001.梅雨明けと朝ごはん①
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長い間降り続いた雨が、今日はすっきりと止んでいた。
朝から晴れ渡り遠くにむくむくとした立派な入道雲を頂く空は、嫌でもこれから始まる夏を思わせる。
「やっぱり晴れると気持ちがいいなぁ」
キッチンでちゃかちゃかと手際よく朝食の用意をしながら、馬渡ひよりは全開に開けた窓から入り込んでくる夏の空気を胸一杯に吸い込んだ。マンションの中庭に植えられた木々から立ちのぼるさわやかな濃い緑の匂いがする。それは、まさに夏の匂いと言っていいのではないだろうか。
ひよりはその匂いに、わくわくする気持ちを禁じ得ない。
何せ、彼女は夏という季節が大好きなのだ。
(……暑いのは大ッッッッ嫌いだけどね)
そうやって軽くオチをつけて、彼女はふふと一人笑った。
「今日は何かいいことあるかな」
上機嫌で鼻歌まで披露しそうな調子のひよりは、その軽く駆け回るような気持ちに乗せてササッと手際よく朝食の準備を済ませてしまう。
今日の朝食のメインはベーコンエッグ。
それにサラダボウルとシリアルヨーグルトをつけて完成だ。
その朝食をダイニングのテーブルに運んできちんとセットする。
ひよりの分ともう一つ。併せて二人分。
(もう一つは素敵な旦那様の分! ……だったら良かったんだけどな)
あいにく彼女はごく一般的な大学生で、まだ結婚はしていない。……彼氏もいない。
くっきりとした二重の目蓋、強い好奇心にきらきらと輝く大きめの瞳、つんとした小さな鼻に、桜色をした薄めの唇。腰まで伸ばした艶やかな黒髪は後頭部の低い位置で一つに括られている。
まるで人形のように愛らしいひより。彼女は全くモテないわけではなかったが、だからといって過度にモテるというわけでもなかった。人並みには告白されたりもしたし、その流れでいい感じになった相手もいたのだが、結局自然消滅してしまい付き合うという段階にまで至った事はなかった。
それはただ、それ以上の縁がなかっただけだ、とひよりは主張する。
断じて、気分屋気味な性格や胸部の発育具合が残念だと思われたわけではないのだ。
(そうよね! それか、きっと私の美貌に怯んでしまったんだわ!)
彼女が精一杯のドヤ顔で自尊心を保っていた、丁度その時だった。