初めてのおでかけ
養成学校の講義にも大分慣れ、講義開始後初めての休日となりました。
この養成学校には六日に一日の休日があります。この日、私はミシェルと共に王都の中心市街地へと出掛けることにしました。
「私あのお店に用事があるから、ここで待っていてもらえる?直ぐに済むから」
そう仰るミシェルに頷き、手持ち無沙汰にミシェルが立ち寄ったお店の近くで人通りを眺めておりました。
僅かにミシェルと離れた間、私はただ立っていただけの筈なのに、何やら物騒な出で立ちの男性数名に取り囲まれてしまったのです。
「オジョーサン。オニーサン達に少し施しくれないかなぁ?あ、オジョーサンが俺達と遊んでくれるのでもいーんだけどさぁ?」
「ってか、すっげ可愛いーじゃん。俺達暇なんだよねぇ。オジョーサンも暇そうだし?ちょーっとイイコトして遊ほうよ?」
んー……。
なんと申しますか、あまりに定型過ぎて愛想笑いさえ出てきません。私は確かに貴族階級の子女ですが、なにせ日々働かなくては食べていけないという貧乏貴族。こういう方々にはかなりの免疫がありまして……とどのつまり、相手にしてはいけない輩だと把握しております。
治安の良さそうな王都にもこのような方々がいらっしゃるのですね。別の意味で感心してしまいます。
「申し訳ありませんが、貴方方に差し出せるものは何一つ御座いません。失礼」
私はぺこりと頭を下げ、その方々の隙間を縫って、輪を抜け出そうとしたのですが、一瞬反応が遅れまして、左腕を掴まれてしまいました。
結果。
日々の訓練は大事ですね。修行不足を実感しました。何故なら私は、条件反射と申しますか、掴まれた左腕を利用して、半身を捻って懐に背中から入り込み、その男性の鳩尾に力一杯肘打ちを入れてしまったのです。
それも最近覚えた身体強化の術を加味した状態で……。
男性が痛みに耐え兼ねて蹲った所に、ミシェルが戻って来まして。
「この短時間で騒動に巻き込まれてんじゃないわよ」
……という言葉を静かに、やんわりとした怒りを込めて呟いたのです。
私の所為ではないはずです!
「事情はあとで聞いてあげるわ。で、ソレ何なの?」
「見ての通りですわ」
「そうだけどそうじゃなくて。なんで捕獲してるの?罪状は?」
「差し当たっては恐喝でしょうか?丁重にお断りしたのですが、何故か怒り出して、私に掴み掛かっていらしたの」
「……それを確信犯って言うのよ?」
「あら?これはあくまでも自己防衛であり正当防衛ですわ」
「態と怒らせた癖に……今更だけど腹黒ね」
「何のことでしょう?」
ミシェルが眼を細めて私を見ていますが、私は無実ですわ。シラを切り通すと決め、明後日の方向に視線を逸らしてみます。……視線が痛いです。でもこういうやり取りは分かり合った友人同士っぽくて、ちょっと嬉しかったりします。
そんな私達の間に流れる白けた空気の漂う中、低い唸り声のようなものと、恫喝が割って入りました。
「何をガタガタ言ってやがる!其奴を放して、さっさと金出せ!」
私とミシェルは改めて顔を見合わせ……
「まだいたの?」
「忘れておりましたわ」
私もミシェルも、捕らえた男の仲間のことを完全に忘れておりました。
「クソガキ!おい、おまえら」
男の声に反応し、他の皆様が剣を抜きました。こんな街中で剣を振るう気なのでしょうか。
……あ。
「きゃあっっ!」
それまで見て見ぬ振りをしていた通行人から、突然の抜剣に悲鳴が上がります。ここが街中である事を完全に失念していた私の落ち度です。
仕方ないですね。
「ミシェル。少々お付き合いいただけますかしら?」
私のお願いにミシェルは呆れたように肩を竦め、それからにやりと笑いました。
「カッセルミー洋菓子店のケーキセットで手を打ってあげる」
「ええ。好きなだけご馳走致します」
カッセルミー洋菓子店は王都にある老舗洋菓子店で、王家御用達。もちろん人気店ですわ。こちらのケーキはどれも絶品で、私もミシェルも大ファンなのです。
「じゃ、ちゃちゃっと片付けよ」
やる気になったミシェルが言うと、私達に馬鹿にされたと感じたのか、怒りも露わに斬り掛かってきました。
街中で乱闘騒ぎなど起こしたくはありませんが、抜剣されたのではそうも言っていられませんからね。もちろんそれ相応に対処させていただきましょう。
ですが。
「激弱じゃない」
「…………」
時間にして五分も掛かっていないでしょう。私もミシェルも魔法は一切使っておりません。最初の方のことがありましたので、私も身体強化は解除しておりました。にも関わらずほぼ一撃で皆様昏倒されてしまいました。
「あ、ようやく軍の警備さん達が到着したようよ」
地面に伏した男の一人の背中をつま先で突くミシェルが、やや離れた場所から駆けてくる兵士数名を指差しました。
「では後は彼らにお任せしましょう」




