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010.黒い男と白い少女②

(なに、この子!? はちゃめちゃに可愛いんですけど!?)

 少女は呆然と自分に見惚れるひよりを見て困惑したように怖ず怖ずと黒野の隣に立ち、そのベストの裾をくいと軽く引く。そして、上目遣いに彼の名を呼んだ。

「戒十さん?」

(か……、かかかかか、戒十さん!?)

 親しげに呼ばれた名前に、ひよりは目を剥いて目の前の黒野と少女を見比べる。

 少女は助けを求めるように黒野を見つめている。その視線には、彼女が黒野に寄せる全幅の信頼が滲んでいた。

 逆に黒野の様子はと言えば、どうやら随分と慌てているようだ。少女の縋るような視線に怯み、ひよりの視線を気にしているかのような様子が見て取れた。

(ああそう、そういうこと――)

 思い当たってしまえば、脳裏は沸騰するように熱くなる。

 ひよりは操り人形のようにその場にゆらりと立ち上がると、キッと目の前の黒野を睨み付けた。

「マ、スタァァアァアァ!」

 怒髪が天を衝きそうなほど怒りを滲ませたひよりの剣幕に、たじろぎ視線を彷徨わせる黒野。ひよりは目の前のネクタイごと黒野の胸ぐらを掴んで自分に引き寄せると、にっこりと微笑んでみせる。しかしその目は少しも笑っていなかった。

「一回り以上も年下の女の子に手を出すなんて、イイ趣味してますねぇ? まさかとは思うけれど、彼女、未成年じゃないですよね?」

「ち、違う! 誤解だ! 彼女は未成年じゃないし、風呂を貸しただけで手を出してもいない!」

 ぶんぶんと必死に首を横に振って否定する黒野にゆっくりと目を眇め、真偽を確かめるように少女と黒野を見比べるひより。少女はその様子にぽかんとした表情を浮かべていたものの、すぐに自分に説明が求められていることに気付いたのだろう、きゅっと唇を引き結び真剣な顔を作って見せた。

「はい、戒十さんは困っていた私を助けてくださっただけです。誓って、やましいことはありません」

 少女はきっぱりとそう言って頷く。

 だがひよりは疑わしそうに眉根を寄せて彼女にしつこく訊ねた。

「……本当?」

「本当です」

「……本当の本当?」

「本当の本当の本当です」

 押し問答をしながらじっと少女の仄赤い瞳を見つめるが、嘘をついているようには見えない。

 それを確かめてから、ようやくひよりはほうと深い安堵の息を吐いた。肩を落とし、掴んでいた黒野の胸ぐらをぱっと放す。

 ようやく解放された黒野はひよりの手が届かない位置まで急いで距離を取ると、よれてしまったネクタイを手早く直してから、安堵に放心していたひよりになだめるような声で提案した。

「……突然のことで混乱しているとは思うけれど、色々説明したいこともあるから、一度落ち着いて話し合わないか?」

 ひよりはその言葉にぴくりと肩を揺らす。丸め込まれたようで(しゃく)(さわ)るのか、少し悩むそぶりをした。だがすぐに顔を上げ、小さく頷いてみせる。

「……わかりました」

 同意を得て今度は黒野が安堵の息を吐く番だった。

 しかし緩みそうになったその場の空気をぴしりと打ったのは、他でもないひよりのきっぱりとした声だった。ひよりは少女を気遣わしそうに見ると、こう宣言したのだ。

「でもその前に、彼女の髪を乾かして、きちんとした服を着せてあげましょう!」

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