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想定の範囲内で範囲外でした。

ぬおおおー!

投稿したつもりが、してなかったΣ( ̄Д ̄ )

 ブランドレス第二の都市、シーファミスはとても賑やかな街です。

 行き交う人々は皆活き活きとしていて、楽しそうです。

 ジルシードを発った時は港町をゆっくり見る時間もありませんでしたが、シーファミスでは一日くらい逗留出来ると聞いていたので、私はとても楽しみにしていました。

 ですのに。


「王太子が迎えに来てるですって⁉︎」


 なんとまぁ。

 わざわざブランドレスの王太子殿下がわざわざシーファミスまで迎えに来られ、私達が到着する数日前からシーファミス領主館で待っておられるとのこと。

 私が国賓としてブランドレス宮廷に迎えられる事は聞いていましたし、旅程も伝えられているとはいえ、まさか王太子自らシーファミスまで来られるなんて……。

 迎えが来るとしても、もう少し先の街だと予測していたのですが、先手を打たれたかしら?


「ともかく、支度をしましょう。メイリア、リーシュラン。手伝って下さい」


 二人に手伝って貰い、お爺様の館で用意していただいたドレスの中から、装飾が少なくシンプルなラインが上品な淡いブルーのドレスを選び、宝飾品も最低限に抑えました。

 今回、メイリアとリーシュランはお留守番です。代わりに私に付くのはお爺様の私兵である護衛騎士のバーミリウス。

 どこかの領主の歓待を受ける可能性を考慮したお爺様が付けて下さった、護衛兼エスコート役です。

 表向き、彼はランデュオーナ公爵家の遠縁にあたる子爵家の三男となっています。実際、彼が子爵家の三男であったことは事実だそうですが、ランデュオーナ公爵家とは縁も所縁もございません。嘘は真実を混ぜる程効果があるということですね。

 バーミリウスは背も高く、細身ながらも騎士らしいがっしりした体格で、無口ですがさりげない気遣いの上手な紳士です。騎士の正装を見事に着こなしておられまして、私、思わず見惚れてしまいました。

 このような方のエスコートを受けられるなんて、まさに役得ですわね。

 シーファミス領主が差し向けて下さった馬車に乗り込み、領主館へ到着したのは夕暮れ時。馬車からバーミリウスの手を借りて降りると、ずらりと使用人らしき方々が並んでおられました。


「シーファミスへようこそおいで下さいました。私はシーファミスを預かるナーヴァル=ド=スライドと申します。ジルシード王国ランデュオーナ公爵家のお噂は聞いております。彼の国が誇る大貴族のご令嬢を我が館にお迎えでき、恐悦至極にございます」


 嫌味かしら?と思いたくなるほど大仰な挨拶を受けましたが、これは私が慣れていないだけなのかしら?バーミリウスは少しも動じておりませんし……なんて感心している場合ではありませんでしたわ。


「わざわざのお出迎え有難うございます。ジルシード王国は南を預かるランデュオーナ公爵が孫娘、ファルファーナ=ヴァロア=ランデュオーナと申します。此方はランデュオーナ公爵の遠縁にあたる子爵家の方で、此度の留学に随伴して頂いたバーミリウス=ラドリフ=ツァーレン様です」

「……よろしくお願い申し上げます」


 バーミリウスが言葉少なに言うと、スライド卿が苦笑なされました。


「どうやらツァーレン殿は無口な方のようですな。いやいや、無理に会話をなさらなくとも結構。シーファミスに伝わる古い諺では『目は口程に物を語る』と言いますからな」


 どうやらスライド卿は細かい事は気にしない鷹揚な方のようですね。


「あぁ、こんな玄関先で申し訳ない。お二人共どうぞ中へ。王太子殿下がお待ちです」


 彼に案内された先は応接室のような部屋でした。

 スライド卿の後に続いて中へ入ると、そこには見事な輝きを放つ銀髪の正装が、優雅に紅茶を口に運んでいました。


「ファルファーナ嬢。こちらが我がブランドレス王国王太子、ルードレヒト殿下で御座います」


 スライド卿が紹介を終えるとほぼ同時にソファーから立ち上がった銀髪の美しい容姿の青年がふわりと微笑み、かと思うと突然片膝を付き、私の左手を取ったのです。


「ブランドレス王国王太子、ルードレヒト=アル=レイフォン=ブランドレスと申します。ランデュオーナ公爵家のご令嬢をお迎え出来て光栄に存じます。私のことはルディとお呼び下さい。親愛なる我が姫君」


 ……今、物凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのですが?

 そんな私の疑問を余所に、彼はその手に取った私の左手の甲にくちづけしたのです。


「……っ⁉︎」


 今まで、殿方からそのようなことをされたことはありません。私は思わず左手を引き、右手を振り上げてしまいました。

 そして。


「ファナ様!」

「……ってぇ……」


 バーミリウスの声と、パシンと乾いた音がしたのは同時でした。けれど無意識な行動に一番狼狽えたのは私でしょう。


「……っ‼︎もっ……申し訳ありませんっ‼︎」


 自分が何をしたのか気付いた私には、謝るしかできませんでした。もし私が冷静であれば、きっとなんのかんのと言い訳でもして、相手ーーこの場合は王太子殿下ですわねーーの非礼をあげつらって差し上げたことでしょう。


「くくく……。これはまた、随分と気の強いご令嬢だ。そして、とても可愛らしい方のようだ」


 王太子殿下は私に叩かれた頬を軽くさすって、愉快だと言わんばりに軽快な笑い声を上げたのでした。

 ここに至って、私は漸く自分を取り戻しました。私とした事が不覚を取りました。


「改めて、私はファルファーナ=ヴァロア=ランデュオーナ。咄嗟のこととはいえ、敬うべき王太子殿下に危害を加えたことは謝罪致します。大変申し訳ありませんでした。ですが、王太子殿下の行動も決して褒められるものではないはずです。国が違えば礼儀作法も違うとはいえ、未婚の女性の左手にくちづけるのは、私の国ではマナー違反ですわ」


 ジルシードのマナーでは、男性の女性の左手への口付けは、愛を乞うものであり、生涯の愛を誓うもの。逆に右手は親愛や経緯を示すものとされています。

 つまり、ジルシードの礼儀に則った場合、私は彼に求婚されたことになるのです。


「それは済まなかった。我が姫君」

「……ですから、私は王太子殿下に『我が』と呼ばれる憶えはないと申し上げております」

「私が相手では不服か?」

「私は勉学の為に留学を希望したのであって、結婚相手を探しに来たわけでは御座いません。第一、私は王族との結婚なんて髪の一筋たりとも望みません。そんな面倒は誠心誠意、お断り申し上げます」

「そういうことを言う女の子って、大体が王族との結婚を心の底で望んでたりするんだけどな」


 ……どうやら私の話を聞く気もないようですわね。

 いくら見た目が良くても、こちらの話を聞く耳を持つだけ、デュランディスク殿下の方が幾らかマシかもしれませんね。

 思わぬところでデュランディスク殿下を再評価致しました。


「……バーミリウス」

「はい」

「帰るわよ。話をまともに聞く気のない方と過ごす時間ほど無駄なことはありません。王太子殿下については、人の話に耳を傾けることすら出来ない、愚鈍で思い込みの激しい方であると報告なさい」


 私はくるりと踵を返しました。

 馬鹿に付き合っている時間は御座いませんもの。ご挨拶は一応済みましたし、これ以上ここに居ても愉快な気持ちにはなりませんでしょうから。こういう場合はさっさと引くに限ります。


「すまなかった」


 背を向けた私に掛けられた声。

 先程までの軽薄そうな声音でなく、真摯な気持ちの篭ったような声でした。ですので、私も首だけは其方にむけました。


「デュランから君のことは聞いていた。試すような真似をしてすまない」


 王太子殿下が頭を下げておりました。

 ……え?これ、私にどうしろと?

 私が短気を起こして臍を曲げたようではありませんか。まさかと思いますけれど


「……馬鹿?」


 思わず口をついた私の言葉にスライド卿とバーミリウスが硬直しました。

 まぁ、そうなりますわよねぇ。


「私は国賓として迎えられると聞いております。国によって礼儀作法が違うとはいえ、断りもなく自国のマナーを実行される殿下の行為は、国賓に対するものとしては不適切とはいわざるをえません。それをあたかも正当化するような謝罪の言葉に、どれほどの価値があると?王太子殿下の言葉は真摯に学問に向き合う女性全てに対する侮辱だと、理解なされませ」

「だから、すまなかったと……」

「私も子供ではありません。王太子殿下の謝罪は受け入れましょう。ですが私の矜持を正面から否定なさったという事実は残ります」

「手厳しいな。ならば君はどんな贖罪を望む?」

「そんなものいりませんわ。と言いたところですが……代わりに、この国における私の治外法権を黙認していただけるかしら?」

「つまり君の行動の一切を罪に問うな、と?」

「えぇ。……さて殿下。お互い忙しい身の上ですから、建設的なお話を致しましょう?」


 私がチラリとスライド卿に視線を送ると、殿下がスライド卿に頷いて退出を促しました。スライド卿を巻き込む気はありませんしね。

 バーミリウスには残って貰いますよ。彼は貴重な協力者兼証人ですもの。


「それで?建設的と言うからにはそれなりに実のある話と受け取って良いのかな?」

「ええ」


 改めてテーブルを挟んだソファーに向き合って座り直し、私はすっかり冷めてしまった紅茶を一口飲んで、言葉を整理します。


「王太子殿下は」

「ルディでいい。私もファナと呼ぶ」

「わかりました。ルディ様は何処までウチの殿下からきいておりますか?」

「様もいらん。君と私は対等であるべきだ」

「愚鈍と言ったことは訂正致しましょう。言葉が過ぎました。ごめんなさい」

「こちらもそれ以上に失礼を働いたからな」


 ははっとルディは朗らかに笑い声をあげました。第一印象は最悪でしたが、こうして腹を割って話すことができるなら、大丈夫でしょう。


「例の教団について協力は、感謝している。なにせウチの手の内が完全に読まれているようで、なかなか尻尾が掴めない。シーファミスに来たのも、この地が宗教を重要視していないからだ」

「つまりこちらでは教団の目が無いと?」

「全くない訳ではないが、王都に近いほど勢力は増す」


 ルディは眉間に深い皺を寄せて、深い溜息を疲れました。相当梃子摺っていらっしゃるご様子ですね。


「既に教団へ送り込んだ人間の内、五名が取り込まれ、その倍が命を落としている。何処かから情報が漏れているのは確実だ。ジルシードの申し出は有難い。まさかこんな大物が来るとは思ってなかったが」

「大物?私自身は何の権力もない、ただの小娘ですわよ?」

「だが、公爵の孫娘というのは他国では武器になる」

「そうですわね。その通りですわ」


 相手の揚げ足を取った形とはいえ、先程その武器を行使した私です。否定は出来ません。


「教団へはジルシードの諜報部の者が潜入します。私の役目は教団を支援している貴族の洗い出しです」

「デュランからひと通りの計画は聞いている。早速だが細かい所を詰めたい」

「賛成ですわ。では私から一つ提案があります」

「是非聞かせて貰おう」


 ……あら?

 私、晩餐に招待されたはずでしたわよね?

 首を傾げてルディを見れば、ルディが思い出したように苦笑しました。


「まずは晩餐を済まそう。スライド卿が張り切って準備していたから、期待するといい」


 シーファミスは海鮮料理が多いのだと、ルディが教えてくれました。



登場人物の容姿に細かく触れていないのは

滸の怠慢です。


容姿の描写って、難しいよね。


取り敢えず、ファナは美少女です。


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