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003.バ畜の理想と現実

 朝食を済ませた後、食器を洗い片付けたひよりがタオルで手を拭きながら隣接したリビングの様子をうかがうと、ひなたはテレビの前のソファにだらしなく座りながら手にしたスマートフォンでゲームに興じていた。

 見るとはなしに点けられたテレビからは遠くの地で起きた土砂災害のニュースが繰り返し伝えられている。

『昨夜までの大雨の影響で、××県では山の斜面が崩れる被害が相次いで起こっています。今の段階では死傷者が出ているという情報は入っていませんが、××村××地区へと向かう唯一の道が土砂崩れのため通行できなくなり、××地区は孤立状態になっているということです』

「ふぅん、大変ねぇ……」

 ニュースを見て反射的にそう言ってはみたが、ひよりは遙か遠くで起きたその事件にそれ以上の興味を引かれることもなかった。

「あっ、それよりもひなた! 見てないのならテレビは消しなさい!」

「おー……」

 ひなたに小言を言いながらテレビの電源を切ることの方がひよりには意義があったのだ。当のひなたは気のない返事をしながら片手を軽く振ってみせただけだった。

「はー、まったく……」

 弟の体たらくに落胆のため息をつきながら、ひよりは梁にかけてある時計で時間を見る。朝の八時を少し過ぎたところだった。

 ひよりもひなたも普段なら学校へ行く時間だ。だけど大学生のひよりは先週から、高校生のひなたも昨日から夏休みに入っていた。

 大学生の夏休み、といえば同級生やサークルの仲間と海水浴、夏祭り、花火大会に肝試し。イベントごとは目白押し! 勿論ちょっとした恋のアバンチュールもアリ! のはず。

(……そのはず、なんだけれど)

 ひよりとひなたには身寄りがない。両親はひなたが生まれて間もなく事故で亡くなったと聞かされていたし、唯一の身内だった祖父も昨年亡くなった。親戚がいるという話も聞いたことがない。

 幸い、祖父の遺してくれた遺産のおかげで、学校を辞めたり決まっていた進学を諦めたりせずに済んだけれど、遺産に頼り切りというわけにもいかない。大学生になったひよりはなるべくアルバイトをして家計を支えなくてはならなかった。

 結局、バイトを優先するためにサークルに入ることはしなかったし、同級生にもそれほど親しい間柄の友達は出来なかった。夏休みの予定はと言えば、バイトを除けば夏の大規模同人誌即売会に一般参加するくらいのものだ。勿論、即売会にはそれなりの気合いを入れているのだけれども。

(はぁ、想像してた華の大学生活とはほど遠いなぁ……)

 そんなことを考えてこっそりと苦笑いをしたひよりは時間を気にしながらいそいそとエプロンを脱いで、ひなたに声をかけた。

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