人質を取られました。
一人称単数で書くのって、難しい……
「……なんで?」
私は貼り出された留学生選抜試験の結果を前に、茫然と呟くしかできませんでした。
何故?
何故、彼女の名前が、ここにあるの⁉︎
『最優秀成績者 ミシェルメイア=カールナント』
「ミシェル……?」
私が隣のミシェルを見ると、ミシェルはギギギという音が聞こえてきそうな程不自然に私を見返してきます。
その表情はどこか青褪めているようにも見えます
「これは、どういうことかしらねぇ?」
「えっと、ですね……」
「ふふふ。ミシェル。私達お友達ですわよね。でも知り合ってまだ日も浅いのも事実。お互い、よぉ〜っく!話し合う必要がありそうですわね?」
「ちょっ……笑えてないっ!ファナ、全然笑ってないから!」
あら失礼。
つい 本音が顔に出てしまったようですわ。
私達は怯えたミシェルの手を引き、寮室に戻りました。
「さ、ミシェル。何があったのかサクサク吐いていただきましょう」
「あうう……」
ミシェルの目線が私の周辺を泳ぎ捲り、けれど私の方だけは決して見ようとしません。
「ミーシェールー?」
「………ごめん」
じっと見つめる私の視線に耐え切れなかったのか、ミシェルがしょんぼりと諦めたように項垂れました。
「私の家が商売をしてるのは、知ってるよね?」
「ええ。国内でも大手に入ると伺いましたね」
「父さんね、凄く頑張ってお店を大きくしたの。良質なものを少しでも安くって」
それからミシェルが話してくれたことは、私にとって怒髪天を突き抜けるレベルの話でした。
私とは別に、ミシェル個人へも第一王子から召喚があったこと。しかも絶対に誰にも秘密にするようにと厳命付きで。
首を傾げながら半信半疑で登城したミシェルは、実家に国から調査が入るかもと教えられたのだという。
違法取引の疑いがあるということ。
そんなことするはずがない!と反論したミシェルに提示された書類には、違法とされた取引の内容が示されていたのだという。
「そんな筈ないの。父さんは確かにお金儲けが大好きだけど、法に触れるような商売をするのは商人の誇りが許さないって、いつも言ってるんだもの」
なにより、そんな風に稼いだお金で家族を養うのは家長として恥じることだ、という持論の持ち主らしい。
「でも私は商売のことなんてわからないから、その書類の信憑性なんてわからないし、例え反論できたとしても、相手は王族なんだもの。一商人に罪をでっち上げるくらい容易だってこと、私にもわかる」
「……そう」
「だけどね、もし私が殿下の言う通りに働いたら、書類は破棄して、なかったことにしても良いって……」
なんてことしてくれてんだ、あの阿保王子!……っと失礼。言葉が乱れましたわ。
ミシェルは選抜試験を受ける気はないと言っていましたが、彼女の今の様子と今回の結果からして、彼女が選抜試験を受けたことは事実でしょう。
しかし選抜試験は一人一人行われていて、誰が受けているのかはわからない仕組みになっています。私は試験の途中で体調不良を訴え、途中棄権という手段を取りましたが、ミシェルはいわば実家を人質に取られた状態ですから、最後まで試験を受けざるを得なかった…
あの方々は、どこまでも私の神経を逆撫でするのが得意なようです。ええ。ここはきっちり御礼をさせていただかないと、私の気が済みません。
「ミシェルは、留学したい?」
私の感情はひとまず避けて、ミシェル自身はどうなのかしら?
「したくない……とは思ってない。留学生になるメリットは大きいし。だけどこんな脅されて行くのは、抵抗があるというか……それに行ったことのない場所に一人で放り込まれるのも、ね?なんか隣国って閉鎖的な国だし……」
「え?」
ちょっと待った。
今、一人って?私が聞いた話では三名だと……
それを言うと、ミシェルは苦笑した。
「なんかね、予算の関係で三人は無理になったらしいわよ」
本気でぶっ飛ばそう。あの腐れ外道主従め。
ミシェルは家族を、私はミシェルを人質に取られたようなものです。この状況は私とって大変不本意であり、許しがたい行為。
なんて小賢しい悪党なのでしょうね。
「話はわかりましたわ。ミシェルは何も心配いらないわ。私がなんとかします」
「ファナ?なんかすごく怒ってる?」
「ミシェルには怒ってませんわよ?そりゃもっと早く相談して欲しかったとは思いますけど、でもミシェルなりに考えた結果を否定できないわ」
「ごめんね、ファナ」
「謝りすぎです。さて。小賢しい悪党にはお仕置きをしなければなりませんわね」
ミシェルまで巻き込んだことを後悔させてやりますわ。ふふ……
「ファナ、なんか色々漏れてて怖いんだけど……」
####
私、ミシェルメイア=カールナントには、とにかく凄い友達がいる。
ファルファーナという艶やかな美少女で、魔法の才能もセンスも抜群。男爵令嬢なんだけど、貴族らしい外見とは裏腹に、とにかく自由で毒舌で真面目だ。
そんな彼女と過ごす日々は、本当に退屈しない。
面倒事が嫌いなくせに、トラブルにはよく巻き込まれるという、なんとも不憫な性質。
その都度「私を巻き込むのはやめて」と口にしている。
なまじ頭が良い上に技術もあるから、大抵のことは一人でどうにかしてしまうのも、それに拍車をかけているんだと思う。
そんな彼女はブチブチ文句をいいつつも、降ってくるトラブルを割と楽しそうに解決してる辺り、天邪鬼だなぁと、思いながら手を貸してる自分がいた。
けど、今回ばかりは。
今回は完全に私が巻き込んだようなものだ。
たった一度、町で絡んできた小悪党を捕まえただけのはすが、なぜか騎士団から呼び出されるという事態。
ファナから、私は待っているように言われ、宮廷作法なんて知らない私は、ファナ一人に全部押し付けることを悔しく思い、だけどどこかほっとしていた。
帰ってきたファナは事態の詳細を教えてくれて、もう何もないと笑っていた。
『騎士団長と第一王子相手に啖呵切っちゃったのよ』
と笑ったファナに青褪めつつも、ファナらしいと一緒に笑っていたのに。
『誰にも悟らせることなく、城に来て欲しい』
そんな召喚状が送られてきて、私は首を傾げたけど、なんの変哲も無い白い封筒で封蝋もされてない手紙の差出人は、この国で知らない者は居ない名前だった。
第一王子様は見目麗しく、文武両道。そして優しい方だともっぱらの噂で、そんな高貴な方に会えるかもしれないということに、私は浮かれてしまった。
だから、召喚された理由を第一王子殿下から聞かされた時は、頭から血の気が引いて倒れてしまいそうになった。
そんなはずないと信じていても、最高権力を前に啖呵なんてきれない。
場違いだったけど、私はこの時ほどファナを尊敬したことはなかったかもしれない。
せっかく「面倒に巻き込まれないように」ってファナが手を尽くしてくれたのに、私は自分で踏み付けた挙句、ファナにとって一番最悪の状況を生み出してしまったのだと悟った。
話が進まない……
もういっそ会話だけで進行してくれないかな……
誤字脱字ありましたら、ご指摘お願いします。




