ伏して時間が過ぎるのを待った。
ジリジリジリジリ…
「……ぉり、…おり、志織!起きてる?遅刻するわよ!」
ジリジリジッ
私は目覚ましを止める。
「しおりー?」
「はぁーぃ」
「夢…?んー、和真が出てきたなー。」
私はスマホを見る。8時ちょうど。
「やば!遅刻だ!」
私は急いで制服に着替え、階段を駆け下りた。
お母さんから弁当を受け取り、
「朝ごはんいらない!行ってきます!」
と言いながら、玄関に向かい、夏の暑い外気への扉を開ける。
私はチャイムが鳴るギリギリの教室に滑り込む。
「おはよう、志織。今日は珍しく寝坊か?」
嘲笑いながら、和真が話しかけてくる。和真は私の彼氏。
「しおりー、おはよう。よくこんな暑い日によく自転車で来れるよね。」
和真との会話を遮るように、3年間同じクラスの未奈が話しかけてきた。
「美奈はいいよね。夏は涼しくて、冬は暖かい電車通学とかさー。…あれ?前にもこんな会話しなかったっけ?」
「いや、してないと思うけど。志織の気のせいじゃない?」
「そうかなぁ。」
そこに担任が入ってきた。
「起立、礼」
「「「おはようございます。」」」
「着席」
学級代表の掛け声で、挨拶をする。
「みんな、おはよう。突然ですが、今日は抜き打ちテストを行います。」
(抜き打ち…テスト…?)
テストのプリントが配られる。
(この問題、確かどこかで…。あ…そうか。今朝の夢!夢と同じだ!寝坊したのも、和真と美奈との会話も、この抜き打ちテストも。正夢になったってこと…?)
そんなことを考えていると、
「はい、そこまで!」
(しまった。全然解けてない…。)
次の日も不思議な夢を見た。日曜日、和真ととなり町に遊びに行く時、幼稚園児ぐらいの子供が交差点に飛び出して、トラックにはねられる夢を。
私は和真に、少し時間を早めようと言って、その事故現場となるであろう場所に少し早めに着く。和真にもまだ話していないから、交差点で立ち止まっていると、
「ここに何かあるの?」
と、言われる。私は、
「まぁ、ちょっとだけ待ってて。」
とだけ言い、例の少年を探す。
「本当にいた。」
やっと見つけたその少年は、赤になろうとしている交差点に向かって、信号など確認もせず、走り続けている。
(まじかよ…)
私はそう思ったのもつかの間、全力でその子の方へと走り出す。「陵りゃん!」
後ろから母親らしき人物が呼び止める声がうっすら届く。でも、少年に届くことはなく、少年は走り続ける。少年のが赤の交差点に入りかけた時、タイミングよく通りがかったトラックが、プップー!っとクラクションを鳴らしている。少年はびっくりしたのだろう。立ち止まって呆然としている。その時、やっと私の手が少年のの腕を掴んだ。私はそのまま少年を自分の方へと引き寄せる。
「間に合った…。危ないでしょ?もう少しで轢かれるとこだったんだよ?信号はちゃんと見なさい!お母さんは?」
ハァハァと息を切らせながら、私は少年に言った。
「陵りゃん」
と、今度は真後ろから声が聞こえた。振り向くと、少年の母親であろう人物が立っていた。
「陵を救っていただきありがとうございました。なんとお礼をしたらいいものか。」
と、陵の母親は言う。
「いえ、そんな大したことじゃ。危ないと思ったので追いかけただけで。それでは」
と私は一礼して、置いてきぼりにした和真の元へ歩きだした。和真は案外近くまで来ており、1連を見ていたらしい。
「志織、凄かったね。大活躍じゃない。」
と、和真と会うなり言ってきた。
「そんなことないよ。」
私はそっけなく言い返す。
「それにしても志織さ…」
(ん?)
「あの少年が交差点に飛び出すこと、わかってたの?」
私は無言になる。
「わかってたから、早く行こうって言い出して、ここの交差点で少年を探してたんだよね?」
和真は私に聞いてくる。私も、今回の件ではっきりわかった。私が見る夢は、翌日起きることの予言だった。そしてそれは、防ぐことも出来るということを。
「和真に、言わなきゃいけないことがあるの。」
和真に全てを話した。和真は
「そんな不思議もあるもんなんだな。」
といい、信じてくれた。
それからというのも、私は幾度となく予知夢を見た。和真と家に帰る途中、電車がホームに入ってくる直前に酔ったおじさんが足を踏み外して転落し、電車に轢かれること。高校の体育祭の障害物競争で、観衆と和真の見ている前で、派手に転けて恥をかくこと。学校からの帰りに和真と美奈と書店に寄ったものの、書店が諸事情て閉まっており、その上、さっきまで晴天だったのにも関わらず、どこからとなく現れた雲に太陽は一瞬のうちに隠され、夕立に合うことなど。ジャンルも場所もバラバラで、共通点なんてどこにもなかった。
「今日は真夏日になるでしょう。」
テレビの中の涼しい服装をした天気予報士のお姉さんは、そう言った。今日は8月3日、晴天。海日和だね。今日は和真と海へデート。
「晴れてよかったぁー。でも、気をつけないと。」
今朝見た夢。今朝のはいつもと少し違った。見た夢は断片的。私が海にいた事。それから、誰かが溺れていたこと。救急車の音が遠くに響いていたこと。これでは、誰がどうなったのかわからない。
「まぁ、誰かが溺れたのかな…?私はその人を、救うことができるだろうか…。」
ピンポーン
「あ、きた!はーい!」
私はかばんを手に取り急いで玄関へ向かう。玄関を開けると、モウっとした空気が押し寄せてくる。
「今日はいつにも増して暑いねー。」
と和真が言う。
「そうだねー。じゃあ行こっか!」
と、私は陽炎の立ち昇るアスファルトに足を踏み入れる。
「海だぁーーー!」
暑いと海は気持ちいい。私は来る途中の電車の中、今朝の夢のことを和真に話していた。今まで予期していれば、それを防いでこれたこと。でも、今回は誰なのかわからないこと。ある意味、この力は、他人の未来を変えてしまっているのかもしれない。
「でも、未来がわかっているのなら、それを回避したい。」
私は周囲をよく観察しながら、和真と遊んでいた。途中海の家に行って、和真の好物の焼きそばを食べたり、かき氷を食べたりして楽しんだ。
午後2時を回った頃。和真は水分補給のため浜辺にいた。私は浮き輪を持って、足の届かない所まで泳いでいた。足が届かないからと言って、人が全くいないのではなく、親子連れだったり、友達とだったりと、人はそれなりにいた。和真が水分補給を済まして、私の所に戻ろうとすると、私は和真に向かって手を振る。和真はそれに気づいて手を振り返す。その時、
「いたっ…!」
足に激痛が走る。片足でバタバタするも、身体は沈んでいく。浮き輪につかまっていたはずの手は、もう何も掴んでいなかった。沈んでいく最中、目に映ったのは、泳げない和真が助けに来ている姿。そこで私の意識は途絶えた。遠くでサイレンが鳴っているのが微かに聞こえ、あぁ、和真に助けられたんだと思った。
気がついたのは病院。隣に和真の姿はなかった。しばらくすると、先生がやってくる。
「起きて唐突で悪いのですが、和真さんはお亡くなりになられました。」
「え?だって、私を助けてくれて…」
「はい。志織さんを助けたとき、溺れて、助かったのはあなただけです。」
私は目の前が真っ暗になった。
予知夢は私が溺れることによって、和真が死ぬというものだった。私なんかを、助けてくれなければ…
ピンポーン
私はその音で我に還る。
「あ…れ…?私、何して…」
そのとき、
「しおりー!」
と、和真の声がする。
「なんで?!和真は昨日…」
私は携帯の画面を付けて、今日の日付をみる。
「8月3日…。昨日は確か…8月3日!なんで?!時間が、戻ってる?!じゃあ、まだ和真を救える!」
私は急いでかばんを持って玄関を開けた。
午後2時過ぎ。そろそろだ。そもそもの原因は、私がこのタイミングで足がつったことだ。
「オレ、お茶飲んでくるよ。」
「わかった。なら、私も一緒に行く。」
「そう?わかった。」
(うん。これでいい。私が足をつるときに、私も陸にいなければ。)
私は和真と、一緒に、浜辺へ戻る。レジャーシートに座ってお茶を飲んでいる時、
「いたっ!」
(よかった。やっぱり足はつるんだ。)
「足、つったの?」
と聞かれ、
「うん。海の中じゃなくてよかった。」
と、私は答える。
「そろそろ着替えて帰る?足つったんなら、たぶん疲れてるんだよ。」
と和真が提案してくれた。
「そうだね。なら、着替えて片付けよっか。」
と、賛成した。。
海からの帰り道、駅まで歩いていた時、私は油断していた。前からふらふらと運転している車が、こちらへと突っ込んでくる。私は車体がかする程度だったが、和真は数メートル離れたところで、血の海の中で倒れていた…。車がぶつかってくる瞬間和真に誘導されたのは気のせいなのか…。
気がつくと、また家にいた。日付を見る。8月3日。また、1日が繰り返される。
また、前回と同じように、和真が溺れるのは防いだ。
「今回は必ず防いでやる!」
海からの帰り道、私は周囲を見渡す。その時、前方から車が1台こっちへ向かってくる。
「和真、ちょっとこっち!」
と、私は和真の腕を引っ張る。前回轢かれた場所と、反対の車線側に逃げる。案の定、車は一人で私達が元いた方のガードレールにぶつかっていった。
でも、やっぱり和真の死を、私は防げなかった。次は電車の中。電車が曲がれず、そのまま線路を乗り上げた。車体は横転。気がついた私は、頭を打って血が流れ出している和真の腕の中にいた。
もう、何度繰り返しただろう。そもそもの原因、海にすら行かない未来でも、和真が死ぬ未来しかなかった。1つ防ぐと違うところで和真は必ず死んでしまう。他人なら助けることが出来ても、和真はできなかった。この予知夢には、共通点なんてどこにもないはずだった。でも、確かにそうだ。この予知夢、必ず和真といる時に起きている。これは和真が死ぬ予兆だったのかはわからない。
そして、─毎回、和真に助けられているのではないか─
でも、和真が死んでしまう結末なんて嫌だ。私が導いた未来は1つ…。
前方からふらふらと1台の車がきた。案の定、和真は車に当たらないところに私を誘導していた。そして、車が来た瞬間─私は和真の手を引きくるりと居場所を交代する。その時の和真の顔は、とても驚いていた。私はそのまま車にはねられる。身体はズキズキと痛む。この痛みを和真は何十回と繰り返して来たのか。意識が遠くなる中、和真がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「なんで…!」
と、和真は私に言う。私は
「もう、和真を死なせたくない…」
と答える。そして、意識は遠くなり、途絶える間際
「やっぱり、救えなかった…!」
という、和真の一言が聴こえたきがした。
気がつくとオレは志織の家の前にいた。
また、ここから繰り返すのか…。
それは、繰り返される真夏の御話。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。この作品は、友達に悲しい感じのがいいと言われたので書きました。そこで思い浮かんだのが、ボカロのカゲロウデイズです。そのストーリーを思い浮かべながら書きました。ほぼ、その友達に向けてですが、読んでいただいた方々、ほんとにありがとうございます。