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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-C 凄い勇者は旅行をする
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俺は夜の祭壇を見学した 『墓場みたいだな』

 俺はセレグを犠牲にして外に出た。

 彼の犠牲を無駄にしないためにも、しっかりと外の世界を楽しもうと思う。


 すでに辺りは暗くなっている。

 だが俺も少しは戦えるから問題はないハズだ。

 

 で、勇者召喚の祭壇を身に行くと言ったらイリアもついてきた。

 シルヴィアがイリアに何か言った後で一緒に祭壇に行くと言った。

 何をシルヴィアに言われたのだろうか?

 

 気にはなったが、何を言ったのか尋ねはしなかった。

 野暮な奴だと思われるのが嫌だったからだ。

 

「祭壇を見に行くのですよね」

「ああ、俺が召喚されたときは夜だったからな。懐かしくなったんだ」

 

 今は質素で見所が全くない祭壇。

 俺が召喚された時は魔法なんかで凄かったんだ。

  

 この後、俺とイリアは他愛もない会話をしながら祭壇へと向かった。

 

 

~勇者召喚の祭壇前にて~

 

 今日は満月のため夜であるにも関わらず明るい。

 

 暗い場所を見る魔法もある。

 だが夜の祭壇を見たかった俺は魔法を使わないことを選んだ。


「夜の祭壇というのは、なんというか……」

「墓場みたいだな」

 

 ほぼ白一色で統一された祭壇に、墓石をイメージするかのような6本の柱。

 

 廃墟や墓場を思い浮かべざる得ない、不気味としか言えない光景だ。

 

「もう少し明るくするか」

「あっ 大丈夫ですよ。このような感じもおもむきがある……かもしれませんし」

 

 イリアはおもむきがあると断言が出来なかったようだ。

 特別な趣味がある人間にしか愛せない光景だから無理もない。


 あと、明るくするのを断ったのは、夜の祭壇を見たいと言った俺に配慮してくれたのだと思う。

 

「俺が召喚されたときも、魔法で明るかったから問題はないぞ」

「そうですか? では明るく……」

 

 イリアが言い終わる直前、周囲に目が痛い程の光が広がった。

 

「なっ!」

 

 周囲に広がる光。

 これには覚えがある……そう、勇者召喚の儀式で発せられる光に似ていたんだ。

 

 しかし何の光か心当たりがあっても今は出来ることが無い。

 俺は目に刺さるような光を遮るように手で影を作り、光が収まるのを待った。

 

 ………

 ……

 …

 

 光は数分続いた後に収まった。

 

「イリア! 大丈夫か」

「はい、少し眩しかったですが」

 

 光が収まった後も、俺は目が眩み周囲を目で確認できずにいる。

 だからイリアに声をかけることで無事を確認することにしたんだ。

 

 一瞬、勇者召喚の儀式による光だと考えたが、今は違うと思っている。

 なぜなら勇者召喚には儀式が必要であるからだ。


 勇者召喚による光の可能性が無くなった為、現状では光の正体が分からない。

 

 だから俺は周囲の気配や魔力に意識を向けていた。

 右手に短剣を持って……

 

 短剣を持っているのは何者かの襲撃を警戒したからだ。


 周囲に意識を向けていると、光が生じる前との違い気付いた。

  

 円状に並んだ柱の中央部分に魔力を帯びた何かがあるようだ。

 まだ目が眩んでいるため何があるか分からないのだが。

 

 柱の中央部分は召喚された勇者が立っているハズの場所。

 このため一瞬だけ誰かが召喚されたとも思ったが違うと思いなおした。

 何度も言うが、儀式を行わずに勇者召喚は出来ないハズだからだ。

 

 それに、今は何者かの襲撃を考慮し警戒するのが最優先だろうしな。

 

 警戒していると、時間が経つにつれ視力も戻ってきたようだ。

 少しずつ視覚に意識を向けていく。

 

 さらに時が経つと、視力は完全に回復した。

 

 視力の回復した俺はイリアの方を横目で見る。

 すると彼女もまた剣を抜き警戒をしていたことが分かった。

 

 ──ちゃんと警戒していたか。


 油断が命取りになる勇者という職業。

 ちゃんと、このことを理解していると感じて俺は感心した。

 

 もし警戒していなければ、特別な訓練が必要になったハズだ。

 例えば、ラゼルやセレグと一緒に地獄の訓練(ガリウス作)に挑戦とか。

 

「クレス、柱の中央を」

 

 イリアの言葉を聞いた俺は柱の中央に目を向ける。

 

 まずい。地獄の訓練を思い浮かべて、俺は周囲から意識を離して妄想していた。

 ガリウスに知られたら、俺が地獄の訓練を受けていたことだろう。

 

 ──やっぱり平和ボケしているか。

 

 先のことを考えて、俺はガリウスの訓練を受けるべきだろうか?

 もちろん地獄の訓練以外をリクエストするがな。

 

 しかし、今は先の事よりも現状の確認を優先する。


 視覚の戻った俺は6本の柱が並ぶ中央を注視することにした。

 すると、1本の剣が宙に浮いていることに気付く。


 先程の魔力を探った時に感じた『魔力を帯びた何か』はこの剣なのだろう。

 

 正確には1本の剣とは呼べない物だ。

 何故なら刀身の大半が砕けた様に失われていたのだから。

 

 その砕けた跡が残る刀身は深い赤色をしていた。

 赤よりも鮮やかな色だから紅と表現した方が良いかもしれない。

 

 つばは金色で、手で持つの部分は青い布が巻かれている。

 

 俺は、この剣を見て夢を思い出していた。

 教会で祈りを捧げる金色の髪をした女性。

 目の前にある剣の鍔は、彼女が手に持っていた剣の鍔と同じ形をしている。

 

 いや、夢で見るよりも、ずっと昔に俺は……

 

「…………」

 

 一瞬、俺を呼ぶ声を聞いた気がした。

 だがクレスではなく前世スバルでもない別の俺の名を呼ぶ声だ。

 

 俺は……

 

「クレス!」

 

 再び声が聞こえた。

 先ほどよりも、ずっと鮮明な声が。

 

 俺は、ゆっくりと声のした方に顔を向けた。

 

 この時の俺を自失したというのだろう。

 自分が何者なのか分からなくなっていたんだ。

 

 俺が顔を向けた方向には、青い瞳の少女がいた。

 

 心配そうに瞳を潤ませて俺を見る少女──イリアか。

 

 数秒の間を置き目の前の少女がイリアであると気付いた。

 そして自身も少しずつ取り戻していく。

 

 ──俺はクレスだ。

 

 さらに数秒が経つと俺は完全に思考の世界から戻っていた。

 剣を見た瞬間に思いだそうとした記憶を思考の彼方に追いやり……

 

「良かった」

 

 イリアは心の底から安心したかの表情を見せてくれている。

 先程まであった緊張の色は、彼女の瞳から消えていた

 

「これを」

 

 イリアは白いハンカチを、そっと俺に差し出した。

 

「ハンカチ?」

「涙が……」

 

 彼女に指摘された俺は自分の頬を右手の指で触れてみる。

 すると冷えた液体が頬を伝っていた。

 

 少し時間が経ち涙が冷えたようだ。

 一瞬だけ思い出しそうになった記憶に流した涙なのだろう。

 

 何を思い出そうとしたのだろうか?

 このように考えても何も思い出すことは無かった。

 

「クレス?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 イリアを再び心配させてしまったようだ。

 これ以上、心配させないように俺は笑って答えを返すことにする。

 

 そのまま笑顔でハンカチに手を伸ばす。

 

「ありがとう」

「いえ」

 

 イリアもまた笑顔で応えてくれた。


 そして受け取ったハンカチで鼻をかんだ。

 と、いうようなお約束はしなかった。


 俺だって、嫌われたくはないからな。


 借りたハンカチで涙をぬぐった俺は、先ほどの剣へと目を向けた。

 さっきは気付かなかったが──光っている。


 なんというか、心臓が動くようなリズムで光が強くなったり消えたり。

 それに折れた部分から魔力が靄のように漏れている。 


 薄っすらとした靄の向こうで、生きているように鼓動する剣。

 かなり怖いぞ。

 

「あの剣は……どわっ」

「ク、クレス!」

 

 俺は剣を話題にしようとして驚いた。

 柱の中央部分にあった剣が、目を逸らした合間に移動したからだ。


 それも俺のすぐ近くに。

 

「いつの間に」

「まるで自分の意思を……」

「怖いことを言わないでくれ」

 

 刀身が砕けた剣が宙に浮いて近づいてくるって言うのは怖い。

 持ち主の怨念が……って考えたくなる。

 

 ──関わらない方が良いだろう。

 

 俺の脳は、この剣とは関わらない方向で結論を下した。


「帰るか」

「えっ、剣はどうするのですか」

「置いていけば、誰かが引き取ってくれるハズだ」

 

 仮にも勇者召喚の祭壇で呼び出されたっぽい剣なんだ。

 ザイオン辺りが大切に保管してくれることだろう。

 

「帰ろう」

「あのっ……はい」

 

 俺は祭壇に背中を向けて帰ることにした。


 イリアは剣の方をチラチラと何度か見た。

 だが最終的には置いていくことにしたようだ。

 

 ………

 ……

 …

 

 勇者召喚の祭壇から、泊まっている空き家まで歩いて数分の距離だ。

 俺とイリアは魔法で作った光の球を宙に浮かせ歩いている。

 

 光の球を浮かせるのは、警戒していますよ~という合図でもある。

 変なことをしたがる奴なら、自分の顔を見られるリスクは避けたいだろうしな。

 

 歩いて3分ほどした頃──

 

「クレス……」

「何も言うな!」

 

 俺は後ろを振り返らずに歩いていた。

 

「ですが……」

「大丈夫だ!」

 

 俺は自分の気持ちを奮い立たせようと、強く言葉をいい放っている。

 絶対に後ろは振り返りたくない。

 

「あの……」

「走るぞ!」

「えっ はい!」

 

 俺とイリアは走った。

 子どもとは言え鍛えている俺とイリアは中々のスピードだ。

 

 そして空き家に辿り着くと、即効で自分の部屋に行き布団代わりの布を被った。

 

 ………

 ……

 …

 

~翌朝~

 

 翌朝、外から悲鳴が聞こえた。

 メンバーの全員が玄関の方へと走る。

 俺も、すごく嫌な予感を抱きながら玄関に向かった。

 

 玄関では、コーネリアが尻餅をついていた。

 

「…………なに……コレ」

 

 怯えたコーネリアは可哀想なことに震えている。

 そんな彼女の視線が向けられた先には、刀身が砕けた紅い剣が浮いていた。

 

「ク、クレス」

「…………」

 

 俺は絶句して何も言えずにいる。

 今は朝だから日が出ているが、夜にこの光景を見たらホラーでしかない。

 

「クレス……」

 

 メンバー全員の視線からは、『また馬鹿をやったのか』という思いを感じた。


 いや、2人だけ違う思いを込めた視線を送っている人物がいる。

 事情を知るイリアと剣に驚かされたコーネリアだ。

 

「お兄ちゃん!」

「すまん!」

 

 俺はコーネリアの怒りに満ちた声を聞き反射的に謝ってしまった。

 この謝罪により俺が馬鹿をしたということが確定してしまう。

 

 イリアは不可抗力だとメンバーに説明してくれた。

 だが、剣から逃げた俺の責任だと言う結論で落ち着いてしまう。

 

 この結果、俺と妹は1時間ほどのコミュニケーションを行うこととなった。

 兄が正座をして妹の話を一方的に聞くという珍しい形で──

刀身が砕けた剣は結局、俺のアイテムBOX内に収納することになった。

実際に手に取った時に分かったことだが、この剣が俺を追いかけてきたのは、怨念が原因ではなく、俺の魔力に反応したからだと分かった。


だが、なぜ俺の魔力に反応したかは分からずしまいとなったが……


~以下は今回の剣と似た物の説明~

意思を持つ剣をインテリジェンス・ソードと呼ぶ。

この世界にも存在するハズだが、宙に浮いて自分の意思で近づいてくる剣など聞いたことが無い。


シルヴィアに渡したレイヴン・ソードも持ち主が命じないと宙を飛ばない。

しかもレイヴン・ソードは刀身が砕けた場合、術式が壊れてタダの剣になる。

だが目の前の剣は刀身が砕けようとも宙に浮いているのは異常なんだ。

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