我儘令嬢の誕生です
魔術大国ブランドレス。
シーファミスでルディと合流した私は、ようやくその王都アルミナスに到着しました。アルミナスに入って私が一番驚いたのは、街の中がマジェスタよりも遥かに清潔であり、人々はまるで呼吸をするように簡易な魔術を使用していることでした。
ルディに尋ねると、上下水道は浄水の魔術回路を組み込んだ魔石を使い、自動循環させているとのこと。これはブランドレス国内全土共通の設備だそうで、ジルシードでも汚水処理には力を入れておりますが、国内全土となると未だ整備が追い付いておりませんので、参考になりました。
更に貴族の邸ともなると、掃除も魔術で自動的に行う仕組みがあったりするとか。散らかったり汚れたりすると邸に設置された魔石が通常の状態に戻るように判断して、勝手に片付けてくれるそうです。
……なにそれ便利。
「ルディ……私、魔術は万能ではないと知っているつもりですが、これだけ日常生活に魔術が溶け込んでいると、万能だと錯覚してしまいそうですわ」
「ははは。確かに我が国の魔術は他国に類を見ないほど発達してるからね。でも、街の皆が生活に使うのは必要最低限と、法律で決められているんだ。なにせ魔術馬鹿が暴走しがちだから」
「魔術が発展し過ぎるのも良し悪しということかしらね」
ジルシードでは魔力を持つ人間は限られていますが、この国では魔力を持たず生まれてくる方が少ないそうです。
その昔、まだ魔力という存在が浸透していなかった時代、魔力を持つ者は迫害の対象でした。ブランドレスはそうして迫害され、行き場を失った人々が集まって造り上げた、という歴史があります。そんな背景のある国ですから、鎖国的な国民性と言われると納得してしまいます。
「でも、排他的というわけじゃないから大丈夫。魔力を持たない者がこの国で蔑まれることもないし」
なんでもブランドレスの子供達は物心が付く前から、ブランドレス建国の理由を親から聞かされて育つそうで「違う」からと言って排除するのは間違いである、と諭されるそうです。
「……不思議な国ですね」
いくら諭されても、人間は異質な存在を忌避するものです。
「尤も、全くそういう事がないわけでもないんだけど」
「……でしょうねー」
さっきの誇らしげな説明はどこいったのよ。
そんな長閑な道中を過ごし、私はアルミナスの王城へと到着したのです。
ここから先は戦場です。
望まぬ事とはいえ、引き受けた以上は全力で期待に応えることも貴族の義務。私の矜持に掛けて必ず結果を出してみせましょう。
王城に到着した私は、ルディの案内で内々に国王夫妻へご挨拶に伺いました。
ですが。
「……ルディ?」
「いや……その……すまん」
私が通されたのは公式に謁見を行う広間ではなく、王の執務室に併設された、あくまでも王の私的な客人を迎える為の応接室。つまりこれは非公式の謁見という扱いなのでしょう。しかし非公式とはいえ記録は残されます。
しかも王妃様に宰相と将軍までもが揃っておられます。ルディから紹介された私が、思わず回れ右をしたい衝動に駆られてもおかしくないでしょう。
「初めまして。ブランドレス国王陛下並びに王妃殿下にお目通り頂きましたこと、恐悦至極にございます。私はジルシード王国ランデュオーナ公爵が孫、ファルファーナ=ヴァロア=ランデュオーナと申します。この度、留学受入の御許可を頂きましたこと、大変感謝しております」
ドレスの裾を摘み、入城前にルディから教えられたブランドレス流の礼を取ります。付け焼き刃ですが、ジルシード流と何が違うかと言えば、然程変わりはありません。ジルシード留学よりも腰を折る深さが浅いことと、頭は下げず相手の顔を見ていること、位でしょうか。
「ブランドレス国王、シューツァラムである。こちらは王妃アーリマリアじゃ。長旅でお疲れであろう。今夜はゆるりと休まれるがよろしい」
「アーリマリアでございます。ブランドレスはファルファーナ様を歓迎致します。明日の夜には内輪ではありますが歓迎の宴を予定しております。是非ご参加下さいませ」
シューツァラム陛下は威風堂々という言葉が相応しい、威厳ある御方でございます。アーリマリア王妃様は陛下とは対照的に繊細な美貌に穏やかな空気を纏った方です。
「御心遣いに感謝致します。つきましては両陛下にお願いがございます」
「ほう?申してみよ」
ブランドレス王は面白いものを見るような表情を浮かべつつ、許可を下さいました。
「はい。貴国における淑女の礼儀作法を、徹底的に教えて下さる方を紹介していただきたいのです」
「ほう?ジルシードの高位貴族の令嬢である其方が、我が国の流儀に従うと申すか」
「勿論にございます。短期とはいえ生活の場を移す以上、必要なことと考えております。郷に入っては郷に従え、と申しますから」
と言うか、むしろそれが出来ないようでは留学した所で何の意味もありません。私の留学の目的は全く別の所にありますが、何をするにもその場に馴染むということは最優先事項です。
それに折角の機会です。
訪れた以上は学べるものは全て学ばせていただきますよ?当たり前ではありませんか。
「良かろう。アーリマリア」
「はい。私の方でご紹介させていただきますわ。明日の昼にはお引き合わせ致しましょう」
にこやかに王妃様は請け合って下さいました。
「では堅苦しいのは此処までにして……すまないっ!」
シューツァラム陛下が突然がばりと、座ったまま深く頭を下げられました。
「あ、の……?」
ふと周りに視線を流せば、王妃様やルディ、同席していた宰相様や将軍様までが、これでもかというほど深く頭を下げておられました。
どうしましょうか?これ。
「我が国の宗教団体のせいで、ジルシード王国を始めとして周辺各国に迷惑を掛けていることは承知している。しかも国内の人員だけでは解決できず、貴女のような女性に助力を請わねばならないことは、国王として、また一人の人間として心から情けなく、また申し訳なく思っている」
……え?この状況は全く予想していなかったのですけど……
「私からもお詫び申しあげます。軍の最高管理者として面目次第もありません。せめて御身の安全だけでも必ずやお守りさせていただく所存です」
「宰相として、この事態を事前に防ぐ策を立てられず申し訳ない。我らに出来ることであればなんなりとお申し付け下さい」
えーっと……。謝られてもねぇ?
事態はもう動き出してるし。
困ってルディを見れば、ルディは諦めたように苦笑中。
「父上、彼女が困惑していますよ」
ルディがやれやれといった感じで口を挟み、漸く皆さん頭を上げて下さいました。
陛下方の気持ちはわからなくないのですけど、根本的にジルシードの思惑を勘違いしています。ジルシードにとってこれは「自衛手段」でしかないのですよ。
正直なところ、ジルシードから教団がさっさと出て行ってくれさえすれば、私がここに来ることも無かったのです。まぁ、そう言う意味では宰相の言葉が最もジルシードの思惑に適した謝罪でしょう。尤も態々そんな事実を教えるほど私は素直ではございません。
使えるものは使わせていただきますよ?
「宰相閣下」
「はい」
「今のお言葉は間違いございませんか?」
わたしは宰相閣下を真っ直ぐに見つめて、再度伺います。
「はい。私……いえ、ブランドレスに出来ることであれば、何なりとご協力させていただきます」
「国王陛下も、それで宜しいのですが?」
「うむ。勿論じゃ。無関係の、それも成人前の女性を巻き込む以上、王家が全力で其方を守ると約束しよう」
言質取ったぁーーーーっ‼︎
ふふふ……これで私とルディの作戦は実行可能となりました。
さぁ「甘やかされて育った貴族の我儘令嬢」を実演させていただきましょう?
あ、大切なことを忘れておりました。
「国王陛下。私、敵となる者は徹底的に叩き潰すと決めております。多少の被害はお許し下さいますか?」
ふふふ……害虫というのは作物の価値を下げる存在ですの。堆肥中の微生物は許容しますが、成長期や収穫間近の作物に被害を出すような、質の悪い害虫は徹底的に根絶やしにしておかねばなりませんものね?
「……無辜の国民が犠牲にならぬ範囲であれば、見逃そう」
私の笑顔に、なぜか国王陛下の頬が引き攣ったように見えましたが……気のせいですわね。
そんなわけで、漸く準備が整いました。
いよいよファナちゃんが全力で害虫駆除に乗り出します。
ってか、魔法はどこいった⁉︎
ドンパチ目指して頑張ります。
期末ということもあって、まだ少々仕事かバタバタです。せめて週一ペースで書けたらいいなぁ……。
ご拝読ありがとございました!




