美しいお姫様
イエロー王国のお姫様は、世界で一番美しいらしいと誰もが噂しました。
ところが、実際にその美しい姫を見た者は誰もいませんでした。
そんなある日のこと、そのお姫様のお婿さん候補として何十人かの王子たちの名があがっていました。
王子達はイエロー王国を訪れ言いました。
「是非、私にお姫様をください」
王様は王子達に条件を言いました。娘の婿となり、この国を継ぐこと。一生娘と添い遂げること。
一番目の王子は自分の国の跡継ぎにならなければなりませんから、諦めましたが、二番目、三番目の王子達は色めきだちました。イエロー王国といえば、歴史も富もあるここら辺では一番大きな王国です。それに、加えて美しい姫と、添い遂げられるとはなんと幸せなことでしょう。
候補の王子達は、王国に呼ばれ、一人ずつあいさつをしました。その様子をお姫様は、奥の方でこっそり見ておりました。そして、ひとりの王子を選びました。
ブルー王国の3番目の王子でした。王子は自分が選ばれた事を非常に喜びました。顔は非常にハンサムで、鍛えた体は大変美しく、紳士的な態度に、王様もすっかり気に入った様子でした。
イエロー王国のお姫様は、病弱で人前に出ることもできないと言うことで、婚礼の式は一部の者たちだけで行われる事となりました。病弱だという事は王子は全く知りませんでしたので心配もありましたが、お姫様と会ってその理由が分かりました。
まるで、熊のように太った、醜いお姫様は、太りすぎて、立ち上がるのもやっとでした。王様はお姫様を非常に可愛がり、何でも与え続けました。お姫様は怠け者になっていき、何でも召使いに頼みました。ついには歩くことすらやめてしまいました。その結果わがままで、太った肉のかたまりと化していました。
王子は焦りました。この姫と一生を添い遂げるなどとても無理だと思ったからです。ただ、この王国を継ぎ手に入れられる事を考えると何とか我慢は必要だと思うばかりでした。
そして王様に「娘の事を口外してはならぬ」と約束をさせられたのでした。
何も知らない他の王子達は言いました。
「世界一美しい姫と結婚できるなんてなんとうらやましいことか。」
そのたびに王子はこう返事をしました。
「ああ、あれほど美しいお姫様は見たことなどないよ」
王子はお姫様を見るたび、とても悲しい気持ちになりました。夜の営みなどころか、キスすらする気になれませんでした。そして王子は姫を殺そうと思い立ちました。姫が糖尿病や高血圧という病気をかかえているのを知っていましたので、わざと美味しそうな物を手に入れては
「君に食べて欲しくて持ってきたよ」と言い、姫にそれを食べさせました。姫はますます太り続けました。
そんなある日の事、姫は言いました。
「私が醜いから、キスもしてくれなのでしょう。食べ物を与えて病気を悪化させようとしているのでしょう。分かっているのです、でも・・・・・この体は魔女に魔法をかけられてしまったものなのです。」
王子は姫のひどい現実逃避にうんざりしましたが、
「そうだったんですね。・・・では待ちますよ。あなたが本当の姿に戻るまで」
と言いました。どうせ戻りやしないだろう、王子は心の中でそう思いました。待つと約束したことで、迫られることもなく、しばらくは何もなくすごせるだろうと考えました。
翌日、朝起きると爽やかな気持ちになったお姫様は、痩せようと決意しました。痩せて美しくなって、王子に愛されたいと思ったからです。早速、運動のために立ち上がり、部屋の中を歩きました。窓から顔を出すと、王子の姿が見えました。
王子は若い召使いの女のドレスをまくりあげ、腰を振っていました。木の葉が邪魔で、女の表情は見えませんでしたが「おやめください」と聞こえた気がしました。姫は聞いたことがありました、女というのは男に抱かれると、やめて欲しいと口ではいいながら、体は喜びに満ちるものなのだと。お姫様は怒りに満ちあふれました。
姫は王様にこの事をすぐに伝え若い召使いの女は殺されました。若い召使いの女は死ぬ前に言いました。
「私はこんな事したくなどなかったのです。信じてください。王子様が無理矢理・・」
実際にそうでした。王子は男です。無理矢理押さえつけられたら、その力にはかなわないでしょう。そして王子という立場が身分の低い召使いはどうすることもできなかったのです。
お姫様は自分を裏切った王子が許せませんでした。何とか仕返ししてやろうと考えました。殺してもいいけれど、それでは物足りませんでした。結局、王様に頼んで、牢屋に閉じこめておきました。
お姫様はストレスでますます食欲が増しました。そして、ある日の事、召使いがお姫様の部屋に行くと、死んでいました。太りすぎて呼吸が出来なくなり窒息死でした。
それから数年後に王様がなくなりました。おきさき様は、お姫様が小さい頃に亡くなっていましたから、王国には誰も残っておらず、召使い達は城にある財宝を隅から隅まで持ち去っていきました。
牢屋に閉じこめられた王子の世話をしていた召使いは、王子のせいで殺された召使いの恋人で、王子を憎んでおりましたので、王子の牢屋の鍵を開けることなく立ち去りました。
現在、このお城は心霊スポットのひとつとして有名です。