思惑は踊る
前半、これにてひと段落致しました。
召喚状の日時は次の休日。
……休日を指定してくるあたり、こちらに気を使ったようですが、折角の休日になぜ王宮なんて場所に行かなれはならないのでしょう。
非常用に不愉快です。気を使う所がどうも斜め上に行っているとしか思えません。
上級貴族にとって、王族直々の召喚は一種のステイタスらしいです。我が家のような下級貴族には関係のないことなので興味もありません。
名誉より実。
ステイタスよりお金と食べ物を下さい。
天候に恵まれる日が例年より少なく感じる今年。
どうか皆が無事に冬を越えられるように。
私が願うのはそれだけ。
私が幼かった頃は、たったそれだけのことが難しい程に、我が領地は枯れた土地でした。なんとか餓死者を出さずに済んだのは皆が協力し合い、我慢してきたからに他なりません。
私が魔法を覚えたのも、少しでも枯れた土地を豊かにする術があるならと縋った結果にすぎません。幸いにして魔法士が使える術だけでも、収穫量を増やす役には立ちました。それでも収穫量が増え始めたのはこの一、二年の間で、やはり不作や凶作に対する備えとしては十分だとは言えません。
魔術師に昇格すれば、使える術の範囲が広がります。今よりももっと規模の大きな術が使えるようになりますし、治癒行為も行えます。
できることなら薬学も学びたいところです。魔術の勉強の合間を縫って、養成学校の図書館で薬学関係の書籍を読み漁ってはいますが本格的に学ぶとなると、それなりの設備がある場所でなければ難しいようです。
休日の過ごし方としては、ミシェルと共に王都へ買い物などに出掛けることもありますが、私の休日は図書館で勉強が基本です。
なので。
「私は学ぶことが多すぎて忙しいのです。さっさと用件を仰って下さいませ」
大切な休日を潰して登城した私が通されたのは、前回と同じく騎士団のは応接室でした。目の前にはデュランディスク殿下とファルガス卿。
ここに通され、殿下とファルガス卿が来て既に半刻ほど。その間聞かされたことといえば、殿下の愚痴でした。
ナントカ公爵令嬢が煩わしいだの、大臣の何某が結婚しろと煩いだの……何処其処の誰の思考が如何だのと、私にとっては全てどうでも良いことばかり。
「愚痴を聞かせる相手をお望みでしたら、無駄に沢山あるそこらの彫刻にでも仰って下さい。何度も申し上げた通り、私は忙しいのですわ。用件が以上なら私はこれで失礼させていただきますわ」
私が腰をあげると同時に、ファルガス卿が吹き出しました。
「あははははっ!彫刻相手に愚痴って‼︎根暗すぎだろ」
「……確かに、根暗ですわね」
自分で口にしておいて言うことでもありませんが、殿下が彫刻相手に愚痴を連ねている姿を想像すると、なかなか滑稽な様ですね。
「お前等。俺を何だと思っている」
殿下が威圧するように低い声で唸るのですが、いえ。想像したものがモノですからね。威厳もなにもありません。
「何って。我がジルシード王国の敬愛する王家の嫡子様ですわね」
「俺の主人だ」
「……なんだろうな。一片たりとも敬意を感じない」
「敬意を払って欲しいなら、ちゃんとしろよ、王子様」
「くっそ!ジェルミ。後で覚えとけよ。それじゃ、ご希望通りの本題だ」
漸く本題に辿り付きました。いえ、ここまで時間が掛かったことの半分は私の所為なのですが。
居住まいを正した殿下は、今度は真面目なお顔で私を真っ直ぐに見つめてきます。
こうして改めて正面から見ると、やはり殿下は美しいお顔をしておられます。骨格は男性的ですので、女性的な柔らかさは感じません。
意志の強そうな目や引き締まった薄い唇は、硬質な色気さえ感じます。
いつもこうしていれば良いのに。
「交換留学の話は知ってるな」
「さて?何のことでしょう?」
「知らん振りはよせ」
ずばりと言ってくるあたり、やはりあの話は殿下の梃入れでしたか。
「あらあら。殿下は随分と余裕がないようですわね?ええ。聞いておりますわ。希望者を集め選抜試験を行うとか。私は留学など希望しておりませんのに、強制参加だと事務局の方に言われましたわ。おかしなこともあるものです」
私を無理矢理にでも引っ張り出すつもりなのでしょう?と聞けば、殿下がバツの悪そうな表情で目を逸らしました。
ふふ。ここで目を逸らすなんて、認めたも同然です。殿下は意外にも素直な方だと確信いたしました。
「魔術師養成学校の学生である以上、強制されれば否とは言えません。選抜試験は受けますよ」
私が微笑みを浮かべて言うと、殿下とファルガス卿の間にホッとしたような空気が流れました。
「隣国は魔術大国と呼ばれる程、魔術研究に力を入れている。もちろん魔術師養成学校も公立私立問わずに多くある。そのうちの最も歴史があり、実績も群を抜く魔術師養成学校との交換留学だ。勿論留学費用は生活費も含めて国が負担する。君にとっては悪い話じゃないだろ?」
どうだ?とドヤ顔の殿下。
「つまり選抜試験は私を公式に隣国へ送る為の建前で、必ず留学させる代わりに例の怪しげな新興宗教団体を探ってこいとおっしゃりたいのですね?」
「話が早くて助かるな。因みにこの留学の話を持ち掛けたのはこっちだか、隣国もかなり乗り気でな。留学生は俺の推薦、彼方の王太子が後見に就く」
なんか益々面倒臭い話になってきてませんか?これはやはり関わっては碌なことにならないでしょう。
「お話はわかりました。選抜試験には普段の成績も加味されますの?」
この質問は私にしてみれば賭けなのですが、殿下はそうは思わなかったようでした。
「いや。あくまでも選抜試験の結果のみで選抜する。それに公表はしていないが、日頃の行動も含めてある程度信頼できる生徒しか受けさせないように指示を出している」
「理由が何であれ、国の代表ですからね。その辺りの確認は怠りませんよ」
にっこりと微笑むファルガス卿だけど、それは当たり前だと思うわ。むしろ国の代表を送る上でソレを考えないなら無能も良いところです。
「勿論、君は学業優先で構わない。例の団体については合間に出来る範囲で調査してくれれば良い。調査上必要な経費は別途支払う」
殿下の言うところによれば、金銭面の心配は必要ないということになりますね。なんとも太っ腹……というよりそれだけ例の宗教団体を危険視してるということでしょう。
「全ては私が選抜試験で上位三名に入ることが前提ですのね……」
「そうなるが、その点に関しては心配していない」
「あら?どうしてかしら?」
「君の成績は調査済だ。君一人を留学させるなら選抜試験など必要ないとも思ったが、怪しまれるネタは少ない方が良い」
成る程。ほか二名は隠れ蓑ですか。
なんかもう、色々と思惑が分かり易すぎますね。
「それは、あわよくば宗教団体に潜入してこいと?」
「有り体に言えばそうだ」
有り体も何も、そう言っているとしか聞こえませんよ。三名が留学し、そのうち一人が自国にはない新しい宗教に関心を持つ。たった一人の留学生が関心を持つというよりは、汎用性の高い方法です。
殿下達も色々と考えていらっしゃったようですが、残念ながら私にはそれ以上に大切なものがありますので、素直に従う気はさらさらありません。
私は抱える胸の内を全て押し殺して微笑みました。
「せいぜい選抜試験試験に通るよう精進致しますわ」
言っておきますが、これまでの会話の中で私は「話はわかった」と申し上げはしましたが、依頼を受けるとはひと言も言っておりません。
相手の言質を取らないなんて、殿下もファルガス卿も甘いのですわ。
一部修正しました。
次回から中盤戦。
果たして殿下達はファナを隣国へ送り込めるか?
当然ながらファナにその気は皆無です。
中盤戦の前に、補足的な意味も込めて
幾つか閑話的なるがものを挟みたいと思っています。
【本編予告】
ファナ「卑怯者っ!」
殿下「お前よりマシだっ!」
ファルガス「どっちもどっちだよね」
ファナ・殿下「お前は黙っとけ」




