表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-D 凄い勇者達の日常
92/207

俺はケンカを見た 『男って本当に馬鹿』

 王都の中心部には城がある。

 そして、城へは一本の広い道が街を横断する形で存在しており、この道を挟む形で広がる場所は中心街と呼ばれている。


 普段から人の多い場所だが、今日は不自然な人だかりが出来ていた。


「なにかやっているのか?」

「行ってみる?」

「そうだな」


 気になった俺達は人だかりの中に入っていく。

 何とか人混みを抜けたかと思うと、コーネリアが足を止めた。

 

「……」


 コーネリアは何も語らない。

 彼女の顔からは感情が消え、眉一つ動かない表情は凍りついたかのようだ。

 

 コーネリアが視線を向ける先には男性と女性がいる。

 だが、その男女は『異常』だとしか言えない光景を作り出していた。

 

 そこに在った光景は……

 男は裸で、女は剣を男に突き付けているという珍しい光景だ。


 剣を突き付けている女性はヴァネッサだった。

 かつて魔王転生の儀式で生贄にされかけてからも元気に過ごしていたようだ。

 

 しかし、惨劇が間近な現状では、彼女の息災ぶりを素直に喜べない。

 

「立たんか!」

「ひっ」

 

 ヴァネッサは、秘部を隠した男に向けて剣を向けたまま怒声を上げた。

 

 茶髪の男は尻餅をついている。

 冷たい石畳の上で、彼は股間に布を押し付けて必死にぶつを隠そうとしていた。


 その姿は、同じ男として哀れだとしか言いようがない。

 

 もちろん彼女が言った『立たんか』の『立』は変な意味じゃないぞ。

 字も違うしな。

 

「あれは酷いな」

「……」

 

 何も喋らないコーネリアを見ると、頬を赤くして男から視線を反らしていた。

 彼女が言葉を返すのを期待して顔を覗いてみると……

 

「……」

「悪い」

 

 睨まれてしまった。


 恥ずかしがっている顔をマジマジと見られるのは嫌なようだ。

 まあ、当たり前だよな。

 

(それにしても……)

 

 コーネリアに叱られた俺は、男へと再び視線を向けた。


 男は一生懸命に布でぶつを隠している。

 その姿に同じ男として、憐憫の情を感じずにはいられなかった。


「お、俺が悪かった」

「遺言は、その言葉で良いのか?」

「すまな……」

「ふっ」

 

 ヴァネッサの怒りは頂点を超えたのだろう。

 怒りは180°ひっくり返り、狂気を感じさせる笑みとして彼女の口から洩れた。


 狂人のみが見せられる微笑みのあと、剣を振り上げるヴァネッサ。

 このとき、男の命は風前の灯となっていた。

 

(一体、何があったんだ)

 

 余りにも哀れな男の姿を見て興味がわいてきた。

 だが、俺は仮面を付けた姿でしかヴァネッサとは会ったことがない。

 このため、理由を直接聞くわけにもいかない。

 

 かと言ってイリアに聞いてもらうのも後ろめたさがある。

 さすがに全裸の男についてとかイリアも聞きづらいだろう。

 

 そんなことを俺が考えている間に、事態は進んでいく。


 野次馬から悲鳴が上がったと同時に風を斬る音がした。

 それはヴァネッサが全力で振り下ろした剣が風を切る音。


 だが、男もヴァネッサと同様に手練てだれだったようだ。

 彼女の剣を男は横に転がって避けていた。


「避けたか」

「…………」


 こう言ってヴァネッサは、振り下ろした剣を再び構えた。


 男は、よほど彼女の剣が怖かったのだろう。

 息を詰まらせそうになりながら呼吸をしている。


(いや、あの顔は凶悪な魔物に襲われて絶望した人間の顔だな)


 男の顔が魔物に襲われた者の顔と同じだと気付き、俺は1つの事実に気付いた。


 その事実とは、男が恐れているのは剣ではないということ。

 男の目にはヴァネッサが凶悪な魔物のように見えているのかもしれない。

 だから、あのような死相まみれの顔をしているのでは?


 俺は、このように結論ずけた。


 1つの結論が出て頭に考える余裕が生まれたのだろう。

 少し冷静になった俺は、男が深刻なダメージを受けていることに気付いた。


咄嗟とっさに避けたため、汚い物が布からはみ出ていたのだ。 


 己が受けたダメージに気付かない男は、ぶつさらしたままヴァネッサと口論を開始した。


 2人の熱い口論を他所に、野次馬の間には不思議な空気が生まれている。


 だが生温かい空気という点では、全員の様子が一致する。

 ただし、人によって僅かに反応が違う。

 

 苦笑いを見せる者(男性多数)

 悲鳴を上げる者(女性多数)

 興味深そうに眺める者(一部の男女)

 ロリエルフの目を隠す者(シルヴィア)

 

 いつの間にかシルヴィアが野次馬に混ざっていた。


 彼女の周囲には、数名のロリエルフ……それともショタエルフだろうか?

 性別は分からないが小さなエルフが数名いる。

 

 ロリエルフ達のことを指摘したら面倒なことになるだろう。

 彼女達の存在は無視することにする。


 シルヴィア達から視線を男の方に戻すと、コーネリアの姿が目に入った。

 彼女は、まだ視線を反らしたままだ。


(コーネリアには、まだ早いな)

 

 あんな物を見せて妹をけがしたくない。

 俺は妹の腕を掴み足早にすぐにこの場を離れることにした。

 

 ヴァネッサと男の間で、なにが起こったのか?

 それは、後でシルヴィアに聞くとしよう。


 ………

 ……

 …


 これは後日談になる。

 俺はシルヴィアに、なぜヴァネッサが怒り狂っていたかを尋ねた。

 

 この話は、コーネリアも気になっていたのだろう。

 一緒にシルヴィアの話を聞いた。


 シルヴィアの話によると……

 殺されかけていたのは、ヴァネッサの弟だったらしい。

 そして辺りに散らばっていた布は、ヴァネッサに剣で切り刻まれた彼の服。


 あの場所で、ヴァネッサは弟と待ち合わせをしていた。

 

 そこへコッソリと彼女の後ろから現れた弟君おとうとくん

 あろうことか、彼はヴァネッサの胸を後ろから……

 

 この直後に彼は殴り飛ばされる。


 しかし、彼は変な属性を有していたのだろう。

 殴り飛ばされながらも彼はヴァネッサの服から手を離さなかった。


 ヴァネッサは勇者として己を鍛えており、引っ張られても簡単には倒れない。

 弟君は体格が良かったので、体重もあったハズだ。


 ヴァネッサが倒れないので、弟君の人並み以上の体重は服に全てかかり……

 その結果、彼女の服がどうなるかは、お分かりになるハズだ。


 ちなみに俺が現場を目にしたとき、ヴァネッサは男性用の上着を着ていた。

 あの上着は弟君から剥ぎ取った物だと俺は推測する。



 この話を聞いたコーネリアは一言だけ口にした。


「男って本当に馬鹿」


 シルヴィアは、その言葉に頷いたあと2人は見つめ合った。


 彼女達は視線だけでなにかを分かりあったのだろう。

 溜息をついたあと、2人で俺に冷たい視線を送ってきた。


 その視線の痛さは、男にしか分からない物だと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ