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殴り込まれました。

視点を変えてお送り致します。

苦労症の騎士団長ジェルミ君です。

「卑怯にも程があるわ」


 騎士団の応接室で向かい合ったファナ嬢は、これまで俺が見ていた飄々とした空気から一変。研ぎ澄まされた氷の刃のような雰囲気を纏っていた。

 大至急の面会の申し入れがあったのは昨日の朝。


「なんのことだ?」

「とぼけないで下さいな。ミシェルのことです」

「ミシェル?……あぁ、ミシェルメイア=カールナント」


 以前読んだ資料を思い出す。

 設立以降、破竹の勢いで業績を伸ばし、今では王都有数の大店に成長した【カナン商会】の娘だったか。


「……ミシェルが、留学生として選抜されました。ミシェルを巻き込むつもりですの?」


 ファナ嬢の背後にどす黒い炎が見えるのは気のせい……じゃない。これはかなり本気で怒っているらしい。

 しかも表情は優雅に微笑みを浮かべているのだから、余計に怖い。


「いやいや、ちょっと待て!俺は無実だ!俺は何も聞いてないっ!」


 あまりの迫力に俺は、思わずソファーを盾にするようにして、腰を屈めて叫んだ。俺、これでも近衛騎士団長なのになぁ……

 情けなく思っていれば、威圧感が少し和らぎ、重苦しい溜息が彼女から洩れた。


「あなたでは話にもならないようです。第一王子はどちらですか」

「……デュランは今、いない」

「へぇ?……そんな見え透いた嘘、私が見抜けないとでも?」


 彼女は軽蔑の色を浮かべた琥珀の瞳を細めて、俺を睨んできた。

 その眼光といったら、手負いの獣のように険しい。

 けれど俺は本当に彼女が何を言っているのかわからなかったのだが、彼女が此処まで怒りを露わにしている以上、対応を誤るわけにはいかない。

 今の彼女なら、この兵舎を吹き飛ばすくらいはするだろうと、本気で思わせる何かがあった。


「本当だ。昨日から西辺境視察西出ているんだ」

「……ならば、何故貴方はここにいるのでしょうね?」

「君が大至急面会させないと、兵舎を吹っ飛ばすなんて言うからだろう!」

「本気でやるわけないでしょう。馬鹿ですか?」


 アールディータ男爵令嬢ファルファーナ。

 幼少時から一緒に育ち、今現在、俺が仕えるデュランディスク第一王子が目を付けた娘。

 彼女の第一印象は、魔法の才能に胡座をかいた賢しいだけの年下の娘だと、そう思った。だか、俺もデュランも完全に見誤っていたのかもしれない。


「まぁ、いいわ。それで西辺境のどの辺りですの?」

「知ってどうするつもりだ?」

「殿下に直接伺います」

「何を言っている?いきなり行って会えるわけな、い……⁉︎」


 彼女の言葉に一瞬だけ考えて、俺はやられた!と思った。

 西辺境は彼女の母方の生家であるランデュオーナ公爵家領の飛び地だ。しかも視察中はその別邸に宿泊する予定で……完全に俺の失言だ。


「お気付きになられたようですね。知ってまして?お爺様は私にとても甘いのですわ」

「待て。しかし君だって我々との約束を守っていないだろう?」


 朗らかに微笑む彼女の表情が、勝ち誇ったように見えるのは俺の目の錯角だろうか?

 そもそも、こちらの申し出を断った彼女がなぜ突然謁見を申し込んできたのか?

 彼女には隣国への留学にかこつけた好条件を提示し、彼女もそれを受け入れた。

 しかし彼女は試験を途中棄権したのだ。

 その件を俺が突きつけると、ファナ嬢は面白そうに笑った。


「約束?いいえ?確かに私は選抜試験は受けるといいました。ですからちゃんと試験は受けました(・・・・・)わよ?ですが途中棄権をしてはならないとは言われておりませんもの。途中で体調が悪くなって棄権しただけのこと。第一、合格することが全ての前提となっているお話なのですから、私が不合格となった時点でこのお話は成立しません」

 

 あぁ……こンっの‼︎女狐ぇぇぇ‼︎


「気は済みました?では私はお爺様の元へ飛ばなくてはなりませんので、失礼しますわ」

「えっ⁉︎ええぇ⁉︎待って!ちょっと待て!」

「まだ何か?」

「わかったから!俺が今すぐ確認してくるから!」

「どうやって?」

「あ、えーっと……兎に角!その違法取引の調査資料とやらはこっちで処分するし、何故そんなことをしたのかも、調査担当に事情をきっちり吐かせるから!」


 手にした扇を畳んだまま口元を押さえ、ファナ嬢が思案の色を濃くする。

 これでなんとか手打ちにしてくれ、と焦る気持ちを押さえるのに必死な俺。


「わかったわ。ひとまずそれで結構。当然、私も立ち会わせて頂けますわね?」

「はい……」

「ついでにミシェルの件も撤回していただきましょう」

「……それは、出来ないかもしれん」

「使えないわね」



 バッサリ切られた……。

 あー……デュランのやつ、絶対これを見越して西辺境視察を予定に組み込みやがったな。帰ってきたらキッチリ絞める。

 俺は部下に留守を頼むと、ファナ嬢を連れて兵舎から各行政機関が集まる外宮へ向かった。


「多分調査したのはレイモンド=マークだろう。殿下の懐刀と言われる切れ者だ」

「貴方は違うんですの?」

「俺は騎士だぞ?俺の担当は軍部」

「つまり貴方とそのレイモンド様とやらが第一王子の双璧ですか」

「そういうこと」


 兵舎から外宮まではそれ程離れてはおらず、しかも外宮は人の出入りが激しく、兵舎以上に慌ただしい雰囲気がある。

 俺は『外務部外商調査部』というプレートの掛かる部屋の前で足を止める。


「ここにレイモンドはいる。言っとくが、レイモンドはアクが強い。俺は奴に口で勝てた試しがない」

「……私にすら負ける貴方ですからね」

「本当に君は容赦ないね…」


 とほほ。

 俺、これでも優秀な指揮官として評価されてるんだけどなぁ……。


「レイモンド。入るぞー」


 俺が一声かけてドアを開けると、途端に紙の束が横から雪崩落ちてきた。


「ぎゃー!」

「……何をしてらっしゃいますの?」


 紙に押し潰された俺を、ファナ嬢が呆れた目で見下ろしていた。


「ジェルミ。お前は騎士だろうが?それ位避けろ」

「紙が雪崩落ちてくるとか、予想してねーよっ!」


 ついでに掛けられた声は、ファナ嬢に輪をかけて冷たい。

 二人の助けを借りて、紙の中から救出された俺は今、レイモンドを前に緊張している。


「レイモンド。カナン商会の違法取引について知りたい」

「知ってどうする?」

「あの商会がそんなことをするわけがないと、苦情が来てる」

「苦情?あれは機密文書だぞ?誰に聞いた」


 レイモンドは顔色一つ変えず、鋭く怜悧な目を向けてくる。こいつ本当に目付き悪いんだよなぁ。


「私ですわ。レイモンド=マーク殿」

「君は誰だ」

「私、ファルファーナ=ヴァロア=アールディータと申します。先日私の友人が第一王子殿下直々に呼び出され、その調査資料とやらを見せられたそうです」

「それで?」

「彼女はカナン商会のご令嬢で、資料の詳細に違和感があったといいますの。それで私が再度確認しに参りました次第ですわ」

「……君が見てわかるような代物ではない」

「あら?私、数字には強いの。これでも領地で会計監査をしておりましたもの」


 二人とも怖い。バチバチと火花が飛んでいるのが手に取るように分かる。

 俺、なんでこんなとこにいるんだろ……と軽く思考を飛ばしたくなった。

 俺が現実逃避している間に、二人の間では話が付いたらしい。


「大元の資料は何方が?」

「デュランが持ってきた。これだ。これを元に俺は精査しただけだ」


 ファナ嬢はレイモンドが差し出した資料をじっくりと読み込んでいた。


「……辻褄は合っていますが、根本的に全商品の市場平均価格が間違っていますね」

「はっ?」

「なんだと?」


 俺もレイモンドも目を見開いた。


「例えば、このアルニア産の茶葉。現在は確か市場価格は600メルク前後のはず。しかしここには960メルクとあります。カナン商会ではこの茶葉を650メルクで販売してます。いくら良い商品を安くがモットーのカナン商会でも、これでは赤字確定です。他商品も全て仕入れ値に対し販売価格が安すぎます」

「この資料は昨年の日付になっていますが、この仕入れ価格からして、これらは八年程前のサリア・クロニア戦争で物価が高騰した時のものでしょう。実際、この時は何処の商会も赤字に苦しんだようですから。そもそも、この資料の何をもって違法取引と言えるのですか?」

「商店側から提出される収支報告書の数字と合わないから」

「それだけ?」

「平均市場価格までは管轄外……」

「では、改めて現在の市場価格を早急に確認してください。こんなデタラメな資料で罪状をでっち上げられたのではたまりません。貴方方官僚の信用問題にも関わるのではありませんか?」

「直ぐに調べ直す」


 レイモンドは部下を呼び付けると、大至急調べろと指示を飛ばす。


「今日中には調べ終わる。明日、また来てくれ」

「わかりましたわ」


 満足そうに微笑むファナ嬢は、少し機嫌が良くなったらしい。レイモンドに感謝だな。

 部屋を出た俺は、そっと溜息を吐いて胸を撫で下ろす。


「それでは私は、殿下に会いに行って参りますわ」

「へ?」


 まだ諦めてなかったのかよ⁉︎


「ではご機嫌よう」


 ファナ嬢が手を振る、その足元には見たことのない魔方陣が輝いていた。


「ちょっ……待っ……あぁぁっ⁉︎」


 一瞬、眩しさの余り目を閉じてしまった俺が、慌てて目を開けたときには、彼女の姿はなかった。


「転移陣って……うそだろ」


 魔術師でも難しい転移陣をあっさり使って消えた彼女。

 あー…。うん。

 俺は何も悪くない。

 デュランの自業自得だ。






ジェルミ君はキャラ崩壊が進んでます。

頭良いのに、お馬鹿扱いされちゃうコです。


新キャラ、レイモンド君。

今後ちまちま出番を予定しています。

目付きは悪いけど、仕事熱心な真面目な子です。


【次回】


デュラン「ぎゃっ!」

ファナ「あら失礼。座標を間違えました」

デュラン「態とだろ⁉︎絶対態と間違えただろ⁉︎」

ファナ「私に踏み潰されるほど、悪いことをした自覚はおありですのね」

デュラン(……しまった。自爆した)

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