俺は生きている 『甘い!』
神域の一つとされる世界樹の森。
そこは人が誰も住まない、ある島に存在している。
世界樹の森が存在する島。
周りは潮の流れが激しく船で進入することは出来ない。
空からも、不規則に吹く暴風により近づくことすら許されない。
何よりも世界中が作り出す強力な結界は島全体を覆っている。
このため、ほぼ侵入不可能な領域のハズだった。
だが、2人の幼児が世界樹の森に入り込んでから状況は変わりつつある。
2人の幼児の名はクレスとイリア。
そんな2人を中心に、世界樹の森では賑やかな1日が始まっていた。
~~
俺はガリウスと実践訓練中だ。
「甘い!」
彼の声は俺のアゴに掌打が入った瞬間に聞こえた。
一瞬、俺は気を失いかけるも何とか堪える。
通常の攻撃なら弱体化しているとはいえチート持ちだ。
このため、それ程のダメージを受けることはない。
ましてや気を失いかけることなど尚の事ないのだが……
ガリウスは効率的にダメージを相手に通す術を心得ている。
衝撃を体内に直接通すなど、いわゆる『防御力無視』という攻撃だ。
このため俺のチート能力による防御は軽減されている。
(子どもの俺に使っていい攻撃じゃないだろ!)
手加減という言葉を、長い人生の彼方に捨て去った目の前の老人。
彼に対して俺は毒を吐いた(心の中でだが)
それでも、ガリウスとは手合わせをする価値はある。
何故なら、ガリウスは人間相手の戦い方がうまいからだ。
自ら隙を見せて誘い込む。攻撃は防ぐのではなく逸らす。
タイミングを測り、目を僅かに動かすことで相手の注意を反らす。
力の使い方だけでなく、相手の心理も誘導している。
俺のような単純なヤツでは面白いように誘導されるだけだろう。
心理誘導は俺の頭では無理だと既に諦めている。
だから、力の使い方を学ぶことに集中している。
(しかし、獣王は手加減という物を知らないのか)
前世から今世までチート能力に依存して力押しで戦ってきた俺。
一方で、様々な戦闘手段を身につけながら強さを求め続けたガリウス。
技量の差は圧倒的で、俺はボコボコにされている。
そんな圧倒的な状況であっても、ガリウスは手加減をする気がない。
(9歳児に本気で襲いかかるとは……)
最初の頃は単純な手合わせ程度にしか思っていなかった。
だが、時間の経過とともにガリウスの攻撃は殺気を帯びるようになってきた。
(これ以上はヤバそうだな)
ガリウスの拳に込められた殺気。
それは、味方に向けて良いレベルを超えつつある。
身の危険を感じた俺は、訓練を中止することにした。
「ちょっ、待……」
「破ァ」
「グホッ」
俺が余計な事を考えたせいだろうか?
ガリウスの拳が俺の鳩尾に深く突き刺さった。
自分の足が地面から離れているのを感じる。
そして重力から俺の体が解き放たれたことも感じた。
(これが強さに憑りつかれた者の力か……)
そんな思いを抱きながら、俺は意識を手放した。
………
……
…
俺が目を覚ますと木で造られた天井が見えた。
そして俺の背中には柔らかい布……ベッドのようだ。
どうやらガリウスが建てた小屋で俺は寝ているらしい。
俺は自分の鳩尾部分に手を当てた。
(穴は空いていないようだな)
少し……いや、本気で心配だった。
穴が空いていたら生きているハズはないだろう。
その事は分かっている。
だが、あの獣王が放った一撃には心配させるだけの何かがあった。
穴が空いているかが心配になり後回しになっていた。
だが自分の身が安全であることが確認できたせいか、あることに気付いた。
(誰かが回復魔法を使ってくれたのか?)
俺の体には痛みがなかった。
獣王の殺気が込められた一撃を受けたのにも関わらず。
シルヴィア辺りが回復魔法を使ってくれたのかもしれない。
(ヤツに礼をいうのは癪だが仕方ない)
俺はベットから降りて、小屋のドアへと向かった。
まずはシルヴィアに例を言わないといけないだろう。
その後はガリウスに注意しておかないとな。
など、色々と考えながらドアノブを回した。
そして外に出ると……
「!……ク、レス」
イリアが目を大きく見開いて俺を見た。
彼女は小屋の壁に背中を預けるように立っている。
そして隣にはコーネリアがいる。
彼女は……泣きだした!
「よかった……心配したんだから」
目から溢れる涙を手の甲で拭いながら泣くコーネリア。
そんな彼女の鳴き声に釣られるかのようにイリアも泣きだした。
「本当に……良かった……」
イリアは涙を流しながらも笑顔を俺に向けてくれた。
本当に安心したような表情だ。
「クレス!」
イリアとコーネリアの声で俺が目を覚ましたことに気付いたのだろう。
ラゼルが俺の前まで走ってきた。
そして俺の肩に手を置き……
「生きていたんだな!」
その声は、心の底から出た悦びの声だったのだろう。
とても清々しく真っすぐな印象を受けた。
「クレスさん……」
少し離れた所でセレグが俺を見て泣いている。
その横ではシルヴィアが彼にハンカチを渡していた。
シルヴィアの目にも涙が光っているのが見える。
「クレス」
俺のために泣いてくれる仲間を見ていると後ろから声をかけられた。
後ろを振り返るとガリウスが沈痛な面持ちでそこにいた。
「すまなかった」
ガリウスは、覚悟のこもった声で謝罪した。
「まあ、気にするな」
「だがっ!」
たかが気を失っていたぐらいで大げさな……うん?
何で、ここまで全員が大げさな反応をしているんだ?
「1つ聞きたいんだが」
「……」
真剣な眼で俺を見るガリウス。
その眼は、真剣すぎて怖い程だ。
「俺は、どんな状態だったんだ?」
「…………」
俺が質問するとガリウスは目を逸らした。
その反応は相当……
「私が話すわ」
「いや、ワシが」
「今のあなたでは、自責の念に駆られて上手に伝えられないわよ」
シルヴィアは軽く笑みを浮かべながらガリウスを説得した。
その結果、俺がどんな状態だったかはシルヴィアが教えてくれることとなる。
血を吐き……
息が止まり……
胸部の骨は砕け……
内臓は……
詳しくは説明はしない。
ただ、ハードな状態だったとだけ言っておく。
……よく生きていたな俺。
書いたまま、投稿するのを忘れていましたm(_ _ )m




